第26話 「またね」です

 今日は遂にヴィークたちが村を出発する日だ。いつものサムの家の前の広場には大勢の村人が2人の出発を見送ろうと集まっていた。


 前日に「出発会」を簡単に開いたがなかなかに大変だった。アインが寂しがって大泣きしたのだ。今までで初めて出来た親友と離れるのが辛かったらしい。


 それならここで暮らしていこうとヴィークは言ったのだが、それでも行くと言ってきかなかった。そして今ここにいる。


「本当にありがとうございました。この1か月とても楽しかったです。感謝してもし足りない」


「いいんですよ。これからもっと遠くへ行くんでしょう。頑張ってくださいね」


「アインちゃん、これ持って行って」


 エルから渡されたのは見覚えのある竹籠。


「これはお弁当。一食か二食分くらいはあるから食べて。箱は要らないなら捨ててもいいから」


「いや、絶対捨てないよ! だってこれは私たちが告白したときにあの湖の畔で食べたお弁当の箱だもん。思い出がたくさん詰まってる。大切にするよ」


 そう言ってゆっくり大事そうに竹籠を受け取った。それはもう赤ちゃんを抱くように。


「エルさんありがとう。私、この1か月のことは絶対忘れないから。もしかしたらまたここに遊び来るかも知れないけど、その時はよろしくね」


「ええ。いつでもいらっしゃい」


 今度は泣くことなくしっかり言った。だってもう泣かないって決めたから。しんみりした感じで出発はしたくなかった。


「ヴィークお兄ちゃん。ユリンもっと魔法使えるように頑張るからね。次会ったときは凄いみんなを助けれる人になってるから、楽しみにしてて」


 自信満々に宣言するユリンの頭を何度か撫でる。そして、楽しみにしてるよと言ってがっちり握手をした。


 それからいろんな人と言葉を交わしそし、そしてもう出発。誰一人「さようなら」は言わなかった。みんな「次」とかそういう言葉を使っていた。


「それじゃ、そろそろ俺たちは行きます。さ、アイン」


 差し出されたヴィークの手をアインもそっと握る。そして自由飛翔フリーフライを使った。ゆっくり2人の体が浮いていく。


「それじゃみんなまたね! ほんとにありがとう!」


 2人が大きく手を振ればみんなもこれでもかと大きく手を振り返す。


「スピード出すよ。しっかり手を繋いで」


 徐々にスピードを出せばみんなが小さくなっていく。そして見えなくなってしまった。村の人たちは豆粒くらいしか見えない2人の姿にも手を振り続けた。




「温かいくて最高の村だったね、アイン」


「うん。私はヴィークの温もりしか知らなかったけど、ここの人たちはみんな優しくて…嬉しかったなぁ」


 もう後ろは振り返らず前を向いて空を飛んでいく。我慢できずに出発した後少しだけ流してしまった涙も、もう乾いてる。


「でも一番うれしかったのはヴィークと恋人になれたことかな。ずっと夢だったからね。もし、みんなに出会わなかったら私はたぶん日和って告白なんてしないと思う」


 目を瞑ってしみじみそう言うアイン。ヴィークは周りの山々を見ながら黙って聞いていた。そしてアインが話終わるとゆっくりアインの方を向いた。


「そうだな。俺もたぶん好きだなんてアインに言えなかったと思う。偶々あの村を見つけて、偶々俺が魔法使ったら教えることになって。それでクリフたちに後押しして貰って…ほんとはもっといろいろあるけどこうやって偶然が積み重なってるんだよな」


「へぇ。ヴィーク良いこと言うね。今の言葉とってもかっこよかったよ。さすが私の自慢の彼氏!」


 まだまだ初心なヴィークはアインの最後に言った言葉に対する慣れがないため、照れて顔を逸らしてしまった。手汗もやばい。


「え? ヴィーク照れちゃった? もうっ可愛いなぁ」


 そう言ってヴィークをからかうアインもまだまだ初心で同じことを言われたら絶対照れるのに。


「でもそうだね。人とのつながりを大切にしないとね」

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