そこに描いた未来はありますか?

佐藤 和

第1話 絶望と決意

『一位入賞 坂本伊織』




「…う…嘘だろ…?」

この瞬間、僕の周りの時間が少し止まった。

信じられない。しかし自分の前にいるのは自分じゃない入賞者。

次に絶望、自身の不甲斐なさ、入賞者への嫉妬、そして恐怖が襲ってくる。



そしてこの日。僕、青山空ががずっと描いてきた夢が壊れた瞬間だった。



…それから2カ月後……

僕は家で、ずっとゲームをしていた。

あの後相当のショックで学校を不登校気味になり、今までピアノ一色で全然出来なかったゲームやラノベ、TVを見まくっていた。そうして、自分の不甲斐なさを緩和していた。

2カ月前。あの日以降ピアノには全然触っておらず、家からも全然出ていない。

あのコンクールの後。家に帰った後ただひたすら泣き続けて自分に絶望した。

今までとってきたトロフィーや自分の楽譜は全て捨て、(親がこっそり回収していたらしい。)挙げ句の果てに親に散々八つ当たりしてしまう事態に。ピアノを見ると手が震えめまいがするようにまでなった。

当初は親も2日、3日で治るだろうと思っていたらしいが、5日…8日…10日とただ泣き続け自分を追い詰めていく様子に我慢できず気分転換にとゲームなどを買ってくれた。それで状態は良くなったもののゲームなどにハマり過ぎていわゆるニートへなってしまった。

夏休み明け、1日学校に行ったっきりもう行ってない。そして10月。本来入試対策の一番忙しい時。絶望的な欠席日数と共に、一切勉強をせずオタクへと進化してしまった。今まで稼いできた大量の賞金をゲームにラノベ、自分用の大型TVを買う始末。かつての神童は、絶望的なニートへと成り下がっていた。


すると、見兼ねた父が僕に、


『空。お前は高校どうするつもりだ?ずっと目をつぶってきたがまともなところには行けないぞ?』


と聞いてきた。とりあえず、


「うーん。アルバイトして就職かな〜」


と答えておいた。2カ月休んでいるため勉強は絶望的。今のままでは入試は確実に落ちる。

すると父が予想外の言葉を発した。


『空。もう一回音楽に、ピアノに戻る気はないか?』


「……今なんて言った?」


『だからもう一度ピアノに戻る気はないか?実はお前宛に名門からスカウトが来てる。』


「絶対無理。父さんも知ってるでしょ?僕がピアノを見たらひどいことになるって。」


あの時味わった絶望。自分の不甲斐なさ。ピアノを見ると、触ると手が震え、めまいがする。今ではだいぶ治まってきたがそれでもまだ怖い。


『確かにそうだ。しかしお前が将来成功する物はこれしかない。お前はこれに人生をかけてきたんだからな。』


「いや無理。2カ月のブランクは大き過ぎるし第一ピアノが怖い。あの時味わった絶望… もう絶対に味わいたくないんだよ。」


『空、考えてみろ。お前がかつてピアノに注いだ時間や努力は偽物か?』


「……それは本物だ。」


そう。それは本物だ。音楽一家に生まれ、ただピアノを上手に弾くために。周囲に認めてもらうために。ずっと努力し頑張ってきた。


『だったらもう一度やってみろ。私たちも出来るだけサポートする。』


「でも… 怖いんだよ… ピアノが。」


僕の父、青山純。有名なピアニストで様々な大会で優勝してきたらしい。音楽が好きになったのも父の影響か。そして母の青山加織。有名なアイドルでありただ今妹と共に単身赴任。歌手活動をしており色々な楽器が使えるらしい。

この2人が手伝ってくれるなら感覚はすぐ取り戻せるだろうが大きな約束をして達成できなかったこともあり中々頼みづらい…。


『空、お前は逃げているだけだぞ?かつてのお前はどこへいった?』


「うるさい…でも… あぁ… 少し考えさせてくれ。」



そして僕は、とある部屋にいた。目の前には見慣れたグランドピアノ。かつてここで時間も忘れてただ練習に没頭していた。壁一面の大きな本棚には大量の楽譜がある。

ここは練習室。ピアノの練習の時ずっと使っていた場所で一番落ち着く場所でもある。

目の前のピアノに触る。めまいはしないものの、手はまだ震えている。一瞬あの時の恐怖が蘇ってくる。椅子に座り鍵盤に手を置く。白と黒の綺麗な鍵盤。懐かしい感触。2カ月もピアノを弾いてなかったがやっぱり自分はピアノが大好きなんだ…そう思うと少し嬉しくなってきた。

