第5話 会社の片隅で

 次の週、木村さんは何もなかったかのように振る舞っていたが、少し違った。不自然に指や肌が触れ合う機会が多い。

 やっぱり酔っていたんだと安心したい私は、知らないふりをした。

 

 土曜日の夜はみんな帰宅が早い。部長でさえ家族の為に(実は部下が帰りにくいから気を使っているのではないかと私は睨んでいるが)早く帰る。

 私は木村さんの急ぎの仕事で図面を作っていた。月曜日一番の打ち合わせで使うので今日中に仕上げなくてはならない。

 図面を仕上げて見積もりを始めた。10年も続けていると機械的に必要な項目と値段が頭に入っているので便利だ。出来上がったものを木村さんに渡した。その際に少し指が触れた。私がビクッとしたら、彼は「冷たい指」と言って私の手を握り込んだ。冷え性なのだ。

 彼の手はとても温かくて…困る。

「見積もりと図面のチェックお願いします。何か飲み物入れてきます」と言って私はドギマギしながら手を優しく振り払った。40歳にもなって手を握られたくらいで赤くなって恥ずかしい。

 給湯室で熱いほうじ茶を2つ淹れた。

 彼はためらいながらも少しずつ私に接近しているように感じる。私はそのたびに拒否しているつもりなのだが、何だか伝わっていないようだった。



 ゴールデンウイークなどの休み前の夜は毎年飲み会が開かれる。

 私はわざと遅くに着いて、木村さんから不自然に遠く離れたところで座って大人しくしていた。すると目ざとく河合さんが寄ってきて、

「なに、木村とケンカでもしたの?珍しい」とからかってくる。ごつい見かけによらず繊細なので心配しているのだ。

「いえ、そういう訳ではないです。今日はたまたま席が離れただけで…」と言ったら、じゃあこっちにおいでと河合さんに連れられて木村さんと河合さんの間に座らされた。

 3人で話していると自然仕事の話になる。

「今井邸はもうちょっと緑のボリュームが欲しかったよな…」と一緒に組んで施工した現場の話をしているのと、河合さんが部長に呼ばれて席を立った。彼がいなくなると「避けてる?」と木村さんがお酒を飲みながら小さな声で聞いた。

「…はい」

 当たり前だ。

「なんで」と彼は聞いた。

「なんでって…お互い結婚してますし。木村さんの奥さんに悪いです」

「じゃあ、別れたらいいの?」

 なんでそうなるんだ!思わずビールを吹きそうになった。

「な、なんで別れるんですか?」

「おまえの事が好きだから。あと…子供がいないから」

「子供…」

 気にしていたんだ…てっきり子供がいない生活を楽しむタイプの夫婦だと思っていた。

「俺は子供がたくさん欲しかったんだ。でも奥さんが働きたくないから子供はいらないって。それでもずっと良かったんだが、おまえが一人って聞いてチャンスかなって」

「チャンスって…一人じゃないですよ。先輩、私結婚してますって」

「俺は別れておまえを待つ。だから俺の事好きになればいい」と熱い瞳で告白した。お酒を飲んでる人にそんなこと言われても…。

 しかし木村さんの夫婦はうまくいっていると思っていたので、聞いて驚いた。どこの家庭も問題がなさそうに見えてあるんだ。実際私の家庭だって周りはうまくいってると思っているだろう。

 でもそれにかこつけて彼が私に手を出すのは違う。

「別れるのは私に関係なく、もっとよく話し合ってからがいいです。奥さんに子供が欲しいって思っていることを言ってみたらどうですか?」

「…俺はもう…」と彼がなにか言おうとしたところで河合さんが戻ってきた。

「なー、エライ事聞いちゃったよ。提携でTホームの外構もうちがやるかもしれないって」

 Tホーム。纐纈こいげつ家もそうだった。あの素敵な家庭。アイちゃんの家こそ問題なさそうだ。エリート会社員と綺麗な奥さん、素直で可愛い子供。うちとは全く違う。

「へー、やっぱりTホームも住宅着工件数が減ってるから、経費削減したいんだろうな」と木村さんはすぐに切り替えて言いながら、顔色が変わった私をちらりと見た。出産休暇を除くともう木村さんと組んで10年以上たつ。私の事を良く知っているのだ。

 河合さんが戻って来てくれたので、3人で最近の現場をネタに飲み直す。

 木村さんの私を見る視線が怖くて飲み過ぎてしまった。

 私は2回続けて飲み会で酔いつぶれた。



 夜中にまた会社の仮眠室で目を覚ました。

 髪を触られている。

 目を開けると木村さんが眼の前に横になっていて、今度は私の顔を指でつつつ、と触っていた。夢?

