JD-209.「感じる歪さ」


 トスネスの国を南下していく俺達。そこでたどり着いたのは、深く深く地面に向かって掘られている場所だった。周囲には風車が立ち並び、街がそこに出来上がっている。みんなで飛び上がり目に飛び込んで来た光景に俺達はしばし言葉を失う。


「地球でも大きな露天掘りの場所は近い状態よね」


「だとしても人力ではなかなか困難なのです。あるとしたら……貴石術の使い手が集まってる必要があるのです」


 推測は色々と成り立つけれど、それはこうして飛んでいては始まらない。周囲に馬車や徒歩の旅人がいないことを確認しながらゆっくりと降り、徒歩で再び街へと向かうことにした。

 だんだんと近づいてくる街並みと風車の大きさに俺は驚いていた。


(古い感じの建物も多いし、産業がしっかりしてるのかな?)


 街に近づくほど、いろんな方向からの馬車が行き交うのが見える。目指す街が中継点なのか、そこに売買される何かがあるのかはわからないけれど、退屈することはなさそうだった。

 新しい街、新しい出会いに向けてジルちゃんたちもわくわくしているように見える。


「何か珍しいごはんあるかなっ」


「畑もたくさん見えるねー! 水はどうしてるんだろうなぁ」


 どうやら色気より食い気とは少し違うけど、既に宿と食事に気が向いてるみたいだった。オルトたちとの別れを多少は引きづっているのかなと心配していたけど大丈夫そうな姿に俺は内心ほっとする。女神様も納得するような結果が出てきたら、どこかでゆっくり暮らしたり、知り合った人たちに会いに行く旅をしたいね。


「マスター、一度あの街で私達の状況を整理しましょう。この国の情報も集めたほうがいい気がしますの」


「情報を集め、戦わずして勝つ!のです!」


 2人に頷いて俺は皆を引き連れた状態で街に入った。見えた穴が鉱床や掘った跡だとしたら相当な物だとは思ったいたけれど、意外と街中は緑が多かった。街路樹のように木々が植えられ、家や店先にも花壇だとかが多く設置されている。街の外も特別荒野ということもなかった。川も無いのにどうやって……そんな疑問が産まれるけれど後にしておこう。


「ランドリア、だって」


「あの大穴以外、特に変なところはありませんわね」


 視界に飛び込んでくる光景はスーテッジ国でも見たようないわゆる街中、と違いが無かった。建物はレンガっぽいものと、岩を切り出した物と半々ほど。雨は少ないのかもしれない。

 行き交う人々の中には冒険者のような武装した人も結構いるようなので、そういう需要はあるのだろうと思わせた。


「まずは宿を決めましょ。お風呂は……ちょっと期待できそうにないけど」


「大部屋はありそうだね。結構集団が多いみたいだ」


 普通の暮らしをしている人たちの中を歩き、周囲を観察していく俺たち。意外なことに、若い少年少女が動きやすい服装で大穴の方、あるいは町の外へと駆けていくのが見える。

 ジルちゃんたちとまではいわないでも結構若い……そういった層にも需要のある依頼が……?


 そんな風にしながら宿を探す俺達。どこにしようかというところでふと目に飛び込んできたのは、大きな木桶をよろよろと運ぶ少年と少女の姿だった。俺が何かを言うまでも無く、飛び出したジルちゃん。

 特に重そうだった女の子の方に声をかけ、ひょいっとばかりに抱えるのだった。


「ジルちゃん、お仕事は取っちゃだめだからお手伝いだけだよ」


「あっ……そっか、そうだよね。ごめんね、おしごととっちゃって」


「ううん。おねーちゃんすごいんだね!」


 やや冷たいかなとは思いつつ、俺が代わりに少年の方を手伝うことにした。ジルちゃんは少女と反対側を持って木桶を運び始めた。どこから運んでるかはわからないけれど、何かあっては運んできた分が水の泡だからね。少年は兄らしく、俺たちのことを警戒しているようだ。まあ、そりゃそうだ……ちょっと怪しい。特に俺が。


「俺達宿を探してるんだ。6人で泊まれる宿があれば教えてくれないか?」


「え? あ……だったらウチに泊まりに来る? 部屋だけはいっぱいあるんだ」


 渡りに船とはこの事だろうか? まだ値段も聞いてないので何とも言えないけれど、ひとまずそこに案内してもらうことにした。少年の持っていた木桶は地球で言うとよく灯油なんかが入るポリタンクぐらいはある。相当な重さだけど……井戸があるのかな?


