ロリコンの私は小学4年生の奴隷になりました。

馮秀英(ふぉんしゅういん)

ロリコンの私は小学4年生の奴隷になりました。

 朝、職場に向かう前の一時が私の至福の時間だった。

 職場までは歩いて5分のところに借りている私のマンションのすぐ近くには小学校があって、職場まで向かう道は通学路になっていた。

 そして誰も住んでいない寂れた廃屋にある伸びざらしの垣根は、格好の撮影スポットだった。

 そこで無垢な少女たちの写真を心行くまで撮影する。

 それが私の日課だった。

 このために買った一眼レフのデジカメを持って今日も賑やかにお喋りをしながら道行く少女たちをカメラに収めて目当ての子が現れるのを待つ。

 そうして15分ほどしてから目当ての女の子が現れた。

 肩甲骨くらいまである黒髪のストレートにつぶらな瞳、整った鼻梁に肌理細やかな肌。元気いっぱいに友達とお喋りに花を咲かせる唇は艶やかなピンク色で、若さ溢れるその全身に私は一瞬見惚れてしまってカメラのシャッターを切るのを忘れてしまう。

 けれど、ここでシャッターを切らずしてどこで切ると言うのか。

 一番のお気に入りの女の子の姿を余さずカメラに収めるためにシャッターを切っていた私はすぐに通り過ぎてしまった女の子にちょっと残念な気持ちになる。

 それでも気を取り直して他の少女たちをカメラに納めるために、カメラを持ち直して垣根の隙間から少女たちのきらびやかな一瞬を切り取っていた。

 そろそろ職場に向かわないといけない頃合いだなと思ってカメラを下ろしかけたとき、自分でシャッターを切ったわけではないのにシャッター音が聞こえた。

 はて? と思って手に持ったカメラを見てもシャッターは切っていないし、液晶画面にも写真は撮れていない。

「何してるの、おばさん」

 不意に声がして、背後を振り返るとあのお気に入りの女の子が携帯を手に、私のほうを見下ろしていた。

 まさか聞こえたシャッター音は……。

 そう思い至って思わずお気に入りの女の子の携帯に手を伸ばそうとした途端、その女の子はランドセルについた防犯ブザーに手を伸ばした。

 ぴたりと手が止まる。

 その女の子はじりじりと後ずさりながら私に言った。

「どうも変な音が聞こえると思ってずっと気になってたのよね。そうして来てみればこんなところで小学生をカメラで撮ってる女の人に出くわすなんて思ってもみなかったわ」

 そう言ってその女の子は携帯を反転させて、携帯の液晶画面を私に見せつけた。

 そこにはカメラを持って垣根から『盗撮』している私の姿がばっちりと写真に納まっていた。

「ここであたしが『変質者!』って叫んでこれを先生に見せたらどうなるかしらね」

 いつも見る快活なお喋りの瞬間ではなく、小悪魔的な笑みを浮かべてその女の子は携帯をポケットにしまった。

 携帯を奪って写真を消させることはもうできない。

 私の足なら数歩の距離だけど、その僅かな時間は防犯ブザーを鳴らすには十分な時間があった。

 私の顔色は一気に蒼ざめた。

 こんなところで小学生女子の写真を『盗撮』していたなんて話がバレたらもうここにはいられない。いや、もしかしたら社会不適合者ロリコンの烙印を押されて会社だってクビになるかもしれない。

「お、お願い……。その写真だけは……その写真だけは誰にもバラさないで……」

「どうしようかなぁ」

 にやりと小悪魔の笑みを浮かべてその女の子は思案げに目を細める。

 そうしてその女の子はとんでもないことを言った。

「じゃぁ、おばさん、あたしの奴隷になりなさい。あたしの言うことには絶対服従。それができないって言うなら、この写真を先生に見せて変質者が通学路で盗撮していましたって言うから」

 私に拒否権はなかった。

「はい、わかりました……」

「おばさん、社会人よね? お仕事してるんでしょう? 何時に終わるの?」

「5時半です……」

「じゃぁ最初の命令よ。5時半にこの先にある公園――もちろん場所はわかるわよね? よろしい。そこで待ってるから絶対に来ること。来なかったら……」

「行きます! 何が何でも行きます!」

「ならよろしい。じゃぁ5時半にね、おばさん」

 そう言ってその女の子は手をひらひらさせて去っていった。

 福原奈美恵28歳。小学生女子の奴隷にされてしまいました。


 びくびくしながらその日の仕事を何とか定時までに終わらせて、あの女の子が指定した公園に急いで向かった私は、公園のベンチで足をぶらぶらさせながら手持無沙汰で待っている女の子を見つけて近付いていった。

