第29話 逃げます!

 その後2人で魚を10匹ほど釣って魚釣りは終わった。捕り過ぎても食べきれないからほどほどにしておいた。


「うーん! すごい楽しかった! またしたい!」


 初めてした釣りが気に入ったのか上機嫌でヴィークにくっつく。


「さて、捕った魚はこのままじゃ日持ちしないし、捌いておこうか」


 ヴィークが包丁を出して捌こうとするとアインが待ったをかけた。


「ヴィーク任せて。こういうのは私がするよ」


「え? でも捌くのは難しいし手に臭いがついちゃうよ」


「そんなの気にしないで大丈夫。エルさんから捌くのは習ったし、手が汚れるのはいずれ落ちるしね。私だって役立つってのを見せてあげる。はい、包丁を貸して」


 そう言うとなかなかに慣れた手つきで魚を捌きだした。鱗を落として内臓を取り出し、三枚におろしていく。ものの5分くらいで一匹捌き終えた。


「すごいな。これは俺よりはるかに上手い。エルさんこんなことまでアインに教えていなのか」


「そりゃね。言ったでしょ花嫁修業だって。こういうのも習ってるよ。それとか旦那さんを喜ばせることとか」


「そ、そうなんだ…よく頑張ったね」


 深く「旦那さんを喜ばせること」については探らないことにする。


「うん。だってヴィークには喜んで欲しいし、ヴィークのこと考えてたらすごい楽しかったの」


 ガサガサッ。


「ひぇっ!? いま何か音しなかった?」


 楽しくお喋りしている2人に近づく何か。すぐにアインを抱き寄せ探査魔法を発動させる。


「アンデットじゃなさそうだな。これは…イノシシとかそういうやつか」


「えっ、こっち来ないよね? まぁヴィークがいるから大丈夫だとは思うけど」


「あぁ、俺がアインを守るから。絶対離れるなよ。こっちから行くことはしないけど、向かってくるなら容赦しない」


 魚を捌いたことで血の臭いを嗅ぎ付けたのだろうか。獣の鼻は良く利くというし。


「マジックボックスはあっちにあるからな。剣は使えないし。さっさとあっち行ってくれるといいんだが」


 しかし、こういいう時はなかなか思ったようにはならなくて。ヴィークたちの前には5匹のイノシシが。普通イノシシなどの動物は人を見ても逃げるものだが、気性が荒いのか2人に向かってくるようだ。


 ちなみにヴィークが戦ったヤヴォスが召喚したスケルトンよりイノシシの方が圧倒的に強い。どんな動き方するか分からないし。


「それじゃアインに怪我させられないし。こっちから行かせて貰おうか。アインちょっと目瞑って」


 アインが目を瞑ったのを確認して魔法を発動させる。


閃光フラッシュ


 ピカッと強烈な光が辺りに広がった。それはまるで太陽がヴィークの手から放たれたかのように。


 イノシシは目をやられてその場でうずくまってしまった。そしてその内にすることはただ一つ。


「アイン今のうちに逃げるぞ! 魚が入った桶は俺が持ってるから。包丁を持って来て。行くよ!」


 アインの手を強く持って走りだす。何があったか分からないアインはヴィークに引っ張られるままに走った。


 マジックボックスを回収すればヴィークは自由飛翔フリーフライで一気に空へ飛び立つ。


「ふぅ。危ない危ない。なんとか逃げ切ったな」


「あ、あのヴィーク…? どうなったの?」


 まだ状況理解ができてないアインがヴィークに戸惑いながらヴィークに聞いた。それにヴィークは一つ息を吐いて答えた。


「閃光を使ってイノシシの目が見えなくなった隙に逃げたんだ」


「なるほどね…でもなら戦えば良かったんじゃないの? ヴィークなら余裕だと思ったんだけど」


 そりゃ元勇者パーティーのメンバーだったヴィークがイノシシくらいで後れを取るわけが無い。でも逃げたのには理由があった。


「無駄な殺生はしたくないだろ。それにここは俺たちがイノシシの土地に入って来たんだしね。逃げるのが最善」


「へえ。優しいんだね。戦ってるヴィークもかっこいいけど、優しいところも好きだよ」


 イノシシとの一件でさらにヴィークのことが好きになったアインだった。







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