第14話 大丈夫でしょうか?

「どうかな? お兄ちゃん。お魚の煮つけ。美味しい?」


 お昼ご飯はご飯に魚の煮付けにお味噌汁、すごく一般的なお昼ご飯だ。テーブルには修業したみんながついて食事を始めた。もちろんアインとヴィークは隣同士。微笑ましい兄妹の関係だ。


「いやぁ、朝だけでかなり変わったよ。今まで使っていた同じ魔法なのにまるで別物のようになったんだ。あれにはびっくりしたな」


 ここでサムが午前中の成果をみんなに話した。すこし興奮気味に。


「そうそう。ユリンも少しだけライト出来たんだよ。すごい嬉しかった!」


 この短期間でここまで変わるとはサム、ユリンのセンスが良いのか。それともヴィークの教え方が良かったのか。はたまたそのどちらともなのか。たぶんどちらともだろう。


「アインたちの方はどうだったんだ? 今は料理作るの頑張ったくらい?」


「えっ? あのっ、そのっえーと…うん! そうだよ! 私たちは午前中は料理をがんばりました!」


 目をキョロキョロさせて何かを隠すようにアインは言った。そりゃ言えるわけがない。「3人でアインがヴィークを落とす作戦を考えていました」とか。


 でも、嘘は言ってない。料理を作るのを頑張ったのも事実。ちょっと他のことは言わなかっただけ。そう。これは乙女の秘密。


「そっか。とりあえずアインが楽しそうにしてるんならいいんだ。アインはやっぱり笑顔が一番かわいいからな」


 何気なく言ったヴィークの一言。それもそうだ。女の子の笑顔が一番かわいいのはの当たり前だ。まして好きな女の子の笑顔なんて最高に決まってる。これに異論がある人はいないだろう。


 しかし、その言葉がクリティカルヒットしたアインは顔を真っ赤にしてヴィークの方をポカポカ叩いていた。そしてこの2人以外の考えは全員「お前らはよ付き合え」だった。




「ふぅ。ごちそうさま。すごい美味しかったよ」


「やった! ふふふ。お兄ちゃん次はもっとすごい料理作っちゃうからね」


 さて、次は何を教えてもらおうか考えるアイン。もう次の献立のことで頭はいっぱいらしい。


 ちなみに今の料理はすべてコルン村で採れたものだ。湖の魚に畑で収穫した新鮮な野菜。王都で売られているものより遥かに美味しい。採れたものを新鮮な内に食べる。それが食材が一番美味しいに決まってる。


「さて、美味しいごはんも食べたし俺は畑の作業を手伝おうかな」


「え? お兄ちゃんを魔法の修業じゃないの?」


 それがそうともいかないのだ。サムも一日中魔法の修業だけをするほど時間があるわけではない。村長としての仕事もあるし、ヴィークが言った畑の作業もサムの仕事の一つだ。


「さすがに一か月魔法を教えるだけじゃ申し訳ないからな。俺も手伝ってくるよ」


「ならアインちゃんも食器片づけ終わったら一緒に畑行ってみようか」


 エルがアインに気づいてと目配せする。


(あ、そう言うことか! 午前中はお兄ちゃんと一緒に居られなかった分、今からは居たいもんね)


 エルの考えをくみ取ったアイン。この短期間でこんなことが出来るくらい仲を深めたということか。それにエルもかなり気が利く人らしい。


「じゃあお兄ちゃん、後で私たちもいくね」


「分かった。じゃあ先に行ってるから。後片付けはお願いしていいか?」


「うん、任せて。しっかりやっておくから。いってらっしゃい」




 ◆◆◆




「すごいですね。こんなにたくさんの種類の野菜とか。これ全部サムさんたちが作ったんですか?」


 今、ヴィークはサムと畑に来ている。ただ、その規模が大きすぎて畑と呼ぶより農場と呼んだ方がいい感じがする。それくらい広い。「ちょっとお手伝い~」的な感じできたらこの広さに絶望するだろう。


「そうだけど違うかな。この畑は私の畑じゃなくて村の畑なんだ。ここの畑は私以外にも男手が20人ほどいてね。みんなでこの畑を管理してるんだ」


 なるほど。確かに休憩所みたいな小屋には何人か人が見える。


 サムが言うにはこういう風に狩猟班とか漁業班とかに男子は別れて食料を作り、得た食料は村のみんなに平等に配るらしい。女性陣もいろいろすることがあるんだとか。


 とにかく村は一つのいざこざなく運営できているとのこと。王都みたいにお金を使わないでこうやって村が運営できるなんてヴィークからしたら驚きだ。


 平等。この言葉は王都でも勇者パーティーでも存在していなかった。一見平等そうに見えてもアインのような人や、飢えを凌ぐので精一杯な人も多くいた。街の中で酔っ払っていられるのも一部の人間だけだ。


「それじゃあヴィークさんも私たちと頑張りましょう。朝のうちに野菜の収穫をしているので今からそれを村の広場に運んで、そのあとで水を湖から汲んできて今日はおわりです」


「え? ほんとですか? かなりきつい気が…」


 村の広場までだいたい1キロ。湖まではそのあと坂を下って500メートルほど。それを何往復も。かなりの重労働。


「あの…身体強化の魔法は…」


「もちろんダメですよ」


 ちゃんと聞く前に却下。そしてその直後、優しい声で言った。


「アインさんも来るんですからヴィークさんが自分の力で頑張ってるところを見せてあげましょうよ。その方が彼女も喜ぶでしょう」


「そうでしょうか。へばってかっこ悪いところを見せてしまうかも」


「心配いりません。だいじょうぶです」


 好きな人の頑張ってる姿を見たいサムには分かったが鈍感で乙女心が分からないヴィークはサムがなぜここまで断言できるのか不思議だった。

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