「お待たせ」

「遅い。奴隷の分際で主人を待たせるなんてどういうつもり?」

「ご、ごめんなさい……。これでも急いで来たんだよ」

「息を切らしてるのを見ればわかるわよ。いつもこれくらいになるの?」

「今日は何とか仕事を終わらせて急いで来たけど、残業が入れば遅くなります……」

「社会人も大変ね。まぁ、あたしも勉強とか友達づきあいとか結構大変だけど」

「学校で何かイヤなことでもあったの?」

「別に。これでもあたしは要領がいいの。学校でもうまくやってるわ」

「ならいいんだけど」

「奴隷の分際でいっぱしに心配? 奴隷は奴隷らしくあたしの言うことだけ聞いていればいいのよ」

「はい……」

 あの写真がある限り、この女の子には逆らえない。

 いったい何をしなければならなくなるのだろう?

 どんな要求でも社会的に抹殺される可能性があるだけに、下手なことは言えない。

「あ、自己紹介がまだだったわね。あたしの名前は井筒乃愛のあ。小学4年生よ。あんたは?」

「福原奈美恵です」

「じゃぁ奈美恵、とりあえず座ったら? 立ったまんまじゃ満足に話せやしないわ」

「じゃぁお言葉に甘えて」

 そう言って乃愛ちゃんの隣に座る。

 何を要求されてもいいように心構えをしつつ、乃愛ちゃんの言葉を待っていると乃愛ちゃんは今日学校であった出来事を話し始めた。

 算数の小テストで満点を取って先生に褒められたり、クラスのみんなから羨望の眼差しで見られたこと。体育のドッジボールで最後まで残って勝ったこと。放課後、学童保育で自分より小さな子供たちの面倒を見て遊んでいたことなどなど。

 その日にあったことを身振り手振りを交えて話す姿は小学4年生の子供らしくて、一時奴隷だと言われたことも忘れて『よかったね』とか『それはすごいね』とか答えていた。

 1時間弱ほど話しただろうか。

 話し続けて喉が渇いたらしい乃愛ちゃんは、喉が渇いたから飲み物を買ってきてと言い出した。

 もちろん、お金は私持ちだけど、飲み物くらい社会人の私にとっては大した金額ではない。公園の外にある自販機でお茶のペットボトルと私の分のコーヒーを買って戻る。

 お茶を受け取って3分の1くらいを一気の飲んだ乃愛ちゃんは人心地ついたらしく、小さく吐息して、今度は私のことを色々と尋ねてきた。年齢や仕事、趣味などなど、聞かれるままに答えているとあっという間に暗くなってしまった。

 まだ晩春でだいぶ日が長くなってきたとは言え、もうこれだけ暗くなると7時を過ぎてしまう。

「乃愛ちゃん、もう遅いけど帰らなくていいの?」

「どうせ帰っても誰もいないからいいの」

「誰もいない?」

「うち、共働きなの。パパもママも毎日遅くまで仕事でいないから帰ってもしょうがないもん」

「でももう晩ご飯の時間だよ? ご飯はどうしてるの?」

「コンビニ」

「毎日?」

「うん」

「そんなんじゃ栄養が偏っちゃうよ。私がお金出してあげるからどこか食べに行かない?」

「じゃぁ焼肉」

「それじゃコンビニと変わらないよ。いいお店があるの。そこに行こう?」

「奴隷の分際であたしに指図する気?」

「ごめんなさい……」

「まぁいいわ。食べたくなったらいつでも奈美恵に命令すればいいだけだし、今日のところは奈美恵の言うところに行ってあげるわ」

「ありがとう。じゃぁ行こうか」

「うん」

 そう言って乃愛ちゃんはベンチから立ち上がる。私も立ち上がってこっちだよと言うように先立って歩き出す。それに乃愛ちゃんは素直についてきてくれる。

 行き先はいわゆる家庭に味が恋しくなったときによく行く小さな食堂だった。初老のおじさんとおばさんのふたりで切り盛りしているお店で、安い割にバランスの取れた定食を出してくれるお店だったから、ひとり暮らしの私も重宝しているところだった。ただ、外見が相当古くて、見た目が汚いから流行っていると言うわけではなかった。

