第30話 言います!

「さてさて、日も暮れたしそろそろ寝る場所決めようか。安全な場所がいいよね」


 村を出て初めての2人夜を明かすことになる。さっきのイノシシの件もあって場所選びには慎重だ。ヴィークが魔法使えばどうにでも出来るのだが。


「あっ。あそこなんてどう? なんか湯気でてない?」


「ん? あ、ほんとだ。水から湯気が出てるのか?」


 遠くからでは見づらいが、近くに行ってみると確かにもくもくと湯気らしきものが立ち込めている。


「ヴィーク! 来て来て! この水温かい! すごい凄い!」


「どれどれ。あっほんとだ。これ確か温泉っていうんだっけ。金持ち貴族御用達の自然に湧き出る温かいお湯のことだったような」


「へぇ、おんせんって言うんだね。じゃあここも貴族のものなの?」


 それはないだろう。こんな王都より離れた場所に来るはずもない。


「それに、こんな感じじゃなくてもっと屋敷見たいな感じらしいよ。それでこのお湯をお風呂に使うんだって」


「ふうん。貴族って何もしなくて威張ってるだけなのに、そんなことまでしてたんだ」


 何故かちょっと不機嫌というか、テンション低くなったアイン。昔、何かあったのだろうか。でもそこを深く追求するのは辞めておく。


「それじゃここで今日は泊まろうか。ちょうど温泉あるんだしせっかくだから入ってみよう」


「え? これって私たちも入れるの?」


 なんの整備もされてないただお湯が湧き出ているだけのものに誰のものとかはない。温度もちょうどいいし、入らない手はない。


「それに知ってる? 温泉って美容効果もあるらしいよ。今も可愛いアインだけど、もっときれいになって欲しい」


 そうやって言われれば最初から入る気全開だったものがもっと全開に。きれいになって欲しいって言われたら任せてと言ってあげたい。


「そうやって言ってもなにも出ないよ。でも可愛いって言ってくれるのはやっぱりうれしい。じゃあ…一緒に入ろ?」


「アイン…そろそろ別々に入ろう。サムさんの家ならまだしも今はダメだと思うんだ」


「え? どうして? 私はヴィークと入りたい」


 いつも一緒に入っていたんだからいいじゃないのと言うアイン。確かに言われればそうなのだが、ヴィークにはある理由があった。


「まあもういいだろう。いろいろあるんだよ」


 ごまかしてこの場を乗り切ろうとしたが、アインがそれを許さない。ずいずいとヴィークに顔を近づけその大きな瞳で問うた。


「なにかあったの? 私と入りたくないんならそりゃ、私も諦めるよ。ヴィークの嫌がることは絶対したくないから」


「いや、そうじゃないんだ」


 口ごもりながらそう答えるヴィーク。余程言いにくいことなのだろう。2人とも隠し事は基本せず、思ったことを素直に言っている。


「これって言っていいのかな」


「大丈夫。私はヴィークのこと大好きだもん。どんなことでも受け止めるよ」


 胸をドンと一つ叩けばヴィークも言う気になったのか、重い口をそっと開いた。


「アインにえっちなことしたい」


「え?」


 思ってもみなかったヴィークの言葉。これにはアインも言葉を失った。


「それはどういうこと?」


「もっと触れたりキスしたり…とにかくいろいろしたい」


 アインの目をしっかり見て真剣に言ったヴィーク。言った内容はあれだけど。


「ってごめん…こんなの気持ち悪いよな。大丈夫。絶対そんなことはしないから」


「いいよ…?」


「アイン、今なんて言った?」


 次はヴィークが驚く番だった。今、アインはなんて言った? いいよと言ったのか? しっかり耳には聞こえたがまさかこと想い聞き返す。


「まだ恥ずかしいからそんなに出来ないけど、キスとかしようよ…私だってしたいもん。あの日も出来なかったけど今はだれもいないから…私はもっとヴィークに触れて欲しいし、私ももっとヴィークにふれたい」


「アインありがとう…なら…一緒に入ろうか」


「うん!」







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