JD-299.「絆の光」


「違うよ、こうだよー」


「こ、こうかっ」


 大きな湖の上を、リブスの子供が笑いながら走っている。水面に触れた部分にほれぼれするほどに絶妙に風の渦が産まれそれが体を押し上げては飛んでいく。まるで水面がトランポリンにでもなったかのような移動だ。


 最初に、湖面をスイスイと歩き出した時にはこれまでの経験があるからか、すごいなと言ったぐらいだったのだけど遊ぼうと誘われた結果、目の前で飛び跳ね始めたのにはびっくりした。やっぱり人間よりも、獣に近かったり獣の姿であるほど、マナと貴石術には親和性みたいなのがあるのかもしれない。


「そうそう、おにーさん人間なのにやるじゃん」


「使える貴石術的にできないならともかく、俺ができないってのはちょっとね」


 ちらりと視線を向けた先では、俺よりも早くこの動きに慣れたフローラと、たくさんの子供達。まるでCGで出来た映像のように、複雑に飛び交っている。では他の4人はというと、岸辺であれこれと大人たちと復興作業中だ。俺も手伝おうとしたのだけど、子供たちの面倒を見てもらってるほうが嬉しい、と言われては仕方がない。


 あのジュエルビーストの戦いの後、無事に風晶の残りを見つけた俺たちはフローラを主体にマナを誘導し、風晶のある程度の復活に成功した。小さな精霊たちが増えているのを確認できたから後は大丈夫だろうと判断したのだ。あのジュエルビーストに削り取られたダメージを考えると、急激な復活も負担になるかもしれないとフローラは感じていた。俺はその意見を尊重し、ひとまずリブスたちが戻ってきている湖に立ち寄ったわけだ。


「おにーさんおにーさん、さっきの奴やってー!」


「お? よし、いくぞー!」


 一見するとただ子供と遊んでるだけに見えるかもしれないけれど、俺自身にとっては発見の連続だった。これまで使って来た貴石術よりも威力は弱いし、攻撃には使えないけれどその使い方、汎用性は驚くほどだった。これはぜひ、と思いながら学ぶことで俺もやれることが増えた。


 湖面を走りながら、空中に向けて土の貴石術でいくつかの金属成分を粉のように放出、それを風に乗せて回せたところに炎。そうなればどうなるか? 色のついた炎が無数に空を踊り出す。おまけにミラーボールのように透明な球体を生み出しておけば反射も楽しい光景の出来上がりだ。終わりには念のために水を霧のように生み出して消火もしておけばそれも虹を産んだりして一石二鳥。


 賑やかしにしか役立ちそうにないけど、逆にリブスの子供達には大うけであった。時には湖面で鬼ごっこという人間には不可能っぽいことをしたり、花火もどきを教えたり一緒にやったりとするうちに時間は過ぎていく。


「また遊ぼうねー!」


 自分の家族の元に帰る子供たちを見送りながら、俺は岸辺の岩に適当に座り空を見上げる。夕暮れと夜と、星空とが混ざり合う特別な時間だ。出来ればこの先も、こんな空を見れる生活をしたいなと思う。


 そのためにも、マナの異常を解決したらまた戦いに赴かなければいけない。これで4人マリアージュに成功した……ジルちゃんがまだ絆がたまっていないとはちょっと考えにくいけれど、言い出してこないってことはまだ機会は先だということなんだろうな。そろそろ……前線に戻ってもいいのかもしれない。


「マスター、お食事の時間ですわ」


「ああ、ありがとうラピス。そうだ、ラピス……俺のコレクションは全部見つかると思う?」


 歩きながらするには相応しくない質問だったかもしれないと思ったのは、ラピスが考え込み始めてからだった。答えを聞く前に、みんなのいるサバイバル生活のような小屋についてしまった。

 4人とも、考え込んだままのラピスを見て不思議そうな顔をしている。


「なあに、また何かラピスに無理を言ったの? 駄目よ、ラピスは断れないんだから」


「とーるも好きだねー」


 別にそういうお願いをしたわけではないのだが……みんなの中ではラピスが困るイコール俺が何かお願いをした時と決まってるようだった。確かにこう……甘えるようなプレイはラピスにしかって、これは彼女から希望された内容だったはずだとよくわからない相手に心の中で言い訳をしだす俺。


「いえ、大丈夫ですわ。この世界の貴石と、マスターの持っていた貴石とで後どれぐらい集められるのかと考えていましたの。正確には、問題を解決する前にどこまで集めるべきか、と」


 さりげなくルビーが鍋を弱火の部分に移したことで、食事前だというのに話し合いの空気へと変化する。ならばと、俺もみんなを見渡して気が付く。恐らくだが、4人は問題ないほどの貴石をもう内包しているな、と。


 問題は……ジルちゃんだ。まともな貴石はジルコニアと、ダイヤモンドのみなのだ。


「ジルにはムーンストーンとか相性よさそうよね」


「水晶そのものも行けると思うのです」


「どれも似合うよねー」


 あれやこれやと、話し始めると止まらないのが女の子たちの話という物だとこういう時は良く感じる、俺が口を挟むでもなく、みんなは貴石の候補をあげて騒いでいる。とても楽しそうだが……ほとんどは俺が持っていなかったから、この世界でジルちゃんに相応しい力を持つ物を探さないといけないから大変だ。


「ジルちゃんはこれが欲しいっていうのはありませんの?」


 最後はやはり本人の希望を、ということでの問いかけに、ジルちゃんは答えずにみんなを見渡し、最後に俺を見た。正確には、俺の胸元をだ。ふと、それで気が付いた。俺の中にも石英の塊があると勝手に思い込んでいたけど……もしかしてジルちゃん達みたいに貴石の類があるんだろうかと。


「ジルちゃん」


「えっとね、一杯集めるとぴかーってなるからそれがいい。ご主人様みたいに色んな光が集まってるの」


 かぶせ気味の希望、それは1つではなく……いくつもの貴石を合わせた物が欲しいと思うような意見だった。

 色んな光が集まった物……パッと思い浮かぶのは、見える色が変わる宝石で有名なアレキサンドライトだ。他にも違う色合いが重なった宝石もいくつかある。けれど微妙に違いそうだ。


「! そういうことね。トール、光は重ねるとどうなるかしら?」


「光を? えーっと……ああ、白くなるね」


 そう、色々な光を集めると白、言うなれば無色の光になる。それでようやく俺にもわかった。ジルちゃんはどれかの色じゃなく、みんなの色が良いんだと。でもそうなると貴石としてはどうなるのか……1つ1つじゃなく、4つとか5つとかまとめてならいいのかな?


「よし、ご飯の後にちょっと試そうか。幸い、色々とストックしてるもんね」


 そうして話し合いがひとまず終わり、夜も更けてきたころ……湖面は太陽が降りて来たかと思うほどの光が照らし出すのだった。大成功ではあるが……みんな起きて来た。

 笑って許してもらえたけど、次は気を付けてやろう……そう反省した夜だった。

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