 お店に到着すると乃愛ちゃんは眉を顰めたけれど、安くておいしくてバランスがいいからと説得すると渋々一緒に入ってくれた。

 お店に入るとおばさんが出迎えてくれて、そこそこ忙しくしていた。流行っていないとは言っても安くておいしいから夕食時のこの時間はそれなりにお客さんはいる。

 空いている席に乃愛ちゃんと向かい合わせに座って乃愛ちゃんがメニューを見るのを眺める。

「乃愛ちゃんはいつもコンビニでどんなお弁当を買うの?」

「唐揚げとかのり弁とか」

「やっぱりコンビニだとお肉に偏っちゃうよね。ここはお魚もおいしいの。煮魚とかいいよ」

「骨があるからお魚は嫌い」

「好き嫌いはよくないよ。我慢して今日はお魚にしない?」

「奴隷のクセにあたしに指図する気?」

「でも……」

「はぁ、わかったわ。たまにはそういうのも必要よね。何がオススメなの?」

「サバの煮付けとかおいしいよ」

「じゃぁそれにする。奈美恵は?」

「おんなじのにするよ。すいませーん」

 注文をするためにおばさんを呼ぶと、お冷を持っておばさんが注文を取りに来てくれたのでサバの煮付け定食をふたつ頼む。

 しばらくして頼んだ定食がやってきたので、いただきますをしてから食べることにする。

 ここの定食はメインのおかずに小鉢がふたつ、ご飯とみそ汁がついて600円くらいと言う破格のお値段だけど、値段の割においしい。

 骨を取って煮汁にサバを浸してご飯と一緒に食べていると、乃愛ちゃんは骨を取り除くのに苦労している模様。

「取ってあげようか?」

「そういうことは先に気付きなさいよね」

 尊大な言い方だけど骨を取るのに苦労しているのは子供らしくて微笑が漏れる。

 『はいはい』なんて言いながら骨を取ってあげると、私と同じように取り分けたサバの身を煮汁に浸して乃愛ちゃんも食べ始めた。

「あ、結構おいしい」

「でしょう?」

「まぁ外見も中身も汚いけど、味はいいわね。奴隷にしては及第点と言ったところかしら」

 そんなふうに言いつつも、乃愛ちゃんはお腹が空いていたのか、ぱくぱくとサバを食べ、小鉢に手を伸ばし、みそ汁を啜り、あっという間に平らげてしまった。

 食後にお冷を飲んで人心地ついた乃愛ちゃんに、まだ食べ終わってない私はハンドバッグからポケットティッシュを取って1枚渡す。

「はい。これで口を拭いて」

「わかったわ」

 ティッシュで口を拭って残ったお冷を飲み干した乃愛ちゃんのところにおばさんが熱々のお茶を持ってきてくれる。ふうふうと息でお茶を冷ましながら乃愛ちゃんはお茶を飲む。

 それを眺めながら私も定食を食べ終わって、同じように口元をティッシュで拭い、熱々のお茶を飲んで人心地つく。

 お茶を飲み終わってからお会計をすませて外に出るともう真っ暗で住宅街の街灯の明かりだけが何となく頼りなく光っているだけだった。

「じゃぁあたし、もう帰るわ。宿題もしないといけないし」

「ひとりで帰れる?」

「平気よ。じゃぁまた明日、5時半にあの公園でね」

「うん」

 返事をすると乃愛ちゃんは迷いない足取りで去っていった。

 奴隷宣言をされてしまっていったい何をさせられるのだろうと内心で戦々恐々としていたけれど、今日みたいな感じであればさして懐も痛くないし、むしろ一番のお気に入りだった乃愛ちゃんと一緒に過ごせると言うことのほうが嬉しかった。


 奴隷宣言をされてから2週間ほど経っても、乃愛ちゃんの要求は他愛のないものばかりだった。

 喉が渇いたから飲み物を買ってこい。

 アイスが食べたい。

 お腹が空いたからどこかに連れていけ。

 etc。

 そういう要求は他愛のない話をしてからのことが多くて、むしろ要求をすることよりも話し相手が欲しかったのではないかと思えるくらい、乃愛ちゃんの要求はひとり暮らしの社会人にとって大したことではないものばかりだった。

