(三)公爵家の令嬢③

「そうですわね、互いの実力を知るために、実力の有る者を三名ずつ出し合って、勝ち抜きというのはいかがでしょうか」

 ファルデリアナが自信満々に言い放つ。その言葉の裏に有るのは、騎士学校に対する蔑みか、それともエラゼルへの対抗心か。

「なるほど、騎士学校側は問題ないか?」

 ちらりと騎士学校の生徒達を見ながら、教師が小さくため息をつくのが見えた。

 教師とはいえ、公爵家からの圧力が有れば、即刻解雇されてもおかしくない。ファルデリアナの権威を振り翳すような行動に、嫌気がさしている事もあるのだろう。

「構いません」

 騎士学校の生徒達の声に後押しされ、エラゼルはファルデリアナを睨むように見ながら答える。

 それを受けて、ファルデリアナは満足したように笑ってみせる。

「修学院の生徒とて、騎士になる道を選ばずとも、剣で身を立てようという者は少なくありません。貴族の者とていざ自衛となれば、剣を取らねばなりません。私が出ても構わないのですが、生憎と腕は自慢する程ではありませんし、公爵家の者が相手だとやりにくいでしょうから、他の方に出て頂きます」

 蔑むような目で、騎士学校の生徒を見る。

「傲慢な……」

 エラゼルはここで一計を案じる。勝ち抜きなら、ラーソルバールを入れてしまえば、負けることは無い。であれば……。

「一人はこちらで選ぶとして、修学院側に残り二人を選ばせて差し上げましょう。公爵家云々と言うのであれば、私も出ません」

「ちょっと、エラゼル……」

 エラゼルが考えそうな事は分かるが、売り言葉に買い言葉で、口喧嘩の応酬になるのは目に見えている。ラーソルバールがエラゼルを止めようとした時だった。

「分かりました。ではまず貴女!」

「……は?」

 ファルデリアナが指差したのはラーソルバール。エラゼルの取り巻きと見て、嫌がらせを兼ねて選んだのだろう。

 驚く本人を他所にエラゼルがニヤリと笑う。

「そうですか……。申し訳ありません……気が変わりました」

「今更、無かったことにしろ等と言うのでは有りませんよね?」

「そのような事は申しません。騎士学校側からはその一人で充分です。一人で三人同時にお相手しましょう!」

「え?」

 驚いたのはラーソルバール。想定していた以上の事を、軽く言い放ったエラゼルの顔を見る。

(あ、これ……本気だ……)

 思った事は口には出せず、ラーソルバールはひとりため息をついた。

「あら、よろしいのですか? こちらには現役騎士に匹敵するような者もおりましてよ」

「何も問題ありません。ただし、騎士学校側が勝ったら、以降は騎士学校の生徒を軽んじない事、不平を言わず授業を真面目に受ける事を約束して貰います」

 ファルデリアナは鼻で笑うと、エラゼルを睨む。

「では、こちらが勝ったら? いえ……三対一ですから、こちらが勝って当然ですわね。負けると分かっているから、言い訳しやすいようわざわざ不利になるような事をして……。ああ、情けない」

 ファルデリアナは高笑いすると、騎士学校の生徒に背を向け、三名を選び始める。


「もう、あんな事言って……私が負けたらどうするの?」

「負けるのか?」

「負けないようにします! 変な所でこの国の未来を背負わせるような事しないでよ」

 ラーソルバールに向かって、エラゼルは一言「頼んだぞ」とだけ言って優しく微笑む。わざわざ悪役を買って出るあたりが、エラゼルらしいと言えばそれまでだが。

 ラーソルバールが周囲を見渡すと、騎士学校の生徒達は既に勝ったかのように、ニヤニヤと笑っている。

「私が負けるとか思わないの?」

 呆れながらラーソルバールがぼやくと、隣に居たシェラが声を出して笑う。

「騎士学校の生徒四人を相手にしたって軽々勝つのに、貴女が負けるなんて誰も思う訳ないでしょ。むしろ、相手を憐れんでると思うよ」

 シェラの意見に同意するかのように、近くに居た騎士学校の生徒達が大きく頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る