第67話 伝える
「えっ?一ノ瀬さんと、……も…り…きくん?って付き合ってるの?」 「いや、一ノ瀬さんだぞ!あんなやつと釣り合うわけがないだろ。もしかしたら、なんかの理由で脅されてたりするのかも」
一ノ瀬が俺にお弁当を渡したの目撃したクラスの生徒たちは、俺と一ノ瀬が付き合ってるのではないかと騒いでいた。
その前に一つ言わせてくれ。
おい!はじめに喋った女!名前ぐらいちゃんと覚えてくれよ!悲しいじゃないか!
それと、それに続いて喋った男!俺が人を脅せるような人間に見えるか?!悪いが、俺にそんな情報網はない。勝手にストーカーみたいな奴と同じにするな!
俺はそんなことを言う勇気はないので、一ノ瀬からもらった弁当をすぐさまカバンになおして寝たふり……寝たふり……。
朝のチャイムが鳴った。
俺が顔を上げると、クラス中の視線がオレに集まる。
おそらく、今日が俺が生まれてきて初めてみんなから注目されたことだろう。これで、俺は有名人にでもなってしまったかな。
まぁこれで、俺への殺意の数は増したことだろう。
その後も、俺は授業が終わるとすぐに寝たふり。これをひたすら繰り返した。
しかし、それが通用しない時間が来た。
そう。昼休み。
いつもの俺なら、ずっと寝ていても特に気にされないが、今日は違う。
俺が一ノ瀬からお弁当をもらったことをクラス中の生徒が知っている。
そのため、もし、ずっと食べずに寝ていたとしたらどうなるだろうか。
一ノ瀬という超絶美人で性格も完璧な相手からの手作り弁当……。
みんな、喉から手が出るほど欲しいだろう。
それを食べないなんて、100%殺されるな。
俺は、ゆっくり顔を起こし……て、
「森木、ちょっと飯一緒に食おうぜ」
「はい……」
郷田が目の前で、俺が起きるのを待っていた。
あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!
逃げ道が完全にねえぇぇぇぇぇ!!!!!
おわっったぁぁ…………。
俺は一ノ瀬からもらった弁当をカバンから取り出し、イライラメーターがおそらく高い郷田についていく。
郷田が選んだ場所は、絶対人が来ねえだろとツッコめるほど、薄暗くて、ベンチひとつすらない場所だった。
郷田が地面に座ったので、俺もその横に触る。
「おい、お前、俺に隠してることあるだろ?」
いつもの起こった雰囲気とは違い、少し冷静に話している。いつも暴れ回ってるような奴が突然おとなしくなるとか、めちゃくちゃ怖いんですけど!
「まさか……。どうしてそう思った?んですか」
ちょっと友達のように話してみようと思ったが無理だった。
「言わなくても分かるだろ。昨日のことといい、今日のことといい、お前と一ノ瀬さん、宮下さんはどこかおかしい」
ですよねー。わかってましたー。流石にヤンキーでも気付きますよねー。ヤンキーがとてつもなくバカで、全て忘れてたっていう結末を信じてたんですけどね……。
くそっ!早く5時間目のチャイム鳴れよ!
昼休みなんて5分あれば十分なんだよ!
「で、ですよね……」
ごめん一ノ瀬、真昼……。もうダメかもしれない。
「誓おう。絶対に他言しないと約束する。そして、絶対に今日はお前のことは殴らないと約束しよう。頼むから、教えてくれないか?」
あ、殴らないのは今日だけなのね。
それに、郷田の目を見ればなんとなく分かる。こいつは嘘をついてはいない。
悪い、一ノ瀬、真昼。俺は郷田に伝える。
「わかった。その前に、本当に冗談抜きで他の人には言わないで欲しい」
郷田がこくりと頷いたので、俺は伝えた。
一ノ瀬と真昼が俺の隣人であること。
夕食を一緒に食べていること。
そして、お弁当制度が今日から始まるということを。
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