 違う、リアルだ。

 酔っているのだろうか、私の唇を触って耳を触る。そして首。

 彼は私が目を覚ましたことも、周りに同僚がいるので大きな声を出せないとわかっている。こんな小さな部署でなにかあったら、間違いなく辞めさせられてしまうだろう…。

 指は私のニットの上から胸を触る。私は彼の腕を掴むが全然びくともしない。

「…やっ…」

 首を振って意志を示しても全く効果がない。彼は胸の先端のあたりを念入りに触って私の反応を確かめてから、ニットの下から手を入れてブラジャーの中に手を潜り込ませた。

 私の小ぶりな胸が大きな男らしい手ですっぽり包まれた。手のひらで優しく触られて声が出る。

「っ…やめて…んっ…」

 彼が口を塞いで声を出ないようにする。

 私は彼の顔を押しのけようとしたが、彼が私の両手首を片手で掴んで上にあげる。万歳の姿勢にしてから、彼はゆっくりニットを上にたくし上げた。胸が丸出しにされて心細い。

「や、やだっ」と小さく言うが彼はブラジャーを上にずらして先端を口に含んだ。

 彼の舌を感じて身体が反る。

「ここ、気持ちいいんだ。サヤ、声出すの我慢してるの?我慢できる?」とひそひそ言う。酔っているとはいえ強引にこんなことする人じゃないと思っていた。

「お願い、やめて…」と彼の耳元で小さな声でお願いする。

「…元カレとしたんだろ…おまえを毎日見てたからわかる。すごく良かった?ん?」と今度は私の耳元で言って、彼は首筋を噛む。

 声が出そうになるのを止めるのがしんどい。

「何度したの?正直に言ったら止めてあげる」

「ご…5回…っ、…」

 でも彼は私の返事を聞いて余計に意地悪になった。

「ふうん、たくさんしたんだ…どんなふうにしたの?」と言って、私のストッキングを脱がし、スカートをまくり上げた。

「だ、だめですってば。ここ会社…んっ」

 彼は私の下着の上から指を撫でるようにゆっくり動かした。

 思わず声が出る私の口を長い間塞いだ後、私の下着の中に顔を埋めた。

 下着をつけたまま横から彼の舌が中に入ってくる。

 私の一番敏感な部分が舐められると、身体が大きく反応する。

「や、やだっ…そこはっ」と彼の頭に手をやるが、私の腰に腕をまわしていて全く動かない。

 ぐいぐいと舌が入れられて恥ずかしくてめまいがする。

 彼が私から離れてやっと呼吸を整えられた。

「はあっつ…」と大きく息をついたら、彼が下着を脱がして私の足を持ち、大きく開いて彼の指をゆっくり突っ込んだ。いきなり奥まで入れられて声が出そうだったが、彼がまた口を塞いだ。毎日仕事場で見ている彼の男らしい指が今自分の中に入っていると思うと現実とは思えずめまいがする。

 なんでこんなことになったんだろう…?彼に好意を持っているけど、こんな関係は望んでいない…。

「…っ…んっ…」

 彼が私の体勢をうつぶせに変えると、一番奥まで入ったと思った指の本数を増やして何度も何度ももっと奥まで突っ込んだ。私の身体が意志に反して敏感に反応して熱くて仕方ない。

 彼の指の動きが段々早くなる。空いている腕が私の身体に強く強くまとわりついた。彼に激しく抱きしめられてたが、声を出さないようにするので精いっぱいだ。

「…あっ…」

 ついに私は絶頂に達して力が一気に抜けた。



 朝起きたら普通に服を着て私だけ布団がかかっていた。

 あれ?夢だったのか、良かった。

 私本当にほっとした。しかし欲求不満なんだろうか…あんな夢…。

 そう思っていたら「おはよ」と木村さんが側に来て言う。距離が近くて私は後ずさった。

 周りを見渡すともうみんな帰ったようで誰もいない。

「起きるの遅いね。昨夜ので疲れちゃった?」とニヤリとして聞く。

「え…うそ、夢じゃないんですか?」

「夢、じゃないよ」と言ってキスした。昨夜と同じたばこの味。びっくりしすぎて黙っている私に、

「最後までして欲しかった?」と聞いたので、首をぶんぶん横に振った。

 本当に夢であって欲しい。

 彼はまた私に近づいてキスしようとしたので私は布団で彼を止めた。

「今度こういうことをしたら会社辞めます」とやっと言ったら、

「そう言うと思った」と言って彼は寂しく笑って聞いた。

「奥さんと別れたらしてもいいの?俺はおまえが欲しいんだよ」

「だめです。私結婚してるって言ってるじゃないですか」

 何度同じことを言わせるのか。

「でも元彼とはしてるんだろ?」と不機嫌そうに私に言葉をぶつけた。。

「…彼とは1回だけのアクシデントです。もう2度目はありませんから」

 そう言って、私は彼を残して会社を出た。

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