JD-305.「迎撃の日々」


 再びの最前線に戻ってきた俺達。とある作戦の結果、魔物達が集まっていた山を制圧することに成功する。そこは資源が豊富だったのか、これまで魔物も必死に守っていたらしい場所。


 そんな山で俺たちが見たのは、多くの穴と割れ目、そして……水晶を産出する不思議な台座だった。亀の甲羅のようななだらかな形で卓球台ほどの大きさのそれに、水晶が生えるようにして自然と伸びてくるのだ。調査の結果、1日に何十センチも伸びていることがわかる。大人の手のひらぐらいの長さは優に超えてきている。


「おまけに貴石術の触媒としても有効と来たもんだ」


「なんだかあちこちの穴の中にも同じようなのがあったらしいわよ」


「ボクたちも貴石術使いたい放題だね!」


 定期的に水晶を採取しながら、俺たちはこの山を守ることに専念していた。奪還してしばらくは不思議と魔物は来なかったのだけど、1週間ほどもするとやはり取り返しに来たのか魔物の集団を見るようになった。


 よくわからないのが、そこには水晶人はいなかったことだ。その代わりに……水晶獣の小さいのが混じるようになった。小さくても水晶獣、その力は侮れない。自然とけが人も出ることになるが、今のところは戦線は維持できている。他の場所はどうなんだろうか? 俺たちと同じように水晶の回収をしている兵士に聞いてみることにした。


「将軍はここと後方の陣地の間で出来るだけ討伐を進めてるらしい。先に進むのはしばらく後だろうな」


「点と点を結んで面にするってことですね……なるほど」


 今のところ、ここから後方の陣地までの間は道が確保されている。十分な戦力を添えていけば襲われても大丈夫なぐらいだから補給が尽きるということはなさそうだ。それでなくても、水晶を使った貴石術で俺達以外の面々も周囲を切り開いたり、環境を整えるのに余念がない。


 と、どこからか歓声が上がる。確かあっちは……ラピスとニーナが井戸を掘ろうと向かった先だ。この様子だと、きっと無事に水が出たに違いない。食べ物も選択肢はほぼないけれど、しばらく生き残るぐらいは問題ないだろうね。


「お前さんはずっと旅をしてきたんだって?」


「え、ええ。あの子達と、色々と。世界を見て回りたかったんですよ」


 突然の質問に戸惑いながらも、椅子代わりの岩に座って森の方を眺める。見張り変わりにはなるかな?

 会話の相手……だいぶ年上らしい兵士なおじさんは俺の隣に座って少し疲れた様子だった。


「この調子なら、俺が生きてる間にこの大陸から大規模な魔物はいなくなるかもしれないと思う。それは嬉しいんだが……こんな噂を知っているか? 魔物の本拠地が別の大陸にあるかもしれないって話を」


「海の向こうにってことですか? にわかには信じられないですけど……見たことないから否定もできませんね」


 確かに言われてみれば、俺も女神様に言われてこのあたりを最終地点として魔物退治をしているわけだけど、ここで倒しきると昔あったという魔物の逆襲のシチュエーションになる気がしないでもなかったのだ。このまま魔物を倒して周辺を人間の領土として扱い始めたら……気にした方がいいのかもしれないな。


「ま、今のところは内側が大事だろうけどな。隣国の動きが少し怪しいらしいんだ」


「怪しい? 戦争は嫌ですねえ」


 言いながらも、それも自然な流れなんだろうなという思いを抱く自分もいた。地球の歴史を紐解いても、共通した脅威がなくなれば次の叩く相手を求めて人間は動くものだ。手を取り合ってみんな仲良く……そんな攻略ルートはなかなか見つからないもんだよな。


 大体の採取を終えて、みんなで洞窟の外に出る。吹く風がとてもさわやかだ。


「俺もさ。さてと、見回りに……ん? おい、あれはなんだ?」


「え? 鳥……いや、魔物だっ! 俺が迎撃します。みんなを!」


 大きく伸びをした兵士が見つけた物、それは空に浮かぶ豆粒のような物。たまたま空を見上げたからこその発見だ。まだ距離があり、こちらに到着するには時間がかかるだろう。だけどそれを待ってる義理もないっ!


 ふわりと浮き上がる俺に、気を付けろよと叫んで駆け出す兵士なおじさん。転げやしないか少し心配だけどそれはそれ。今は自分自身に集中しないとな。


(地上が駄目なら空から? 妙に、人間臭くないか?)


 魔物の動きにそんな印象を抱きながら、聖剣を構えつつ空に舞い上がった。最近では俺たちが空を飛ぶのにもみんな慣れた物だ。最初は驚かれ、色々と聞かれたがちゃんと貴石術の1種だと説明して見せ、何人かは短時間ながら飛べるようになってからは追及は減った。俺たちがたまたまマナ総量が多いんだってことに出来たのも幸いしたかな。


「何もさせないっ!」


 明らかにこちらに真っすぐ飛んでくる何か。視界を拡大してみるとそれはやはり、鳥型の魔物だった。だってねえ? 足が4本もある鳥なんて俺は知らないよ。あれだけで攻めきれるとは思っていないだろうから、少しでも打撃を与えたい、あるいは……最初の牽制か。


 どちらにせよ相手に仕事をさせないのが一番だった。空を飛んだまま、左手に風を、右手に氷を産んで吹雪のようにして叩きつけた。全体的によろけたけれどまだ遠いからかこれだけでは落ちていかない。もう一発!というところですぐ横にフローラの気配。


「とーる! ボクにも手伝わせて!」


「ああ、頼む!」


 水晶をどこかに抱え込んでいるのか、フローラの体のあちこちが光り、いつもより強い風が彼女の周囲に産まれるのがわかる。そして……そのまま暴風の塊となって風が撃ちだされ……空飛ぶ魔物は文字通り千切れていった。


「あ、石英取れないや」


「ははっ、仕方ないよ。それより、次が来るかもしれない」


 遠くの森を見ると、あちこちに嫌な気配を感じた。まだ離れているからはっきりとはしないけれど、油断はできない規模に思える。森ごと先制して潰す? いや、何がいるかわからないのが怖いな。


 ちらりと振り返ると、鉱山から伸びる道の途中に、人影を見つけた。集団で、確実にこちらに向かっている。一瞬魔物の挟み撃ちかと思ったけれど、よく見ると違う……こちらの援軍だ。


「フローラ! 援軍と合流して戦おう!」


「おっけー!」


 この戦いは俺たちだけの戦いではない。それがわかっている彼女と一緒に地上に降り、集まってきた兵士や冒険者達に見た物を告げて迎撃と歓迎の準備をする。来る援軍には悪いけれど、すぐに戦いだ。


「先にここに来ただけの力があると援軍に見せつけてやろうぜ!」


「「オオーーーッ!!」」


 兵士の1人の叫びに、誰もが声を上げる。再びの戦いを前に、俺は相手の中に何が出て来てもいいようにと、こちらに集まってきたジルちゃんたちと一緒に覚悟を決めるのだった。


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