そして久しぶりにピアノを弾いた。随分前に耳コピで聴いたアニメソングを編曲したオリジナルの曲。1番のお気に入りだ。優しいタッチで前奏を弾いていく。だが…


「左手が全然動かん… 震えも止まらん…まさかこの曲でここまでとは…。もうダメかもな…」


左手が流暢に動かない。速く弾こうとすると手がつりそうになる…


「…ついにここまできたか……。 まさかここまで早く夢が終わるとはな…」


ふと鍵盤を見直す。今までたくさんの曲を弾いてきた。小学でのコンクール。学校の校歌の伴奏も少々。そして… 卒業式の伴奏も。 今思えば卒業式の伴奏は一番みんなに頼られたかもしれない。ふとあの時の情景を思い出す。弾いた曲は… 「旅立ちの日に」だ。


『私達を守ってくださった先生方ー!地域の皆様ー!そしてお父さん、お母さん。

本当にー ありがとうございましたー!!』


あぁ…。なんかとても懐かしい…。確か僕の近くの女子が泣いてたっけ。


『『『しろいひかりのなかに… やまなみはもえて………』』』


今思えば小学で一番楽しくて、感動したのはあの時だったな… そっと鍵盤に手を置く。

楽譜はないがこの曲は暗譜している。弾いてるうちにみんなに頼られて…とても楽しかった。


「ミミファソソソラソ〜レレ〜ドドドファミファソミ〜」


手が覚えている。あの時の合唱が。中学になって色々歌を聴き弾いてきたが、一番感動したのはこの曲だ。ずっと心に残っている。


「ソソソソ ソラシド〜ミミ〜ファファファファファ ソファミ〜」


サビの部分だ。一人すごい音を外しながらも大声で歌ってた奴もいたっけ…大体みんな泣いてたな… 良し。ラスト!


「ラ〜ララ〜シドシラソソソ〜レレドド〜ラシドレド〜ラシドレド〜ドファ〜〜〜ミレド〜」


「……弾けた…!」


少しミスしたものの、かつてないほどスッキリと弾けた。手の震えも収まっている。

そして僕は… 泣いていた。 涙が止まらなかった。


「あれ…?僕なんで…!…」


「まだ… まだ弾ける…!よし!」


そして僕はその後ずっとピアノを弾いていた。




…2時間後………


「父さん!僕!僕弾けた!弾けたよ!もう一度…もう一度ピアノをやってみる!」


空の目は前と違っていた。そこにはニートだった面影はもうない。かつて神童と呼ばれていた青山空がそこにいた。


『弾けたか… そうか… よかったな… ほんとうに… よかったなぁ…』


そして父は… 泣いていた。いつもは厳しい父が。泣いていた。


「な…!なんで父さんが泣くんだよ…!」


『いやな。さっきの伴奏… 卒業式の曲だったか。今までで一番、よかったぞ…。』


「……!?… ありがとう…」


気がついたら僕ももらい泣きしていた。本当に、僕はいい父を持ったな…


「『フフフ… クッ… ハハハハハ…』」


そして親子二人。笑いながら… 泣いた。



少し笑い泣きした後。ずっと気になってたことを聞いた。


「で、さっき言ってたスカウトしてくれた高校ってどこ?」


『ん?あぁ… 国立水明学院だ。そこからスカウトが来てる。』


「…は!?…水校!?」


国立水明学院。京都にある有名な学院で、普通科、看護科、音楽科など様々な種類のある大きな学院だ。しかし京都って…流石に遠すぎるぞ…?僕が住んでいるのは静岡。電車でも結構かかる…


「京都か…流石に遠すぎじゃない?」


『そこは大丈夫だ。学園からの推薦を受けた生徒は学校が支援するマンションに住めるらしい。』


「マ、マンションって…寮じゃないの…?」


どんだけ金使うんだよ… しかし僕はコンクールなどの賞金がまだ残っている。生活は…

父への負担は軽減しそうだ。と、


『生活費は私がなんとかする。お前は今まで貯めてきたお金で好きな家具や物を買ったらいい。』


「いや、でも… 生活費は…」


『なんとかすると言った。私もこれでもプロのピアニストだ。お金は結構稼いでいるぞ?

高校は3年しかないんだ。行くからには悔いの残らないようにしなさい!』


「は…はい…… ありがとう… 父さん…!」


本当にいい父だ。しかし結構稼いでるって… 全然知らんかったな…だが本当に有難い。

父さんの期待にも答えねば…


「よし!やるぞーー!! 」


その後。遅れていた勉強を本気でし、学校にも再び登校するようになり。ピアノも父の協力のおかげで前と同じぐらいの実力まで戻り。



そして…



僕は国立水明学院を合格した。

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