第146話 キス

ものすごく楽しみにしていた花火が始まった。


普段なら、そっちに視線を向けるだろう。


だが、今俺はそっちを向いている場合ではない。


目の前で、瞳を閉じた少女。


楽しみにしていた花火ですら雑音に聞こえてしまう。


ど、どどどどうすればいいのだろう。


俺は真昼のことが好きなのか?


俺はこの少女にどのような態度を取ればいいんだろうか。わからない。


彼女なんてできたこともないし、俺の知ってるのはあくまでも二次元だ。


三次元の恋なんてわからない。


それなのに……キスなんてしてもいいんだろうか?


真昼は十分可愛いし、悪いところを探す方が難しいぐらい魅力的な子だ。


今でも、真昼が俺のことを好きだということが信じられない。夢なんじゃないか?何度も思った。でも、夢じゃなかった。真昼は俺のことが好きだと言った。


俺は真昼のことが好きだ。


でも、それがlikeなのかloveなのか……。


真昼が瞳を閉じてから時間が経つ……。


どうすればどうすればどうすればどうすれば……。


必死に頭を働かせるが、何も浮かばない。


てか、キスってそんなにも考えないといけないことなのか?


ふと思った。


だって、外国では挨拶でもキスをすると聞いたことがある。


それなら、一回ぐらいしてもいいんじゃないか。


俺は考えた。


そして、俺はある発見をした。


そして、それを真昼に伝えようと、真昼の肩に触れた。


「真昼……」


俺が言うと、真昼は一瞬ビクリとかたを揺らし、恐る恐る目を開けた。


「真昼」


「は、はい……!」


なぜか真昼は緊張しているようにも見えた。声が震えている。


俺はしっかりと真昼の目を見て言った。


「一ノ瀬と村瀬があそこからこっちを見てる」


俺は一ノ瀬たちがいる方を指す。


「……え?」


真昼も俺の指している方を見る。


「……ほんと、だ」


一ノ瀬や村瀬と目が合う。


向こうは完全に「やってしまったー」みたいな顔をしている。なるほど、真昼にも秘密で来ていたのかもしれない。


「あいつらのとこに合流するか」


俺は一ノ瀬たちのもとへ歩こうとした時だった。


「京くん」


「ん?……っっっ!!!」


俺が振り向くと、真昼は俺の頬に手を当て、引き寄せる。


そして、俺の唇と真昼の唇が優しく触れた。


俺は突然のことすぎて、頭が真っ白になった。


唯一脳でも理解できるのは、真昼の唇の柔らかさ。


花火の音が聞こえるが、花火どころではなかった。


俺は人生で初めてキスをした。


抵抗することさえ考えることができなかった。


数秒経ち、真昼がゆっくりと解放する。


俺が何も考えられず、ただ真昼を見ていた。


真昼は少しいたずらっ子っぽく言った。


「もう、ずっと待ってたのにー。京くんからこないからちょっと怖かったんだよ。今日は恋人なんだから、キスしても問題ないじゃんか。次キスする時は本当に付き合った時だね。次は京くんからしてきてね。今後は一日恋人だからってキスしちゃダメだからねー。それじゃ、くるちゃんとこ行こっか」


俺は今日、人生で初めてキスをした。


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