 逆に私としては乃愛ちゃんと一緒に過ごせる時間ができたことのほうが喜ばしいくらいで、乃愛ちゃんと一緒の時間が過ごせるのならば少々の出費などさしたる問題ではなかった。

 だからこのところ、いつもにこにこしながら今日学校であったことなどを話す乃愛ちゃんの話を聞いていたら乃愛ちゃんに顰めっ面をされた。

「何にやにやしてんのよ」

「え? してた?」

「気持ち悪いくらいしてた」

「そ、そうかな。乃愛ちゃんとお話しできるのが嬉しいからつい」

「カメラ持ってたのを見たときから思ってたけど、奈美恵ってロリコンってヤツ?」

「ちち、違うよ! 私は純粋に少女たちの一瞬のきらめきを切り取っておきたいだけで……」

「ロリコンじゃん」

「はい……」

 はい、すいませんでした、ウソをつきました。

 でも幼い少女たちが賑やかに仲良くしている姿は仕事で疲れた身体も精神も癒してくれる私のオアシスなのだ。そりゃ世間さまから見たら単なるロリコンなのかもしれないけれど、可愛い女の子を愛でて何が悪い。可愛いは正義なのだ。

「どう言おうと奈美恵がロリコンなのには変わりないじゃない」

「はい、そうです……」

 それを力説したものの、乃愛ちゃんにはやっぱりロリコンと一刀両断されてしまった。

「でも乃愛ちゃん、なんで乃愛ちゃんはそのロリコンの私とこうして一緒にいてくれるわけ? 怖くないの?」

「べ、別に家に帰っても暇だし、奈美恵はあたしみたいに可愛くもないし、ぜんぜん冴えないから相手してあげてるだけよ!」

「そっかぁ。乃愛ちゃん、優しいんだね」

 言い訳が可愛くてついそんなことを口走ってしまったら乃愛ちゃんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。

「ふ、ふんっ、奴隷は奴隷らしくあたしの言うことだけ聞いてればいいのよ! 今日こそすごい要求をしてやるんだからね!」

「え? な、なに?」

「前々からママみたいに栄養のバランスとか、太るとか言って言い訳してたけど、今日こそは焼肉に連れていってもらうからね! しかもチェーン店じゃなくて専門店よ! どう? びっくりした?」

「う、うん……」

 頷いたはいいものの、案外しょぼい要求だったので曖昧な返事になってしまった。

 チェーン店なら確かに安いだろう。専門店なら少々お高めになってしまうけれど、育ち盛りとは言え、乃愛ちゃんはまだ小学4年生の子供だ。食べる量なんてタカが知れている。少女ウォッチが趣味で、今までで一番高い買い物と言えば撮影用のための一眼レフカメラくらいしか買ったことがないレベルの私にとって、少々お高めの焼肉店に小学4年生の乃愛ちゃんと一緒に行ってもさほど財布は痛まないだろう。

 でも乃愛ちゃんはどうだと言わんばかりにふんぞり返っていることだし、ここはあまり乃愛ちゃんの機嫌を損ねるようなことは言わないほうが得策だろうと思った。

「じゃぁ今日の晩ご飯は焼肉にしようか。あんまり焼肉のお店って詳しくないから調べるね」

「早くしてよね」

「うん」

 スマホを取り出し、地図アプリを起動させてこの公園から乃愛ちゃんが歩いていける距離で、焼肉専門店がないか探してみる。この辺は住宅街だからあいにくと近場にはなかったものの、今から少し歩いていけば和牛専門を謳う焼肉のお店が見つかったので、そこに行くことにする。

 私も知らない場所に行くこともあってか、乃愛ちゃんは今日初めて手を繋いでくれて至福を味わいながらスマホの地図アプリを頼りに歩いて30分程度かけて目的の焼肉店に到着する。

 チェーン店ではないけれど、外観はとても綺麗でとても焼肉店とは思えない店構えだった。でも看板の牛1頭の絵とその下に書いてあった『和牛専門焼肉』の文字で、ここが間違いなく目的の店だとわかった。

