第145話 約束

周りを見ても暗いことが分かる。


もう少しで花火が始まる。


花火大会に来るなんていつぶりだろうか。


正直、花火を見た記憶がない。小学生の頃はもうオタクだったから、見に行ってたとしても多分幼稚園の時ぐらいだろう。それぐらい久しぶりだ。


まあ、今日のは花火大会ほどすごいものではないだろうけど。


でも、素直に楽しみだった。


俺の中では、初めてと言ってもいいかもしれないし。花火とはどんなものなのか、楽しみで仕方がなかった。


それに、今日という一日はかなり大きな一日だった。


初めての恋人とのデート。


素直に楽しかった。


スマホで時間を見ると、あと花火まで5分ほどだ。


「ねえ、京くん」


「ん?なんだ?」


「花火見るのなんて、久しぶりだね」


「……え?」


ん?どういうことだ?俺と真昼が花火を見に行ったことがあると?全く記憶がない。


「えー、覚えてないの?!」


真昼はかなりがっかりしているようだった。そんなに大切な日だったら、覚えてるはずなんだけどな。


「ご、ごめん……」


「ううん、大丈夫だよ。じゃあ、あの約束のことも、覚えて……ないよね……」


最後に何やら『約束』という言葉が聞こえたが、いまいち聞こえなかった。


「やくそく?」


俺が聞くと、真昼は小さくため息をついた。


「まあ、こんな約束を高校生になっても信じてた私がバカなだけなんだけどね。でも、その約束が叶えばいいなってずっと思ってたんだ……」


「約束って?」


俺が聞くと、真昼は何やらもじもじしている。


あれ?俺なんか変な約束しちゃったのか?!


なんか嫌な予感がする。


「…………ス」


「え?」


ほとんど聞こえなかった。


『ス』ってなんだ?全く見当もつかない。


真昼は頬を赤く染めている。


「キ、キス……」


「え、なんて?」


きっと聞き間違いだ。


どうせ俺の変態妄想でそう聞こえてるだけなんだ。


「キ、キス!今度花火見る時はキスしようね!って言ったの!はい、だから」


そう言って、真昼は瞳を閉じた。


どうやら俺の耳はまだ正常なのか、幻聴しか聞こえなくなってしまったらしい。


”ドーン!ドンドンドーン!ドーン!ドンドン!”


どうやら花火が始まったようだ。


って、そんな場合じゃないぞ!


こ、これって、キ、キスしろってことなのか?


ど、どどどどうしたらいいんだ?!


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