ガチャのレアリティで最低の【NTR】
結局、なんか食欲が失せて、俺は最後まで弁当を食べられなかった。
これが琴音ちゃん作ラブラブ弁当なら、話は別なんだろうけど。早く食べたいなあ。
「……あれ? 祐介くん、もうお昼ごはん食べないんですか?」
「うん。なんか食欲なくて。中身も昨日の残り物だったし」
「なんだ祐介、もう食べないのか。じゃあそのカキフライ、もらってもいいか?」
そう、昨日家へ帰ったら、なぜか緑川家の食卓もカキフライだったのである。すでにカキフライ欲が満たされていた俺は再度食べる気にならなかったので、今日の弁当へと回されたわけだ。
四つあったうちの二つは食べたので、残り二つをナポリたんの弁当箱へと移す。
「はい、どうぞ遠慮なく」
「おお、ありがとう祐介。やっぱカキはフライに限る」
「ジェ、ジェームズさんもカキフライ好きなんですか?」
「……も?」
会話の流れに乗れなくて理解が追いつかないナポリたんだが、そんな疑問はカキフライの前ではどうでもいいこと。それ以上は何も言わず、黙々とカキフライを食べるナポリたんを生暖かい目で見守ることにする。
「……ま、ナポリたんは部活もあるし、エナジー補給しないとならんからね」
小さい身体では燃料タンクも小さかろう。
そう思って出た言葉ではあったが、すぐさま否定が返ってきた。
「ん? ああ、今日は部活がないぞ。バババーバ・バーババが何やら用事があるとかでな。ボクもいろいろ重なって忙しいから助かったが」
「……は?」
「祐介、今日のバババーバ・バーババを見たか? いかにも一張羅です、みたいなスーツを着ていただろ。いつもはジャージ姿なのに」
「……見てない」
俺はそう答えつつ琴音ちゃんに視線を送ったが、琴音ちゃんも首を横に振るだけだった。
「む、そうか。いやな、裏付けはないが……馬場が今日あたりに、池谷の母親にプロポーズするんじゃないか、とボクは勘繰ってる」
「ほえ?」
ナポリたん、ついに顧問のあだ名を連呼するのがめんどくさくなったか。
「いやー、そうなったら面白いよな。あの池谷が馬場のことを『お父さん!』とか呼んじゃうことになるかもしれないんだぞ」
「面白いのベクトルが違う」
「ゆ、癒着も激しくなりそうですね……」
「面白いは同意できるけど、それもまさしくその通り」
もし本当にプロポーズするとしてもだ。それがうまくいくとは限らない。馬場先生には残酷な現実だが、果たしてどう転ぶか、ナポリたんの続報を待とう。
そして琴音ちゃんの心配のほうが悩みのタネだよ。以前はナポリたんみたいに面白全部で煽ったけど、冷静になって考えればだ。タネをばらまくのは池谷、育ったタネを狩るのが馬場先生とかどうしようもないじゃん。
ま、いざとなればこの前の呼び出し録音があるけど。
…………
「そういえばさ、ナポリたん。佳世が池谷と付き合ってるという話で、昨日さ……」
現実の問題としてすぐにそのことが頭に浮かぶ。
ナポリたんなら詳しいことを知っているかもしれない、という短絡的思考に基づき、尋ねてみたが。
一瞬だけ、ナポリたんの顔が歪んだのを俺は見逃さなかった。
「……祐介」
「な、なに?」
うっわ、気圧される。ロリロリしい叔母に。
そりゃあ、一子相伝の暗殺拳伝承者にふさわしいオーラを突然醸し出されたら、俺みたいな一般人はビビるっての。
「そのことについて、だ。土日にでも、少し聞きたいことがある。時間取れるか?」
「あ、ああ。土日は琴音ちゃんも北海道にいっちゃうし、なんも予定はないよ」
真面目な話に違いない。
そして、今さら佳世に対して俺はなにもできないとしても。
うっすらと漂う違和感というものの正体を、おぼろげながらナポリたんは掴んだのだろう。
その説明をしてくれることを期待して、まさしくシックスセンス全開の俺が了解のサインを出すと。
「……祐介くん、禁断のカンケイは、許しませんから……わたしが北海道に行ってる間、ジェームズさんでイッたりしたら……」
なぜか隣で琴音ちゃんがむくれた。
「んなわけないない。というか、琴音ちゃんも北海道で熊とかに襲われないよう気を付けてほしい」
「だ、大丈夫です! かみちぎりますから!」
「何をだ」
熊相手に噛みちぎることができたら、それはそれで琴音ちゃん最強だよ。
―・―・―・―・―・―・―
しかし土曜日。
俺は寝込んでいた。
病院で点滴を受け帰宅したが、どうにも身体の倦怠感が抜けない。
吐き気とゲリゲリゲリガーオーガーオーガーオー状態が何とかおさまったのはいいとしても、ベッドの上から動く気力もないわ。
琴音ちゃんからはメッセージが届いているが、心配させたくないので寝込んでいることは内緒にしている。
白木家が元気にホッカイドーツアーに行っているところを鑑みるに、原因は明らか。
まさか我が家でのカキフライがノロわれた食材だったとは。誰に贖罪してもらおうか、やっぱカキを購入してきたオヤジだよな。
ちなみに我が家はオヤジ以外は全滅である。バカは内臓も丈夫なのか、それとも鈍感なのか。あのクソオヤジには、中段チェリーを引いて二百枚しか出ない呪いをかけてやろう。
ひとりベッドに横たわり、ナポリたんは大丈夫だったんかな、そんなことを心配しつつ意識がもうろうとしてくる俺。
そこで、部屋のドアをノックする音がやたらと頭に響く。
誰だろう。オヤジはまだおふくろと佑美の点滴につきあっているはずだし、家の中には誰もいない。
──まさか、琴音ちゃんが俺の体調を心配して、北海道から戻ってきてくれたとか?
そんなありえない予想をしてしまうほど、俺は弱っていた。
ガチャ。
ひとこと『どうぞ』という気力もなく、ノックに対して黙っていると、勝手に部屋のドアが開く。
「……祐介……」
そして、ドアガチャの結果は。
ざーんねんでしたー! 【SSR】白木琴音どころじゃなく、【
脳内に住む緑の事務員がそう解説してくれた……気がする。
……あかん、意識がもうろうとして、また佳世! とツッコめない……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます