第四十一章 人の繋がり
(一)縁というもの①
(一)
王都を発ち、シルネラへ。
幸い出発してから天候も良く、気温も過ごしやすい程度。心地よい風に吹かれていると、任務だという事も忘れてしまいそうになる。
ラーソルバールはかつて友人たちと通った道を、馬上から懐かしく思いながら眺める。大変だったけれど楽しい旅だった、と今でも思っている。
ディナレスやモルアールにはなかなか会う事はできないが、都合をつけて全員で集まる機会が欲しい。この任務が終わったらそれができるだろうか。そう思えば、少し先の楽しみが出来たような気がして、気分も上向く。
そんな考え事をしながらも周囲を見渡すことを忘れない。
大きな街道で、騎士団が随行していれば盗賊などの心配は無いだろうが、思いもよらぬ怪物と遭遇する可能性もある。任務中は周囲に注意を払いつつ、危険が無いか常に確認していなくてはならない。
だが「護衛任務は適度に警戒し、適度に気を抜く」と、護衛任務の責任者である大隊長オルスリー・フェザリオ三月官に教えられ、ある程度は気楽にやっている。おかげで精神的な部分は楽になったが、体の疲労はそうはいかない。
騎士学校時代よりも馬に乗る機会も増えて慣れてきたとはいえ、さすがに長時間の移動は疲れるし腰も尻も痛くなる。腰に痛みが出始めたちょうどそんな時。
「馬の為にもそろそろ休憩を挟みたいですが、よろしいですか?」
子爵の乗る馬車を操る御者が、フェザリオに声を掛けた。
「分かりました。もう少し見通しの良い場所に出たら、休憩としましょう」
護衛側としても有難い話。体に疲労が有って、いざという時に戦えなくては意味がない。治癒の魔法が多少使えると言っても、それに頼るのは避けたい。
少し進むと、左右に岩場も森も無い開けた場所に出た。
街道脇にはまばらに樹木がある程度で、大きく視界を遮るような物も無い。ちょうど良い場所を見繕っていると、街道脇に
馬車の近くでは男女が食事をしている様子で、何人かの護衛風の者たちも同じように休憩している。少し離れた場所には小川が見え、馬を休ませるにはちょうど良い場所だった。
「ふむ」
フェザリオはひとつ鼻を鳴らすと、馬を馬車に寄せ小窓を軽く叩いた。
「隊商が休んでいるようですが、盗賊の変装という訳でも無さそうです。街道を挟んだ反対側で我々も休憩しますが、よろしいですか?」
ファーラトス子爵が窓を開けたのを確認し、了承をとるように尋ねた。
「構わないよ」
子爵はにこやかに応じた。自身も馬車の中で退屈だったのだろう。「停めたら隊商を見に行きたいのだが良いかな?」そう言葉を続けた。
すぐに馬車は街道脇に停車し、騎士達も馬を下りた。
今回の任務は士官のみではなく、ボンカーら空兵階級以下の者たちも随行している。
彼らの管理も任されているので、全員の様子に問題が無いかを確認する事も忘れない。
「ミルエルシ三星官」
そんな時、ラーソルバールは不意にフェザリオに呼ばれた。
「はい? 何でしょうか」
すぐに返事をして駆け寄りながら、ルガートに身振りで後の事を頼む。彼は苦笑いをしながら、小さくうなずいて見せた。
ラーソルバールと視線が合うと、フェザリオはついて来いというように手招きをする。
「馬車の中が余程暇だったのだろう、子爵が隊商を見物されたいそうなんだ。護衛を任せたいんだが……」
「はい。それは構いませんが……、もう一名連れて行ってもよろしいでしょうか?」
「ん……? 構わないが……」
ラーソルバールが少し言い淀んだのを見て、フェザリオは首を傾げた。
「うちの隊の者ではないので、大隊長殿の許可が要るかと思いまして」
身長差があるせいで、少しだけ上目づかいに見えたかも知れないが、フェザリオはその意味するところを察したようにうなずき、笑った。
「ああ、許可する。そうだな、配慮が足りなかった」
間もなく、フェザリオに呼ばれてシェラがやって来ると、二人は子爵の待つ馬車へと顔を出した。
「隊商を見に行かれるとお聞きしました。我々は万が一に備えた護衛ですのでお近くに居させて頂きますので、よろしくお願いいたします」
ラーソルバールはそう言って微笑んだ。
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