JD-236.「見た目よりも中身」
風晶を入り口に別の場所へと転移した俺達。出てきたのは海岸沿いの水晶のそば。今いる場所もわからない状態で歩き出した俺たちが出会ったのは、いわゆる獣人と呼べそうな幼い兄妹だった。手足は毛皮で覆われていて、顔にも毛皮の部分があるから好き嫌いは別れるかもしれないね。
狼族だというライ、ミユちゃんの案内を受けて俺達は彼らの住む場所にやってきた。どうやって受け入れてもらおうかと悩んでいた俺だったが……。
「ガハハハハ! もっと食え! なんだ、ニンゲンは食が細いんだな!」
気が付いたら大きなたき火を囲み、ここに来るまでに仕留めることが出来たオオトカゲを焼いて食べているのだった。オオトカゲは大体どこかのジャングルにいるようなでかいワニぐらいあったんだけど、村の獣人のみんなでわけるとそんなに大きくないように感じるぐらいの人数がいた。どこからか他の肉と思われるものも持ちこまれているから、体よく宴の材料に使われたかな?
俺の隣でさっきから大きな声で笑っているのが、村の村長だというから2度驚きである。顔がほとんど毛皮で覆われていて、人間顔の狼というのがぴったりな風貌だった。その上、俺から見てもよく鍛えられた体は筋肉がはちきれんばかりだ。大人になると獣具合が増すのか村長だけが特別なのかはわからない。
「とーちゃん、でも兄ちゃんたちすげえよ? 四つ脚が逃げるどころか気が付いたときにはもうズバンって終わってたんだ」
「初めての相手だったからね、一気に行ったのが上手く行ったのさ」
まるで自分のことのように大きな声でオオトカゲを仕留めた時のことを褒めてくれるライ。そのことが嬉しくもあり、くすぐったくもあった。実際、特に怖い感じもしなかったからごく普通の狩りの感覚だったわけだけど……近くの獣人達の視線が少し変わる。どうやらあのオオトカゲは普通の相手ではなかったようだ。
「そうかそうか! ウチの子供ぐらい細い体だと思えば……うむ。ここに良い力を感じる。そちらの娘たちもな。なるほど、ニンゲンの戦士と……んん? 娘たちはよくわからんな」
そういって村長は再び笑顔で笑いはじめ、食事は再開された。途中、どこからか持ってきたヒョウタンのような物から注がれる液体はアルコールの匂いがしたから間違いなくお酒だ。他に飲んでる人がいないから、特別な奴なのかな?
「いただきます。ゲホッ」
「一気に飲むからそうなる。まずは毒見をするかのように一口含んでから飲むものだ」
口の中に残っていたわずかな分でも喉とかが焼けたように感じる度数のお酒に目を白黒させながらも再び注がれたソレを今度はゆっくりと味わうように飲んでいく。先ほどやただ痛いだけだったのど越しが今度はその中に感じる物がある不思議な物になっていた。
(なんだ? お腹に何か……すごいぐるぐる回ってる気がする)
予想外の状況にやや不安を覚えながらも村長を見る……すると、なぜかにやりと笑みを浮かべる村長。まさか毒……なんてことはないよね。待てよ? この感じ……マナが動いてる!?