「これを毎日とか運ぶのは大変じゃないか?」


「うーん、慣れたよ。節約できる部分は節約しないと。神様の恵みはお金がかかるから……」


 案内してもらう代金代わりだからと少年の分はそのまま俺が持ちながらの会話の中、気になる単語を耳にした。神様の恵み……状況からして、水の供給を得られるってことかな?


「マスター、あの建物から力を感じますの」


「それだけじゃないわね。スーテッジほどじゃないけど、結界らしき物も感じるわ。どうも質が違うようだけど」


 耳元でささやかれる2人の言葉にそちらを向くと、風車の中に1つだけ形の違う建物が見えた。地球の高層ビルのような大きな物……確かに貴石らしき力を感じる。昨日今日出来たものじゃないだろうから、俺のコレクションが関係しているとは思えないけど、街の重要拠点なのは間違いないだろうね。


「ねーねー。お風呂はあるー?」


「一応あるぜ……ます。宿泊代金とは別に料金がかかるけど……」


「それは仕方ないのです。水はタダじゃないのです」


 俺からすると、こんなというと失礼だが偶然の出会いでの宿にお風呂があるという時点でなかなか驚きだ。入浴の文化があるっていうことだからね。建物の感じからは雨が少なそうな感じだけど……雨期でもあるのかな。


「あそこだよ!」


 少女が叫んで指さす先には確かに宿屋っぽい見た目の建物。周囲にも建物が多くあり、このあたりはそういう建物が固まっているようだ。バラバラにあるよりは役人とかが管理しやすそうだけど……商売としてはどうなんだろうね? 目的地に応じて便利な場所って違うと思うけど……たぶん、そういった宿は別にあるんだろうね。


 ただいまと声を上げ、建物に入っていく2人。俺たちはその2人の後ろについていく……と、やや痩せた感じの大人の男女が出て来た。恐らくは夫婦で、2人の親なんだろう。

 こちらを見ると、2人して頭を下げてくる。ジルちゃんたちを見ても表情を変えないあたりは好感が持てる。


「お客さんだよ!」


「そこで出会いまして。せっかくだからお世話になろうかなと。6人が入れる部屋あります?」


 本当は値段を聞いてから決める予定だったけど、ここでいいかなと思っていた。みんなも同じようで特に反対意見のような物は出てこない。

 俺がそういうと、珍しくメニュー表のような物が出て来た。何泊以上だといくら、入浴はつけるか付けないかなどだ。隠すことでもないので、貴石術で自分で補充するから湯沸かしの道具だけ借りることにした。

 やっぱりここでも保証金のような物は必要だったけど、すんなり貸してもらえたので問題はない。


「へへっ、こっちだぜ!」


「もう、お兄ちゃん。お客様なんだから丁寧に!」


 言葉遣いは気にしないから2人に案内をお願いしたところ、両親だという2人には最初は遠慮されたがもう一度押すと軽く頭を下げられた。家族とはいえ、商売の場に出すのであればそういう妥協は無いのが普通だからね、無理もない。


「御用があればお呼びください!」「さい!」

 

「ありがとうね」


 元気のいい2人と別れ、俺達は久しぶりの宿というか建物での寝床という物を確保した。オルトたちとの生活ももちろん楽しいんだけどね。それはそれというか……うん。


 決して、決してみんなとあれこれしようとするとリブスの子達が覗きに来るからではない……ないのである。

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