JD-235.「森の村へ」


「オレはライ! 狼族のライだ!」


「ミユはミユだよ。おにーちゃんと同じ狼族なの」


 まだ残っていた鹿肉が気になるらしく、耳を揺らし、鼻をひくつかせる2人に残っていた部分を焼いてあげると、2人とも迷わずかぶりついてきた。さっきまで警戒していたのに、大丈夫なのかな? 別に毒を入れるとかはしないけどさ。


「毒リンゴを食べたおひめさまは寝ちゃうんだよ」


「? なんだよそれ? 毒があるのがわからないのがいけないんだぜ?」


「なのー!」


 どうやらジルちゃんなりに2人の無警戒ぶりを心配して言ったようだけど、獣人2人にとっては毒が無いことはわかるらしい。匂いとかかな? 世の中には無味無臭の毒があるとか聞いたことあるけれど、異世界だから俺の知らない方法で分けてるのかもね。


「食べながらでいいんだけど、この土地って人間と交流ってある?」


「ないわけじゃ(モグモグ)ないぜ。だけど珍しいかな? 山をたくさん越えてこないといけないから。兄ちゃんたちはどこから来たんだよ?」


 特に餓えているとか言う訳じゃなさそうだけど、見ているこっちが思わず笑顔になるほどに美味しそうに鹿肉を食べるライ。妹らしいミユちゃんも同じように大きな肉にかぶりついている。ちょっと脂が垂れれてくるのもご愛嬌といったところかな。


 骨だけを揺らしながらライが示すのは東に見える大山脈。なんだっけな、地球でも孤立した島とかだと生態系が全然違うって言うし、このあたりは種族が違うのかもしれない。むかーしの荒廃の時に獣人はこちら側で暮らすことを選んだみたいな感じだろうか。


「それは……内緒だ。嘘嘘。でも信じられるかなあ? 俺達、あの海岸にある水晶を通って来たんだ」


「びゅーんってくぐってきたんだよ」


「言い方がもう少しあるんじゃない? ま、本当のことだけど」


 他に上手くごまかす方法が思いつかなかったので、どこまで信じてもらえるかはわからないけれど本当のことを伝えてみた。結果として、最初は何を言ってるんだろう?みたいな顔をしていたライが急に真剣な顔で頷いた。隣のミユちゃんはまだわかっていなさそうだ。


「よくわかんないけど、わかった。兄ちゃんも姉ちゃんたちもみんなすげえもん。オレのここが感じてる」


 自信満々に指さすのはライ自身の胸元、心臓があるはずのところだ。ということは彼らにも石英のような何かの塊が体の中にあるということかな? この世界の生き物としては一緒ってことか。

 言われてからよく見ると、2人ともこれまでに出会った兵士なんかは比べ物にならないほどマナの力を感じた。


「お二人はどこにお住まいですの? 出来れば屋根のあるところで過ごしたいんですけれど」


「うんうん。もふもふさんとの交流もしたいなー! いっぱい撫でてみたいっ」


 ラピスとフローラの言葉に首をかしげる2人。その拍子に顔や尻尾の毛部分が揺れ、随分と可愛らしく感じる。俺自身はそこまでもふもふってやるほどではないけれど、みんなは結構こういうのが好きそうだ。猫なんかもよく見つけては追いかけてたもんな。


「ミユ撫でられるの好きだよー! 撫でる?」


「なあ、それは歩きながらでもできるからオレたちの村に来る?」


 見た目からしてライが中学生ぐらい、ミユちゃんは二桁に届くか届かないかぐらいかな? ちょっと幼い感じだけどこの年頃は大人びた子もいればそうじゃない子もいるもんね。ラピスたちみたいにしっかりしてる子も時々いるんだけどさ。


「いいのか? じゃあお願いしようかな」


 第一何々発見!とは少し違うけれどせっかくの出会いだ。これをきっかけに良い物になればいいなと思う。なぜか手をつないで歩き出したミユちゃんとみんな。俺はそんな姿を後ろに見ながらライについていく。よく見ると進む道だけ雑草の背丈が低かったり斜めになってたり……獣道って言った方がいいのかな? ライたちは2本足なんだけど……まあいいか。





「へー、兄ちゃんたちはキラキラな石を探してるのか―」


「うん。貴石術に使うんだよね」


 少し時間がかかる距離だということで雑談をしながらだ。そこで俺達は2人に、旅の目的を話して協力を仰ぐことにした。と言ってもそういうものがもしあったら教えて、ぐらいなんだけどね。この土地で貴石がどんな扱いを受けているかがまだよくわからないからあくまで譲ってもらえるなら欲しいな、ぐらいに留めておいた。


 歩いてる間、ミユちゃんはずっと楽しそうにジルちゃんたちと遊んでいる。村には同年代の子が少ないのかな? そのうち電池切れになって倒れるんじゃないかってぐらい元気いっぱいである。

 見ていてほほえましいような、ハラハラするような……。


「ミユがこんな笑顔で遊んでるなんて久しぶりだな。これだけでも兄ちゃんたちと出会った価値があるよ」


「そう? それならいいんだけど……ん、止まって」


 俺は村の方角とは少し違う向きに変な気配を感じていた。背丈はだいぶ低い……ゴブリンとかとはちょっと違うかな?

 一応村の関係者とかかもしれないのでいきなり襲い掛かるのは無しにしておこう。初見の相手には油断なく、ということで俺の手には聖剣。前よりも装飾が力強く光ってるようなそうでもないような……たぶん強くなってるとは思う。


「あっ、兄ちゃん。四つ脚だったら美味いから絶対倒してよ」


「四つ脚だな? よし」


 みんなも獣人2人を守るようにしてそれぞれに武器を構え、周囲を警戒している。そこそこ戦い慣れて、気配の探知なんかも出来なくはない俺たちだけど相手が隠れていないとも限らないもんね。


 と、視界に見えたのはのしのしと森を歩くオオトカゲ。よくわからない生態に心の中では首を傾げながらも、ひとまずライの方を向く。彼はしっかりと頷いてきたからアレが四つ脚ってことでいいんだろうね。


「食べたら何味かなっと」


「たぶんとりにくかな?」


 一緒に駆けだしながらのジルちゃんの問いかけ。俺も知らないけれど、確かに鳥が近そうだね……恐竜と鳥的な関係を考えるとだけど。オオトカゲは急に迫って来た俺たちに驚いて身をひねるけどもう遅い。俺の聖剣が首のあたりを切断し、ジルちゃんの短剣はなぜか尻尾の付け根に突き刺さった。


「尻尾を斬るのは大事ってご主人様の記憶にあったよ?」


「あはは。それはもっと大きい相手、ドラゴンの時にね」


 そういえばそういうゲームもやったなあ等と思いつつ、動かなくなったオオトカゲをずるずると引っ張ってみんなの元に戻る。幸い、他には特にはいないようだった。


「やったね。結構逃げ足早いんだぜコイツ。お土産だって持って行けばみんな喜ぶよ」


 そんな風にしてライからおすすめを受け、オオトカゲはひとまず収納袋に入れた。村への移動が再開され、それから1時間もしないうちに急に土地が開けるのがわかった。ついでに人工物だなと思う柵とかそう言ったものも見えて来た。


「ようこそニアムルへ!」


「なのー!」


 新しい土地で、獣人という新たな種族を相手にした冒険はどんなものになるだろうか? 笑顔の2人に迎えられながら、俺はそんなことを考えていた。

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