終話 クリスマスプレゼント

 彼が亡くなったと娘から聞いた。


 病院で最後に彼に会って3週間後だった。

「アイちゃんのお父さん、亡くなったって…。可哀想だ…」とミナは友人のアイちゃんの為に泣いていた。自分の父親もいないくせに…。

 成績はイマイチで残念だが機転が利いて優しい子だ、きっと幸せになれるだろう。こんな時に親馬鹿だがそう思った。

 私はミナに、

「アイちゃんに、良かったらいつでも泊まりにおいでって言っておいて。あまりお構いできないけどいつでも大丈夫だから」と告げた。

 一人っ子だから、こういう時とても辛いだろう。うちは旦那もいないし来やすいと思う。心残りな彼の分も少しでもアイちゃんに何かしてあげたかった。

 大事な娘の将来の為に大好きな奥さんを追い出した彼。

 辛い思いをしながら決断した彼は正しかったんだろう、きっと。

「やだ、お母さんまで泣いてる」

 私もいつの間にか泣いていた。

 娘が呆れるほど長い時間泣いた。


 彼の奥さんは噂で実家に戻ったと聞いた。みつぐお金が無くなり浮気相手に捨てられたそうだ。幻想かもしれないが、いつかアイちゃんと幸せに暮らせるといいと思う。

 私はというと、色気もなく相変わらず仕事に忙しくしていた。

 木村さんは奥さんと子作りに励んでいると嬉しそうに会社で吹聴して笑いをとっていた。もちろん私にちょっかいを出すこともなくなった。


 団地の浮気ブームは終焉しゅうえんを迎えていた。

 私の世界は以前よりカラフルになり、楽しいことが増えた。日常は変化していない。ガチガチに凝り固まっていた私の中身が少し変わったのだ。




 コウ君が教えてくれた夫の住所には迷ったが行かなかった。

 彼に帰ってくる時期を自分で決めさせてあげたい。私が行ったら帰って来るか決断せざるを得なくなってしまう。それは嫌だ。


 バタバタ仕事をさばいているうちに年末でクリスマスだ。

 家ではささやかなパーティの準備をミナたちがしているだろう。今日はアイちゃんが泊りに来てくれるそうだ。息子の親友も来る。

 骨付きローストチキンを予約してあるので鳥肉屋さんに早く行かなくては。

 皆が今日は会社を早くあがって家族や恋人・友人と過ごすのだ。


 買い物を済ませて家に帰ると、ケーキらしき包みを持ってる人が玄関にいた。

 誰かすぐわかった。コウ君からのプレゼントだ。

 彼は家に入ろうか迷っている。

 私は声をかけた。昨日まで一緒にいた家族のように。


「良かったら入ったら?今日はクリスマスだよ」

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日が暮れる前に話しておきたい 海野ぴゅう @monmorancy

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