 待望の焼肉と言うこともあってか、私の手を引っ張って早く中に入ろうとする乃愛ちゃんと一緒に店に入ると7時前だと言うのに席は3分の2くらい埋まっていた。

 幸い4人掛けのテーブルが空いていたのでそこに案内され、乃愛ちゃんはうきうきした様子で早速メニューを取って眺めている。

「乃愛ちゃんは何がいいの?」

「カルビ!」

「他には?」

「カルビ以外わからない……」

「うーん、ハラミとかホルモンとかあるけどどうかな?」

「ホルモンって聞いたことあるわね。なんかあのぶよぶよしたヤツじゃない?」

「そうだよ。内臓だったかな。おいしいホルモンは脂がおいしくてとろけるよぉ」

「いらない。カルビだけあればいい」

「それじゃぁ栄養が偏るじゃない。野菜の盛り合わせも頼もうよ」

「またママみたいなこと言う……」

「それだけ乃愛ちゃんのことを思ってのことだよ」

「しょうがないわね。仕方ないからそれも頼んでいいわ。後は……奈美恵の好きなように頼んで。あ、カルビは外さないでよね」

「はいはい」

 同じようにメニューを見ていた私はカルビに野菜の盛り合わせ、その他にロースやハラミなどの柔らかくて乃愛ちゃんでも無理なく食べられそうなものをチョイスして、後は晩ご飯なのでライスを注文する。

 注文のときに店員さんが火をつけてくれたのを見て、乃愛ちゃんは早くもテンションが上がってきたのか、そわそわと落ち着かない様子を見せている。

 少しして早く焼けるようにと薄くスライスされたカルビとロースが出てきたのでトングでそれを摘み、網の上に乗せる。じゅぅっと食欲をそそる音が聞こえてきて、乃愛ちゃんのごくりと唾を飲み込む音も聞こえた。

 これまでなんだかんだと言って栄養のバランスがいいようにあまりこういう焼肉店なんかには来なかっただけに、乃愛ちゃんとしては待望の機会だったのだろう。お箸とライスの盛られたお茶碗を持ってうずうずしている。

 あまり焼きすぎると硬くなっておいしくなくなるから頃合いを見計らって、生肉を取り上げたトングとは別のトングで乃愛ちゃんのお皿にまずはカルビから置いてあげる。

 いただきますと言うのももどかしいのか、さっと手を合わせて早速カルビを甘口のタレに付けてご飯と一緒に頬張る乃愛ちゃん。

「んー、おいしー」

「じゃぁ私も」

 満面の笑みの乃愛ちゃんにつられるようにして私もカルビをひとつ取って口に運ぶ。

 さすがに和牛専門を謳う専門店だけあって脂身が甘くて柔らかい。乃愛ちゃんの手前と言うこともあってお酒は極力避けていたけれど、これだけの焼肉ならビール辺りを頼めばよかったと思いつつ、焼けた端から乃愛ちゃん、私の順番に取り分けてお肉に舌鼓を打つ。

 カルビ、ロースから遅れることしばし、野菜の盛り合わせとハラミなんかが出てきたのでそれらも焼きつつ、乃愛ちゃんがカルビ追加を要求してきたのでカルビも追加しておく。そんなに食べないだろうと思って1人前ずつしか頼まなかったけれど、これだけ乃愛ちゃんの食欲が旺盛なら始めから2人前頼んでおけばよかったかなと思いつつ、焼けたお肉を乃愛ちゃんのお皿に置いて、なくなりそうだったら追加していく、という作業を繰り返す。その合間に私も久々の高いお肉を堪能する。

