JD-304.「資源ポイント」


 目の前の相手をひとまず倒しきった俺達。そこに別の場所からの音が聞こえてくる。誰かが貴石術で攻撃をした音だろう。兵士達と頷きあい、山肌沿いに移動をしていくことにした。


 思ったよりも硬い山肌は移動に全く困らず、小走りほどで移動した俺たちはちょうど戦いの最中に躍り出る。相手にしてみれば横合いから奇襲を受けたような物かな? 相手には気の毒だけど、そうも言ってられないのが現実だ。


「トールっ!」


「火球! 相手のかっ!」


 自分の属性だから若干早く感知したのか、警告の声とともに水晶人の1人の手の中でマナが動き、赤い炎が産まれるのがわかる。それが投げつけられる前に、その手元で風が吹き荒れる。フローラによる一撃である。


 放つ直前の火球が魔物たちの後方でさく裂すると当然、混乱が産まれる。その隙に間合いを詰め、横合いからそのまま魔物の集団にぶつかった。こちらは狼のような獣が中心なのか、気を抜くとすぐ死角から襲い掛かってきそうだ。


「いちいちしつこいですわよっ」


「とおせんぼ?」


 1匹1匹はそう強くない。兵士たちでも十分倒せる感じだ……けれど、その数と動きはどうも厄介だった。後ろにいる貴石人を倒そうにも、まるで自分たちよりもそちらが大切だと言わんばかりに穴を埋めてくるのだ。普通に考えたら獣や魔物にここまでの動きは出来ない。やっぱり何かが原因だ。恐らくは、無事な水晶人が1枚嚙んでいるに違いない。


 その思考が伝わったかのように、後方の水晶人の援護が散発的となり、今にも逃げ出しそうな雰囲気を感じた。


「逃がすかっ! ニーナ、合わせて!」


「お任せなのです!」


 叫びながら地面に両手をつき、望みの貴石術をイメージする。俺の繰り出したのはちょっとしたクレバス。揺れも合わさって全体が動けない。そのまま割れ目は逃げようとした水晶人の足元に進み足止めをする。さらに外側にはニーナの生み出した壁だ。壁だけでは壊されるかも、溝だけでは突破されるかも、ならば両方を合わせてしまえばいい。


「今だっ!」


「おお!」


 完全に包囲せず、逃がす道を作ることで嫌な反撃を防ぐという考え方があるのは知っているけれど、今回は殲滅が狙いなので穴は無し。その分相手からの反撃は厳しいかもしれないがそうなるとわかっていればやりようがあるという物。その点、ここにいる兵士達はある意味俺たちより経験豊富なので危なげのない戦いが行われるのだった。




「これでひとまずは確保完了かしらね」


「うん。近くには魔物はいなさそうだってさ」


 見張りもかねての高台の上で周囲を確認しながらの休憩時間だ。確かにここから見ても、増援が来る様子はない。まあ、ここで来てもそのまま撃破されることになるんだろうけどね。この後は念のために見回りをしないといけない。


「ご主人様、これからどうするの?」


「確か……援軍が来るまで待機と言ってましたわ」


「留守番かー」


 何かないと退屈そう、という空気がにじみ出るみんな。だけどその心配は無いかなと思っている。何かというと、何もせずに待機ということは無く……陣地構築が待っているからだった。


 俺たちの力の見せ所だよと伝えると、みんなして待ってましたという顔になった。やっぱり、何か役に立つって嬉しいよね。俺たちが絡むと少しばかり……いや、結構ありえないことになるとは思うんだけど、うん。頼んで来た側の責任ということで。


 そして……。


「駄目じゃなくてむしろ歓迎なんだが、この使い方は反則だな」


「戦いの後も貴石術の使いどころがあるっていう点では良いことだと思いますよ」


 俺と兵士達の代表者が見守る中、ジルちゃんたちは他の兵士達と一緒に陣地構築を終えた。文字通り、終わったのである。兵士達と一緒に一気に木を斬って奇襲を防ぐための視界を確保し、その木材を使って柵を作り見張り台を作りさらにそれを補強。人の手で道具だけを使えばどれだけかかるかという陣地をみんなで協力することで瞬く間に作り上げたのだ。


 一夜城とはいかないが、その分急造にしては立派過ぎる陣地が出来たはずだった。援軍に来た人たちが相当驚くだろうな、と思いながら数日を過ごした。


「何も来ないわね? 取り返そうって話は向こうに無いのかしら?」


「逆に不気味ですわよね。マスター、ここの採掘はいつごろから?」


「今日にでも一度試すんじゃないかなあ。さっき話があったしね」


 相手も急に出来た柵というか杭の壁に驚いて何もしようとしてないのかもしれないな、と思いながらも偵察すら見かけないのは確かに不気味だった。外が静かとなれば向かうのは中というのは自然な話。もうすぐ援軍も来るだろう中、どんなのが掘れるかも気になるしね。


「お家の中からこんにちは?」


「ジルー、怖い事言わないでよー! あ、ボクも見に行きたい!」


 フローラが望んだからという訳でもないだろうけど、昼過ぎから俺たちも一緒に山の穴に潜ってみることになった。この中から魔物が出て来ても厄介な話だもんね。


 確認した中でも一番大きな岩の裂け目、そのまま人が通れる大きさのそこへとゆっくりと入っていく。松明と、貴石術の灯りに照らされる道は自然に出来たにしては綺麗だけど、誰かが手を加えたにしてはでこぼこすぎる。


 そして、急に視界が開けた。広間のような場所に出たのだ。映画とかじゃこういう場所には親玉が眠ってたり、目覚めたらまずい小さい奴らが集団でいたりするわけだけど……何もいないな。妙に壁際やあちこちでキラキラしてるから何かあるのかな?


「ここはあいつらの寝床だったのかな?」


「だとしたらやはり魔物だな。毛布の1枚もありゃしねえ」


 兵士に頷きながらも改めて眺めると、すぐそこに何かがあった。こんもりとした、亀の甲羅のような膨らみ。大きさは……大体卓球台ぐらいかな? なだらかで、何かぼこぼこと突き出ている。


 指をさし、みんなに伝えてゆっくりと近づくと、物音。


「!? 何もいない、か」


 石が転げ落ちた音だったように聞こえたけど、その割に壁が崩れた様子もないし、何かいるでもない。何が音を……と思ったところで気が付いた。


「ご主人様、アレ……石がたくさんあるよ」


「うん。石英? いや、この透明具合だともう全部水晶かな?」


 近づいた膨らみ。その背中?からぼこぼこと突き出ていたのは透明な石英の結晶、要は水晶であった。そういうお店に売っていそうな、見事な水晶で力を感じる。


(大きさはさまざまだけど……まさかこれ……いやいや)


 そんな無いだろうという予想を裏切るように、水晶たちの根元にマナの動きを感じた。周囲からどよめきが聞こえる。それはそうだろう……みんなの見る中、水晶が何センチかにょきっと急に伸びたのだ。


「水晶の育つ場所? とんでもないわね」


「お宝発見なのです!」


 にわかにみんなの中の探索熱が沸いたのがわかる。自分もと手分けして広間を確認すると、あちこちに同じようなふくらみがあった。きらきらした感じの理由はこれだったのだ。


「これは守り切らないと後々大変そうだな……」


 相手の戦力増強的な意味で、とは全部言わなくてもそのつぶやきは全員の共通認識となるのだった。


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