第16話 伝統なのです

 なんだかんだあったがとりあえず今日の作業は終わった。


 アインはしばらくの間ヴィークの横にいたが晩御飯の支度があるからと家に戻って行った。


「ヴィークさん今日はお疲れ様でした。どうですか? こうやって野菜を作ってるんですよ」


 今はサムと家への帰宅中。サムにそんな疲れた様子はないがヴィークはくたくた。


「普段、売られていた野菜がこんなに手間のかかったものだったなんて…王都で食べ物を粗末にしてる富裕層に言ってやりたいですね」


「ははは。そうですね。私たちは王都に何かを売ってはいませんが、粗末にするのはよくないですね」


 そんな話をしていたらもう家についてしまった。何やら良い匂いが辺りに立ち込めていいる。


「うーん良い匂いですね。何を作ってくれているんでしょうね」


「楽しみですね。なんかわくわくします」



 さあ、今日の晩御飯はなんだろう。ヴィークとサムが一斉に玄関の扉をドーンと開けた。そこで2人が目にしたものとは。


「おぉ! 匂いだけじゃわからん!」


 第一声を上げたヴィーク。ドアを開けたが料理は見ることが出来なかった。匂いだけじゃわからないこともある。


 そしてヴィークが帰ってきたことを知ったアインが勢いよくお出迎えに来た。


「お帰りなさいお兄ちゃん! ご飯にする? お風呂にする? それとも わ た し?」


 これぞこの村に伝わる伝統の一撃必殺。エプロンでの出迎えからのこの一撃に耐えた男はいない。これは、勇者パーティーのメンバーで魔法を使うのが得意なヴィークも例外ではなかった。


「くっ、アインが可愛すぎる。このまま抱きしめたいくらいに」


 クリティカルヒットだった。


「えっ? お兄ちゃん今なんて? お兄ちゃんが私を? あわわわ。まだ心の準備が出来てないよ。あわわわ」


 しかし、攻撃力に今ステータスを全振りしていたアインはこのヴィークのカウンターをもろに食らってしまった。自分からヴィークに何かするのはいいが、ヴィークからされるのはまだ慣れないらしい。


 玄関でなんともいえない甘い雰囲気が出来上がった。2人きりならこのまま何か起こったかもしれないがここはすぐ横にサムもいる。正気に戻った2人はよそよそしくヴィークは手を洗いに、アインは盛り付けをしに行った。



 ◆◆◆



「アインちゃんすごく良かったわよ! もうヴィーク君は落ちたも同然よ。さっきの言葉がその証拠」


「そ、そうでしょうか。でもそうなら嬉しいです」


 エルとスカーレット直伝のさっきのはエルとしては完璧だった。スカーレットは自分の家に帰ってすることがあるらしいので見ていない。


 そりゃ、家庭を持ってるんだから仕方ない。たださっきのはエル的に見て欲しかった。だってアインが可愛かったのとヴィークの反応も素晴らしかったから。


「2人ともウブすぎるわよ」


「えへへ。お兄ちゃんにあんなこと言われるとは思ってなくて。ちょっとびっくりしちゃいました」


「それは仕方ないわね。でもいい感じよ」


 自分の恋を成功させた先輩からなありがたいお言葉。


(でももうヴィークくん落ちてるから。早く告白したらいいのに)


 そんなことを内心思ってるなんてアインが気付くはずもなかった。



 ◆◆◆



 手を洗って来たヴィークがテーブルに運ばれた料理たちを見てびっくりした。


「なんか品数が多いな。煮物に、和え物に他にもいろいろ」


 テーブルいっぱいの料理たち。


「私とエルさんでいろいろ作ったんだよ。和え物とかは思ったより簡単に作れるからお兄ちゃんが好きだったらいつでも作ってあげるよ」


「お、それは嬉しいな。アインの料理ならなんでも嬉しいからね。それで気になったんだけど真ん中のスペースってなんなの?」


 確かに4人それぞれの料理が並べられる中真ん中だけ何も置いてない。ヴィークはそこが気になった。


「ふふん。お兄ちゃんびっくりするよ。ちょっと待っててね。メインディッシュ持ってくるから」


 そう言ってアインとエルは台所に戻っていった。


 そしてヴィークとサムは顔を見合わせた。


「楽しみですね。これがさっきからしてたいい匂いの正体はこれでしょうかね?」


 2人ともわくわくした感じで2人運んで来てくれるのを待っていた。



「お待たせ。これがメインディッシュの唐揚げだよ」


 唐揚げ。それは鶏肉を揚げたもの。王都ではあまり食べられていない料理。ヴィークもアインも食べたことがなかった。


「おお、おいしそうですね。エルの唐揚げは美味しいんですよ」


「唐揚げは食べたことないので楽しみです」


「それじゃ食べようよ」


 みんなでいただきますを言って楽しい晩ご飯へ。


「どうかな、どうかな。唐揚げ美味しい?」


「うん! アインすごい美味しい! 初めて食べるけどサクッとしてお肉のジュワーって感じもあって最高だよ」


 ホッと胸を撫で下ろすアイン。ちなみにエルが作った料理もアインが作った料理もどちらともすごい美味しかった。そのためヴィークが食べ過ぎてしばらく動けなくなったらしい。


 くたくたのヴィークにアインの愛のこもった料理は最高の回復薬だった。





 あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。今年も頑張っていきますので★やレビューを新年にいただけると嬉しいです。待ってます!


 2020年 九条 けい

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