第87話 あーん

告白されてから数分後、ようやく落ち着いたので夕食を食べることにした。


で、どうして、村瀬は俺の隣にいる?


「おい、なんで隣にいるんだ?わざわざ横に座ったら、あーちゃんも食べにくいだろ?前に行けばいいのに」


「え?あ、私の顔が見たいから正面に来て欲しい?その気持ちはわかるけど、無理だね」


なんだ?突然村瀬が、ラノベとかに出てくるうざいヒロインみたいになったんだが?


俺が「なんでだよ」と聞くと、村瀬はニコッと笑って言った。


「そんなの決まってるじゃん。あーんしてあげるためだよ。あ、でも、あーんなら正面の方がいいか」


村瀬は勝手に自分で納得して、机を挟んで正面に座った。そして、俺を見つめてくる。


見られてる思うとどうしても動揺が隠せない。


にやけてしまう。そこを村瀬は見逃さなかった。


「やっぱり私のことを見たかったんだね。いいよ。けーちゃんならなんでもしてあげるよ」


村瀬はそう言って、今日の夕食のカレーを一口スプーンですくった後、俺の口の前に差し出した。


「はい、あーん」


いや、これってやばくない?!これがアニメとかではよく出てくるあーんというやつなのか?!実際にしてもらうと思うとめちゃくちゃ恥ずかしいじゃねーか。


ってか、これって間接キス……だよな?


当たり前だけど、俺人生で家族以外は初めてだぞ!しかも、その初めてが男ではなく女の子。しかもその子はめちゃくちゃ可愛くて、俺のことを好きと言ってくれている。


なんだこれ?本当に現実か?も、もしや、夢なんてことないよな?


俺は村瀬に気づかれないように太ももを抓った。


痛ってー!叫びそうになってなんとかとどめた。


でも、これで現実だということはわかった。


「けーちゃん?」


これは……、食べてもいいんだよな?


「けーちゃん?はーやーくー!そんなに食べたくないと?それじゃあ、私に殴られるのと、おとなしく食べるのどっちがいい?」


ものすごい選択肢が出された。


いや、この質問で殴られる方選ぶ奴いるの?そいつ多分かなりのドMだな。


「そ、それなら……」


俺は少し間を置いてから返事をして、口を開けた。


まぁ、悩んでなんかないけど。


村瀬は俺の口にスプーンを入れた。


なんだこの味……。普通に食うより、何倍もうまく感じてしまう。


これが、あーんか。おそろいな。


「どう?おいしい?」


村瀬がニコニコしながら聞いてきた。


「お、おう。うまい……」


「それはよかった。けーちゃんの照れた顔も見れたし、一石二鳥だね。」


それを言った後、村瀬は再び俺の隣に来て、耳元でささやいた。


「これって、間接キスって言うんだよ。私たち、キスしちゃったね……」


俺は明らかに動揺してしまった。


村瀬はそれを見てニコニコ笑っている。


「まだまだ食べさせてあげるからね。はい、あーん」


この後、俺は村瀬からもう何回かあーんされた。


めちゃくちゃうまかった。


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