JD-301.「情報という力」


 そろそろ頃合いかと思い、最前線へ向かうべくハーベストまで戻ってきた俺達。運よくヨーダ将軍と再会した俺たちは将軍に誘われ、状況確認を含んだお茶に誘われるのだった。

 今のところ、将軍には焦ったような気配は感じないから……今すぐどうこうって状況ではなさそうだった。


「人に言えば笑われるかもしれないがね……なんとなく、そう……なんとなくだが君たちには期待していいのではないか、そう思う私がいるんだよ」


「ありがとうございます……でいいんですかね」


 さすがにここで実は女神様から依頼を受けてる普通じゃない人間です、なんて告白するのはどうかとは思い、それっぽく振る舞うことにする。と言ってもベテランなんて程でもないわけだけどね。

 相手も俺たちが剣術だとかそういった面ではそんなに技術があるわけじゃないことぐらいは見抜いてると思う。


「廃都の探索等、あれだけのことをしてくれたのだ。十分有名だよ。さて、戦況だが……どうもやはり魔物の本拠地に近づいている手ごたえはある」


 そういって机の上に出されるのは誰かが描いたであろうスケッチだった。多くの魔物が、すごいリアルに描かれている。そういった技術を持った兵士がいるのか、ここまで描けるほど遭遇しているのかどちらだおうね。


 並ぶ異形。その中に、気になる一団があった。ぱっと見は人型なのだが……なんだろうか、すごく角ばっている。感じとしては水晶獣に近いような……。


「やはり、気が付くか」


「これ……まさか、人型の水晶獣ですか?」


 みんなが席を立ち、俺の手元を覗き込んでくる。大きさはこの感じだと大柄な男性よりもさらに大きいけれど、見上げるほどではないようだ。殴り書きのように、横には『脆いが貴石術を使う。早めに岩を投げつけるなどの対策が必要』とある。


「途中で、明らかに人工物であろう建物というより廃墟を見つけてね。それ以来目撃されている。最初はただ殴りかかってくるぐらいだったらしいのだがね……今では前は魔物で固め、後方からこいつらが支援をするという……なんだか古い考えの国を相手にしているような気分にさせられているよ」


 なおも将軍と、そばに座っていた兵士からも状況の説明を受ける。これは他の冒険者も共通して伝えられる情報の1つらしく、特に機密という訳でもないようだった。

 それによると、相手も必死なのか突撃ばかりの戦いは少なくなり、最近では魔物ではなく人間を相手にしているような作戦が多くなってるとのことだった。


 ふと、その話を聞きながら思い出すのは女神様も言っていた魔物側の切り札、そしているであろう協力者等の存在だった。全く同じような相手がいるとは思わないけれど、これまでに時々感じていたように、人間側を探るやつがいるのは間違いない。そう考えると……この戦いも……。


「トール、まずいかもしれないわ」


「ええ、少し考えを変える必要があるかもしれませんわね」


 困った物だろう?と肩をすくめていた将軍もルビーとラピスの言葉に顔が引き締まる。確かにただ事ではない話の予感だった。あくまで仮説ですけれどもと前置きの後にラピスから語られたのは驚愕の内容だった。


「魔物が、学習して情報を持ち帰っている、と?」


「段々と戦い方を変えてるというのがその証拠ではないかと思いますわ。もちろん、全ての魔物がその担当とは思いませんけれども……この人型の水晶獣は一番怪しいですわ」


 ラピスたちの話を聞いて思い出すのは、トライアンドエラーとしてゲームでも何度も試しては最適解を探る光景だった。確かに俺も、ゲームで戦略シミュレーションをやれと言われたら同じように様子を見ながら何度もぶつかり、最適解を見つけていくだろう。


 この人型は司令塔兼情報収集役ってところだろうか? 全部の魔物が収集役じゃないというのは希望的観測ってやつかもしれないけれど、少なくともコイツらは逃がしたくないとは思えた。それは将軍たちも同様の様で、試す価値はあるなということを話している。


「よくわかんないけど、コイツが逃げようとしたら追いかけて捕まえればいいの―?」


「岩に閉じ込めてしまえばいいのです! お任せなのです!」


「ジルも、追いかけるよ」


 やる気をアピールしているのか、可愛らしくポーズをとる姿に一人和む俺。すぐにそんな状況ではないなと思い直してスケッチを眺めていく。やはりこれまでに見たような相手が多いけれど、全体的に大きいような気がする。


「どのあたりが押されてますかね」


「そう言ってくれるか……今一番悩んでいるのはここだ。どうもこのあたりの山は鉱山として有望なようでね。相手も他の場所より厄介なのが多いのだ。手前に大き目の陣地は構築できたが……突破できていない」


 広げられた地図、その一角を指さす将軍に俺たちは揃って頷いた。冷静に考えると、男1人の少女だらけの集団に行かせる場所ではないのだが、この場所では戦えるのならば歳は関係ない、そんな場所だ。

 定期的な馬車は出ていないとのことだったが、今回は特別に用意してくれるそうだ。


「ついでに物資の輸送も予定されていたからな、ちょうどいい」


 本当のところはどうだかわからないけれど、そんな言葉と共に案内された先では他の方面にも輸送するらしい物資と馬車が立ち並んでいた。そのうちの1台に顔なじみの兵士が近寄り何事かを話している。


 担当者が俺たちを見て驚きに表情を変えるのもいつも通りと言えばいつも通り。それでも土地柄か、すぐにそれなりに戦えるのだろうと判断されたようだ。


「出来ればすぐにでも出たいが、そちらの準備は?」


「俺たちはいつでも大丈夫ですよ」


 あんな話を聞いてしまった後では、ここハーベストで一晩過ごすというのも気になって眠れなさそうだしね。ジルちゃんたちは今回乗る馬車の馬たちの前で既に交流中である。馬の言葉とか、意外とわかったりするのかな?


「よし、じゃあさっそく出よう。補給は早い方がいいからな」


 御者を兼任する兵士の声を合図に、俺たちは馬車に乗り込んだ。全部で5台、兵士の数も結構いる。それだけ途中も戦いが予想されているってことだろうか? この地方に一体何人の兵士と冒険者が活動しているのか、想像もつかないね。


 ハーベストのそばということでしばらくは何もない時間が続く。街道としての整備もまだ途中なのか、森を切り開いた後の切り株などはそのままだ。速さで言えば俺たちが飛んでいった方が間違いなく速いのだけど、それはそれ。こうやって状況を確認しながらというのも大事だよね。


「思ったより日差しが強いな」


「そうですわね……日焼けしてしまいますわ」


 雲1つない青空。たぶん日焼けそのものはみんなしないんだろうけど、そう言っておく方がらしい・・・からこそのセリフだと思う。そんなことを思っていると、フローラと協力してなんとかミストみたいに周囲が涼しい霧もどきに包まれる。その犯人が2人だということはすぐにわかり、馬車全体がほっとした感じになるのがわかった。


 このまま進めば数日で陣地に着く……そう考えたのがいけなかったのか、何者かの気配を感じ取ってしまうのだった。






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