第136話 彼氏ができました。

うそ……。今、京くん、今……恋人って……。


分かってる。嘘だってことは分かってる。ああすることが私をナンパから守る一番の方法だったんだよね。


嘘だって分かっていても……嬉しかった。


小学生の頃からずっと好きだった相手から「恋人」って、言われたんだよ。


素直に嬉しかった。でも、何故だか複雑な気分にだった。


私をナンパしていた男たちも諦めてどこかへ行ってしまい、今はベンチに座っている。


ベンチに座ったものの、沈黙が続いていた。


なんか、気まずい……。


「さっきは、あり、がと……」


「お、おう。俺も来るの遅れて悪かったな」


「いや、全然。ほんとに、ありがと」


「おう……」


「…………」


「…………」


どう頑張ったって、すぐに黙ってしまう。


私はさっき京くんにもらったお茶を飲む。


ふう、ちょっとここは攻めてみようかな。どうせ気まずいなら、一か八かで!


「京くん、さっき私のこと恋人って言ったよね?」


私が言うと、あきらかに肩をビクリとさせる。


「お、おう。そのことは本当に悪いと思ってる」


ふむ、その言葉を聞きたかった!


「うん、それは許してあげる。でも、一つ条件があります」


「……え?」


京くんと目があった。


さて、成功するかわからないけど、一か八か!


「条件として、さっき京くんも自信満々に言ってた通り、私は今日一日京くんの恋人になります!」


「……え?」


京くんはいまいちピンときていないようだった。まあ、わからなくもないよ。だって、突然「今日一日あなたの恋人になります!」って言ったんだもんね。


まあ、さっき京くんの言った「恋人だ!」もだいぶインパクト強かったけどね。


京くんはまだわからないかもしれないけど、今日は絶対に私の彼氏(仮)になってもらう。そして、いつかは本当の彼氏になってもらうだ!


「だから、今日一日私たちは恋人同士になるってこと!さっきかっこよく言ってくれたんだから、最後まで責任とってもらわないとね」


私はちょっといたずらっ子っぽく言った。


数秒の沈黙。


あれ?やっぱり調子になりすぎちゃったかな?!京くんに嫌われちゃった?!ああもうどうしよう?!


「わかった。ちゃんと責任取らせてもらいます」


京くんが喋ったと思い、私は京くんの方を向いた。


ズキュキュキュキュキュキュキュキュン!!!


私の胸に大きな矢が刺さった。


卑怯だよ。そんな笑顔で言われたら……。


「うん!今日は彼女の私に色々と付き合ってよね」


「おう、任せとけ!今日はお前の彼氏だ。改めてデートのスタートだな」


とうとう私にもできました。


『今日だけの彼氏』が。


「よし、どこ行く?どこへでも付き合うぜ?」


こういった、たまにふざけたりする京くんも大好きなんだよね。


ほんと、京くんは小学生の頃変わってない。


「ダメだよ。まずはお昼ご飯ね。一生懸命作ったんだから」

「おう、それは楽しみだな!」


私たち、恋人同士のデートが始まった。

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