 よく蟹を食べるときは無口になるとは聞くけれど、乃愛ちゃん待望の焼肉とあって、乃愛ちゃんはただ黙々とお肉を食べ、ご飯を掻き込んでいく。

 でも野菜を食べないのはバランスが悪い。

 ピーマンや玉ねぎと言った野菜もお皿に置いておくけれど、乃愛ちゃんはそんなものには見向きもせず、お肉ばっかり食べている。

「乃愛ちゃん、野菜も食べないとダメだよ」

「ピーマン嫌い」

「好き嫌いはよくないよ」

「だって苦いんだもん……」

「良薬は口に苦しって言って苦いものほど身体にいいんだよ」

 違う気はするけれど、ここは方便としてそう言っておく。

「むぅ……」

 せっかくおいしいお肉と堪能していたところのお小言に難しい顔をする乃愛ちゃん。

 それでも玉ねぎは焼けて甘いから食べられるのか、玉ねぎやニンジンは食べた。さすがにピーマンは嫌いだと言うだけあって手も付けなかった。

 それでもきちんと言うことを聞いて野菜も食べたことに満足して、私はまだ何か頼むかと聞いていた。

「どうしようかな。うーん……、いや、いい。これ以上頼んだらあたし、食べ切れない気がする」

「そっか。じゃぁ追加はなしね。飲み物はどうする?」

「オレンジジュース」

「了解」

 食後の飲み物を頼み、お腹いっぱいになるまで食べた乃愛ちゃんは満足そうだ。すぐに持ってこられたオレンジジュースで喉を潤しながら、乃愛ちゃんが言った。

「ここ、気に入ったわ。あたしが焼肉って言ったらここに連れてきなさい」

「はいはい」

 残ったお肉や野菜を消化して私は烏龍茶で脂っこさを口の中から洗い流しながら返事をする。

 食べて、飲んで十分に満足したらしい乃愛ちゃんはご機嫌な様子で一緒に店を出る。お会計はふたりで5000円ほどでやっぱり高かったけれど、乃愛ちゃんは満足そうだし、喜んでくれたみたいだからたまにはこれくらいのお店に連れてきてあげるのもいいかと思った。


 乃愛ちゃんが待っているから、と言うこともあって、仕事にも張りが出た。

 乃愛ちゃんは今まで話した会話の内容から察するに、両親は共働きでいつも帰りは遅い。だから小学校が終わってからは学童保育で5時ごろまで学校で遊んだり、雨の日は教室で宿題をしたりして過ごしているようだった。それからいつも待ち合わせている公園で私が来るのを待って、あれこれとお喋りをして、晩ご飯を奢ってもらって帰る。

 それが私に奴隷宣言をしてからの乃愛ちゃんの行動パターンだった。

 私は一番のお気に入りだった乃愛ちゃんと一緒に過ごせて、要求もひとり暮らしの社会人にとっては他愛のないものばかりだったので、乃愛ちゃんと過ごす時間はかけがえのないものになっていた。

 けれどそうは言っても仕事は仕事。

 急ぎの資料なんかを定時間際に頼まれて残業、なんてこともたまにあった。

 そういうとき、夜の7時とか8時くらいに公園に行くなんてことがあったけれど、乃愛ちゃんはそれでも公園で待っていてくれて、それから晩ご飯を食べて家に帰る、と言うことをしていた。

 そんな日々を送っていたから、どうして乃愛ちゃんは私なんかと一緒にいてくれるんだろう? と言う疑問が湧いてくるのは至極当然だった。

 盗撮の証拠を握って言いなりにできる都合のいい相手ができたから。

 それはひとつの理由ではあると思う。

 実際、晩ご飯はいつも私の奢りだし、ジュースだのお菓子だのを買いに行かされたりすることは多々あった。

 けれどそれだけなら残業が終わるまで待つ必要はない。

 むしろ遅くまで公園でひとりでいるほうが危ないから家に帰っていたほうが安全だ。

 それにも関わらず乃愛ちゃんは残業で遅くなっても公園で待っていてくれる。

 しかも他愛のない要求をする以外はたいていお喋りに時間を費やしていることがほとんどで、残業で遅くなったときも晩ご飯を食べているときの話題はその日に学校であったことなど、他愛のないお喋りに終始している。

 もしかして寂しいのだろうか。

 確かにその線はあると思う。

 共働きで両親は不在。友達だって学校が終われば一緒に帰って遊びに行ったりすることもあるだろうけれど、学童保育で学校にいることが多い乃愛ちゃんはそういうこともあまりしないのかもしれない。

 奴隷だなんて言うけれど、たまたま言うことを聞かせられる相手が見つかって、いい話し相手ができたから、ひとりで家にいるのがイヤだから、乃愛ちゃんは私と一緒にいてくれるのかもしれない。

