第23話 お祭りです

 日が傾き空がオレンジ色に染まった頃、サムの家の前の広場では村人総出で料理などを持ち寄って宴会というかなんというかお祭りのような感じになっていた。


「ヴィーク良かったな! だいたいお前が鈍感じゃなかったらもっと早くからこうなれてたのに。アインちゃんも苦労しただろうなぁ。鈍感ヴィークには」


「うっ。それを言われると…」


「いいんですよ、クリフさん。ヴィークにもいろいろな思いがあったんですし。それに私は今がとっても幸せですから」


「あぁアインちゃんめっちゃいい子! ヴィークじゃなくて俺と付き合わない?」


 自分にはしっかり将来を誓い合った人がいるというのに他人の彼女を平気で口説くクリフ。はっきり言って節操なしの最低である。そして、この会話を聞いていたのはヴィークとアインだけではなかった。


「ク~リ~フ~? それはどういう事かなぁ? 浮気なのかな? ちょっとこっちで話聞こうか?」


「いででっ! 冗談だって! 本当に好きなのはミリーだけだって! だから耳引っ張らないで~」


 後ろからにゅっと出てきたクリフの彼女のミリー。そしてクリフの耳をぎゅっとつねった。


「ヴィーク君、アインちゃんごめんね。ほんとクリフは馬鹿だから。ちょっとこっちで反省させてくるから。お付き合い始めたのおめでとう。これからも仲のいい2人でいてね」


 そう言うとミリーはクリフの耳を引っ張ったまま人気のないところへ連れて行った。ヴィークとアインが返事する余裕もなかった。


「なんか嵐が去ったみたいだな」


「うん。ミリーさん怒ったら怖い」


 日ごろ、にこにこしている人に限って怒ったら怖い。慣れていない分、恐怖の感情倍増だ。特に女の子が怒ると怖い。


「アインは怒らないよな。そういえば怒ったこと見たことないや」


「だってそんな場面がなかったから。ずっと大変な日々で…ヴィークは私の大切な人でそんなこと想わなかったし」


 あの辛い日々で唯一の心の拠り所で、自分のことを本当に大切にしてくれたヴィークに怒るような要素は一つもなかった。もしあるとすれば、さっきキスしてくれなかったことだろうか。それもサムや他のみんなが2人を覗き見していて出来なかったのでヴィークに何の罪もないのだが。


「でも、浮気したら許さないからね。ヴィークはしないって信じてるけど」


「そりゃしないよ。俺はアインに夢中だからな」


「もうっ! ヴィークはすぐそんなこと言う!」


 アインがぽかぽかヴィークの胸のあたりを叩く。そんな2人に近寄って来る人が。


「アインちゃん良かったね! これで花嫁修業は見事合格です!」


 次に背後から出てきたのはスカーレット。そして右横には娘のユリン。そしてユリンの手を握っているスカーレットの夫のウール。手には料理の入った小皿を待っていた。一家そろっての登場だ。


「ヴィークお兄ちゃん、アインお姉ちゃん良かったね! ユリンお母さんたちと2人の会話最初から聞いてたんだけど、すっごく羨ましいなって思っちゃった。だって…」


「ちょっとユリン!」


 スカーレットがとっさにユリンの口をふさいだが時すでに遅し。純粋な少女ユリンによってアインとヴィークの告白の現場をあの時のみんなは聞いていたことが発覚。まあだいたいそうだろうなとはヴィークもアインも思っていたけれど。


「やっぱりあの時に火球ファイアボールを撃っておくべきだったのかなぁ」


「ちょっとちょっと! 物騒なこと言わないでよ! 私たちは2人の恋のキューピットなんだよ?」


「冗談ですよ。俺にそんなこと出来ません」


「ちょっと冗談に聞こえなかったよ…こほん…いい? ヴィーク君。これからはもっとアインちゃんを大切にするんだよ。私の弟子なんだからね。ヴィーク君なら大丈夫って思うけど。とにかくお互いを大事にすること。私からのアドバイス」


 そう言うと2人の肩を2,3回叩いてユリンの手を取ってどこかへ行ってしまった。良いことを言ったスカーレットだが、ヴィークたちの告白の現場を覗き見していたことを忘れてはならない。


「ヴィークさん、あの時は本当にありがとうございました。もうしばらくしたらここを出発されるんですよね。妻と娘が寂しがっていました」


 そう言って深々と頭を下げるのはスカーレットの夫のウール。ヴィークがこの村に来た時に毒にやられて死ぬところだったのを助けて以降、何回もこうやってヴィークにお礼を言っている。命の恩人で感謝してもしきれないという。


「はい、もう2,3日したら出発します。こちらこそ今までありがとうございました」


 ヴィークもウールのように頭を下げるとアインもならったように「ありがとうございました」と言って頭をさげた。


「ふ、2人ともやめてくださいよ。なんだかしんみりしちゃうじゃないですか。今日は2人のためのお祭りなんだからもっと騒がないと」


 確かに周りはうるさいほど騒いでいるが祭りの主役が大人しい。でもこれには明白な理由があった。


「だって恥ずかしいでしょ!? こんなことされたら。こんなの初めてですよ!」


 そう。単純に恥ずかしかったのだ。それもそうだろう。ふつうは誰か付き合い始めてもこんなことはしないから。

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