「ふふふ。気が付いたか。これは村の選ばれた戦士が飲む結晶をすりつぶして作る特別製よ。腕の良い者が飲めば今のお主のように流れを感じる。自然に感謝し、自然と一体化するための物だ。さ迷いたどり着いたニンゲンよ。戦士として、迎えよう」
「ありがとうございます」
具体的な風習はわからないけれど、どうやらただの客人からもう1歩進んだ関係となることが出来たようだった。ジルちゃんたちも飲んでみたそうな視線を向けてくるけどここは我慢してもらおう。どんな状態になるかはわからないけれど、あまりお酒には強くなさそうだしね。
「さあ、まだ夜は長い。食べて唄うがいい!」
見知らぬ土地にいるという不安はいつの間にか消し飛び、楽しい時間が始まった。他の皆も同じぐらいの子供たちといつの間にか仲良くなっていて、黄色い声をあげて騒いでいる。いいな、と心から思える時間が過ぎていった。
「兄ちゃぁああああん!!」
「なんだあ!?」
翌日、多分翌日の朝。俺は自分の腹に飛び込んできた何かの衝撃でたまらず目を覚ました。お腹のあたりにいたのは……ライだった。昨日出会った時のように、
「もう朝だぜ!」
「早いな……人間はもう少し後に起きるんだよ」
朝には間違いないけれど、まだ空が白いだけの状態を朝と呼ぶのは俺には少々厳しかった。まあ、ところ変わればなんとやらだ。この場所では朝はこのぐらいからのことを言うんだろう。強烈な起こされ方だったので眠気はどこかに行ってしまったようだ。
「そうなのか? だって日が出てきたら暑いし、獲物だってすごい動いちゃうぜ?」
「なるほど。そういうことか……」
狩りという点からはすごく納得する意見に頷き、俺は
(どこか獣人だからって甘く見ていたのかもな)
確かに毛皮で手足は覆われているけれど、人間と同じ5本の指が道具を扱うことが出来るだろうことを示していた、よく見ていないけれど、種族が違うと多少は指の太さとかは違うと思う。けれど、彼らが決して野蛮な生活、あるいは狩猟に頼った生活をしているわけじゃないことはわかった。
「姉ちゃんたちはミユが起こしに行ってると思う。兄ちゃん兄ちゃん、今日は一緒に川に行かないか?」
「川に? 俺は構わないけど、ライは仕事とかないのか?」
ぴたりとライの動きが止まった。そりゃあ、村ぐらいの規模なら子供だって立派な労働力だよね。何かしら言いつけられてることの1つや2つあるに違いないんだ。俺たちは逃げないからそれを終わらせてからおいでというと、渋々といった様子だけどライは恐らくは自分の仕事の場所へと歩いて行った。
一人残された俺だったが、二度寝するのも難しい状況だし、せっかくなのでと村を見て回ることにした。幸いにも昨日の宴でこちらのことは村の人はほとんど知ってるに違いない。俺たちからは相手がわからないのが痛いけれど……交流のきっかけにはちょうどいいかな?
「ご主人様、おはよう」
「おはようなのです!」
「あははっ、とーる。寝ぐせ寝ぐせ」
ライの言うようにミユちゃんに起こされたらしいみんなが出てきたところで朝から元気な挨拶が飛んでくる。ラピスとルビーは……なんだか眠たそうだ。きっと2人の事だから、一応警戒をして夜更かししながらの夜だったに違いない。そう考えると熟睡した俺の方が申し訳なくなってくるな……だって、そんなことをしてくる相手には見えなかったから仕方がないじゃないか。
「……おはよ。どうするの?」
「せっかくですし皆さんとは仲良くしたいですわね」
多少眠そうでもこういう時に頼りになる2人には変わりが無く、先を促された俺はライとのやり取りを告げ、彼の仕事が終わるまではこのあたりを見て回ろうということになった。そうして歩き出し……俺たちは何度も驚くことになる。
「井戸にしっかりした家、煙突もありますわね……山向こうと技術はほとんど変わらないのでは?」
「ご飯もおいしい。おいしいのは大事」
俺がライの服やベッドに感じたように、みんなもこの村の技術水準を感じたようだった。ジルちゃんの発言はまあ、いつものことと言えばいつものことだけどこれも大事。やっぱり見た目が違うだけで、同じような存在というのは間違いないみたいだ。
「あれ? とーる、なんだか人だかりができてるよ」
「本当なのです。井戸端会議です?」
2人に言われ、違う方を向くと井戸らしきもののそばに集まっているご婦人方。耳や尻尾の感じからして、狼以外にも種族はいくつもあるのだと感じる光景だった。何があったのかと近づいていくと聞こえてくる会話。
「困ったねえ。水が溜まってないわ」
「ホントに。あっちは大丈夫なのに」
どうやら井戸の調子が良くないようだ。俺たちが近づき挨拶をすると、気持ちのいい返事が返って来た。そのまま俺たちも井戸を覗き込む。暗くてよく見えないので適当に光を打ち出すと……確かにほとんど水が無い。
「ラピス」
「ええ、よいしょっと」
ひとまずはということで俺はラピスと一緒に両手を井戸の上に出して、視線を集めながら両手から水を生み出した。バケツをひっくり返したような状態で水がどんどんと下に流れていき、見る間に水位が上がってくる。
「とりあえず今日のところはこれでどうです?」
「あらあら。お客人にやらせちゃってごめんなさいね。助かったわ」
俺としては大した手間ではないけれど、喜んでもらえたなら問題ないかなと思った。けれど……なんだかこれで終わりではなさそうだなと思った。それがなんなのかはわからないまま、俺たちは村の散策を続けるのだった。
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