 そう思うと乃愛ちゃんが不憫に思えてきた。

 奴隷扱いされたりはするけれど、それ以上に乃愛ちゃんが私と一緒にいることで寂しさとかを感じないでいられるなら、私は乃愛ちゃんの奴隷のままでいい。

 けれど、私だって社会人でしがない会社勤め。いつ異動があってもおかしくない。いつまでも乃愛ちゃんの側にいられるわけではないのだ。

 でもそれは乃愛ちゃんがもっと大きくなって、ひとりでも寂しく感じないような年齢になってからのほうがいいななんて思った。

 今日も今日とて何とか定時までに仕事を終わらせて、急いでいつもの公園に向かう。

 あいにくの雨模様で乃愛ちゃんがひとり傘を差して公園のベンチで待っていると思うと気が急いて走る足もどんどん速くなる。

 5分もしないうちに公園に到着すると、いつも乃愛ちゃんが座っているベンチに乃愛ちゃんはいなかった。

 いつもならここで待っていてくれていると言うのにどうしたんだろうと思ってしばらく乃愛ちゃんを待ってみることにする。

 けれど1時間経っても2時間経っても乃愛ちゃんは現れなかった。

 今日はもう乃愛ちゃんは来ないだろうと言うくらいの時間になってから公園を離れた私は翌日も、またその翌日も乃愛ちゃんに会えずじまいだった。

 どうしたんだろうと不安と心配が募る中、毎日公園に通うこと1週間余り。

 久しぶりに乃愛ちゃんが公園で待っていてくれた。

「乃愛ちゃん」

「奈美恵」

「久しぶりだね。どうしたの? 最近ぜんぜん会えなかったけど」

「奈美恵、ひとついいことを教えてあげる」

「何?」

「もう奈美恵はあたしの奴隷でも何でもない。赤の他人。もう公園で待ち合わせる必要はないから」

「え? どうして?」

「……」

 乃愛ちゃんは押し黙ったまま、答えない。

 いきなりもう奴隷じゃないと言われても、今までずっとここで会ってお喋りをして、少なくとも私は乃愛ちゃんと仲良くなれたと思っていたのに、どうしてこんなことを言うのだろうと思った。

「……先生に見られて……あの人はどういう関係なんだって言われたわ。知り合いのおばさんって答えたけど、先生から素性も知れない相手と会うのはやめなさいって怒られて……。だからもう奈美恵と一緒にいられない……」

「そんな……」

「まぁ、奈美恵はせいせいするでしょうね。奴隷から解放してあげるんだから」

 つんとそっぽを向いて言ったその言葉は強がりだとわかった。

 やっぱり寂しかったんだ。

 ひとりでいることが耐えられなくて、ちょうどいい具合に言いなりにできる相手ができたからひとりでいる時間を減らせられる。だから乃愛ちゃんは奴隷と言いながらいつも他愛のないお喋りで、私が感心するのを見て満足していたのだろう。

「ねぇ、乃愛ちゃん。乃愛ちゃんはそれでいいの?」

「あたしじゃなくて奈美恵がいいんじゃないの?」

「私は乃愛ちゃんの奴隷でも何でもいいよ。乃愛ちゃんと一緒に過ごす時間はとても楽しくて、もうかけがえのない時間になってるもん」

「何それ、奴隷のクセに」

「それでも、だよ。ねぇ乃愛ちゃん、乃愛ちゃんが私と一緒にいてくれるのはホントは寂しいからじゃない? ひとりでいるのがイヤだから私と一緒に過ごせて、ひとりでいる時間が減って、それでよかったんじゃないの?」

「バカ、そんなんじゃ…ない…わよ……」

 否定する言葉が弱々しい。

 そのことが私の推測が正しいことを裏付けているように思えた。

「先生からは素性が知れないって言われたんだよね? だったら叔母と姪ってことにしない? 仕事の都合で引っ越してきた叔母さん。そういうことにしておけば、先生だってもう何も言わないと思うよ?」

「こんなロリコンが親戚? 冗談じゃないわ」

「でももう会えなくなるんだよ? 寂しくない?」

「寂しくない」

「私は寂しいよ」

「奈美恵……」

「奴隷のままでもいい。乃愛ちゃんと一緒にいられるなら私はそれで構わない。今までどおり、他愛のないお喋りをして、晩ご飯を食べて、乃愛ちゃんが寂しくないのなら私はそのままがいい」

「でも……」

「先生には私から話をしてあげる。叔母と姪ってのがイヤなら理由くらいなんでも考えてあげる。私は乃愛ちゃんの奴隷なんだから、乃愛ちゃんが望むことを何だってしてあげるよ?」

