(四)疲労と休息と③

 ガラルドシアに到着すると、足早に伯爵邸へと向かう。

 ラーソルバールはこの時点でも逡巡しており、報告という目的が無ければ、ここへはやって来なかったかもしれない。

「ルシェ・ノルアールです。お約束していたご報告に上がりましたと、マスティオ様にお伝え下さい」

 門の警護に頭を下げると、シェラから聞いていた執事の名を出す。執事に報告すれば、アシェルタートに会わずに済むのではないか。そんな淡い期待をしていた。


 間もなく現れた執事は、三人を邸宅内に案内する。

 前回と同じように応接室で待っていると、ラーソルバールの願い虚しく、アシェルタートが若い娘と壮年の男性を伴って現れた。

「お忙しいところ申し訳ありません」

 努めて平静を保ち、ゆっくりと頭を下げる。

「いや、丁度暇をもて余していて、妹の相手をしていたところだよ」

「ん? 私が兄様の相手をしていたんですよ」

 隣に居た娘は頬を膨らませて怒って見せる。

「ああ、この怒っているのが私の妹で……」

「エシェスと申します」

 スカートの端をつまんで優雅に挨拶を行う。

「どこの者とも知れぬような冒険者相手に、わざわざのご挨拶、痛み入ります」

 このエシェスという娘は、ラーソルバールよりやや年下に見えた。無邪気な笑顔を見るに十三歳程度だろうか、と想像する。


「すまない、まずは報告を聞こう」

 アシェルタートは兄の顔から、領主代理の顔に切り替えた。

「領内の遺跡に関しては、今のところ目ぼしい発見はありません」

「まあ、そこは想定内だな」

 表情を変えずにアシェルタートは頷く。

「討伐した怪物や、獣の類ですが、ゴブリンが三十五、オークが十八、ノールが八、狼が十、大蜥蜴が一、大蛇が二というところです。あとは探索を始めたばかりの頃に、更に巨大な蛇がいたと思われますが、探索を優先するために戦闘を避けています。あとは巨大な昆虫を何度か駆除しましたが数えておりません」

「ノールまでいたのか……。しかもたった三日か四日でそんなにか?」

 明らかに驚いた様子で問いかける。

「怪物の討伐に関する報酬など一切考慮しておりませんから、証明する物を何も所持しておりません。嘘を言ってはおりませんが、信じるかどうかはお任せします」

「それだけの数、こなせるのなら剣の腕も大したもんだろう」

 アシェルタートの隣に立っていた壮年の男が話しに割って入ってきた。男は興味津々といった様子で、ラーソルバールの顔を見る。

「いえ、所詮は冒険者としても中級程度のもの、たかが知れています」

 気取られぬよう、萎縮するように否定する。

「ああ、失礼。この人は父の友人のボルリッツだ。以前は傭兵隊の隊長をしていた事もある。今はうちの警護や我々の剣術指南をしてくれている」

「ボルリッツだ。後で剣の腕を見せてくれ」

「はぁ……」

 嫌とは言えない雰囲気に、ラーソルバールは曖昧な返事で濁そうとする。

「他の仲間は?」

「フルルカで休息を兼ねて、食糧や消耗品の調達をしております」

 アシェルタートは納得したように頷く。

「ということは、すぐにフルルカに戻るのか?」

「そのつもりです」

 努めて冷静に振る舞おうとしているのだが、自分の表情は大丈夫だろうか、と心配になる。

「いま用意させているから、昼食くらいは一緒に食べていくといい。怪物退治の礼にもならないかもしれないが」

 アシェルタートはそう言って、にっこりと笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る