 再び乃愛ちゃんは押し黙る。

 けれど、少ししてぽつりと言葉を漏らした。

「あたしだって……奈美恵と離れたくない……」

「乃愛ちゃん……」

「最初は面白いおもちゃが手に入ったって思ったわ。何でも言うことを聞いてくれるし、パパやママが帰ってくるまでの時間稼ぎにちょうどいいと思った。でも奈美恵ったら奴隷のクセに優しいんだもん……。そのうち奈美恵と一緒にいるのが心地よくなって、一緒にいるのが楽しくなった。だから離れたくない。こんなおもちゃ、絶対にもう手に入らない……」

「じゃぁ私に任せて。とにかく先生を説得できる理由を考えてあげる。だから私を乃愛ちゃんの奴隷のままでいさせて」

「信じていいの?」

「うん、任せて」

「…わかった。じゃぁ今度先生に会わせるから、奈美恵が都合のいい日にちと時間を教えて」

「うん、わかった。それまでに理由を考えておくね」

「うん」

 頷いて、弱いけれど乃愛ちゃんは私に笑いかけてくれた。


 バレたらバレたときよと乃愛ちゃんに協力してもらって、昔近所に住んでいた仲のよかったお姉さんと言う設定を作り上げてから、仕事は午後半休をもらって乃愛ちゃんの先生にその説明をした。

 もちろん胡散がられたけど、乃愛ちゃんが機転を利かせて昔からよく遊んでくれていたお姉さんなんだと言い張ってくれたおかげで、先生は信じてくれたようで、私のほうに仕事もして忙しいだろうが家庭の事情もあるからよろしく頼むと言われてしまった。

 これであの公園で乃愛ちゃんと一緒にいても不審がられる心配がなくなって、再びいつもの生活が戻ってきた。

 ちょっぴり変わったがあって、それは乃愛ちゃんが今までより側に寄り添ってくれるようになったことと、晩ご飯に出掛けるときに手を繋いでくれるようになったことだった。

 盗撮していたときから一番のお気に入りで可愛いと思っていた乃愛ちゃんがより近くなったような気がして、嬉しくなった私はいつにも増して乃愛ちゃんを可愛がるようになった。

「ほら、またピーマン残してる」

 チェーン店の定食屋さんで乃愛ちゃんと晩ご飯を食べていた私はピーマンを残して食事を終えた乃愛ちゃんに注意した。

「うるさいなぁ。嫌いなんだからしょうがないじゃん」

「ちゃんと食べないと大きくなれないよ」

「奴隷の分際でママみたいな小言言うな。それともあの写真、バラされたいわけ?」

「そ、それだけは勘弁して……」

「じゃぁ今後は口うるさくしない」

「でも好き嫌いはよくないよ? 給食でだってピーマンは出るでしょう?」

「他の人にあげてる」

「ずるいよ、それは」

「うるさーい! 盗撮が趣味のロリコンのクセに生意気!」

「それだけ乃愛ちゃんのことが心配なんだよぉ」

 そう言うと私の真剣さが伝わったのか、乃愛ちゃんは渋い顔をして黙り込んでしまった。

「乃愛ちゃん?」

「わかったわよ。次からは食べるわよ……」

「うんうん、そうしよう」

 私は素直な乃愛ちゃんにパッと顔を明るくして頷く。

「そう言えば乃愛ちゃんの誕生日っていつなの?」

「もうとっくに過ぎたわ」

「え!? なんで教えてくれなかったの!?」

「聞かれなかったし」

「えー! じゃぁ明日プレゼント買いに行こう! 何でも好きなもの買ってあげるよ?」

「何でも? ホントに?」

「そんなに高いものじゃなければ……」

 つい口走ってしまったものの、すぐにトーンダウンした私に乃愛ちゃんは小悪魔のような笑みを浮かべた。

「でも何でもって言ったわよね? さて、何を買ってもらおうかなぁ。明日までに考えておくから覚悟しておきなさい」

「はい……」

 言ってしまったものは仕方がない。カードで払えるレベルの品物でありますようにと願いつつ、プレゼントのことを考えてか、うきうきし始めた乃愛ちゃんを見ていると、少々高くても乃愛ちゃんが喜んでくれるならいいかと思うようになった。

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ロリコンの私は小学4年生の奴隷になりました。 馮秀英(ふぉんしゅういん) @fongxiuying

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