第12話 お風呂に入りましょう

 ユリンの家から帰って来た2人は今、サムの家で言い合いをしていた。事の発端はこうだ。エルにお風呂に入ってと言われた2人。ならアイン先入っていいよと言ったヴィークに対してアインが何故か猛反発したのである。


「いやだ! お兄ちゃんと一緒に入りたい。私たち兄妹じゃん。なんの問題もないじゃん!」


「それは、ダメだ! 問題ありまくり! 普通は兄妹でもしないから!」


 そんな話を今までずっとしていた。一向に埒が明かないこの状況。もはやどちらかが折れるしかないのだが。そして、正しいことを言っているのはヴィークだということは明白である。


 しかし、恋は盲目というのかアインも全く引くことがない。このままではやばいとヴィークは目配せでサムとエルに助け舟を求める。


「大丈夫ですよ。うちのお風呂は自慢じゃないですけど結構広いので2人で入っても問題ないですよ」


 グッとサムズアップしてそういうサム。いや、助け舟になってない。全然なってない。ヴィークからしたら仲間に裏切られたとまで言える。アインからしたらナイスすぎるだろう。


「そういうことらしいよお兄ちゃん。早くお風呂いこっ」


「え、いや、そのっ」


「ほーら。お兄ちゃん行くよ」


 アインに手を引っ張られズルズルと風呂場の方へ連れて行かれてしまった。




 ザバァ。桶にすくったお湯を体にかける。


「気持ちいい。風呂なんて久しぶりだからな。すごい良い」


 先に服を脱いで風呂場に入ったヴィークがそんな声を漏らす。実際、勇者パーティーにいたときもそんなに風呂に入る機会はなかった。アインと再会してからの数日間ももちろん、風呂に入る機会なんてなかった。お湯を作ってそれで洗う。そんな簡単なことしかできなかった。ちなみに、石鹸は前に街で大量に買っておいたので心配ない。


「お兄ちゃん私も入るね」


 カラカラと扉が開かれアインが入って来た。体には大きなタオルが一枚巻かれている。もちろんヴィークもまいている。お互いタオルを巻く。これがヴィークの最後の要求だった。アインからしたらそんなのいらないじゃんと思っていたが、ヴィークが譲らなかったので従うことにした。いざとなったら外せばいいとか思っているなんてヴィークには言えないが。


「お兄ちゃん、私が髪洗ってあげる」


 アインがお湯をかけ終わってそんなことを言った。これは、純粋にヴィークに何かしてあげたい、そんな気持ちからきているもの。日ごろから自分を大切にして可愛がってくれる一番好きな人に何かしてあげたい。今のアインはそんな気持ちでいっぱいだった。


 ヴィークもそんな気持ちを察してか(いや、絶対にそういうこと気づくはずもない)素直に洗われることにした。


 シャカシャカゴシゴシと髪を洗う音が響く。


「お兄ちゃん、痒いところとかない? 私、他の人の髪洗うの初めてだからダメなところあったら教えてね」


「うん。すごい気持ちいい。全然ダメなんかじゃないよ」


「そう? なら良かった」


 最後に頭からお湯をかけて石鹸を落としたら髪洗いは終わり。先に体を洗っておいたヴィークはアインのお礼を言って湯船に入ろうとした。しかし、アインに腕をつかまれて止められてしまった。そして、もじもじしながら言った。


「つ、次はお兄ちゃんが私の髪を洗って欲しいな。体は洗わなくていいから。髪だけでもお願いっ!」


 さっきの思いはどこへやら。心を込めてヴィークの髪を洗ったら次は自分もされたくなったらしい。ヴィークも驚いていたが、自分だけしてもらうのも悪いということで洗ってあげることにした。


「それじゃ水流すぞ」


 ゆっくりゆっくり水をかけていく。そして優しく、髪が傷まないように丁寧に洗っていく。最後にさっきと同様にお湯で流せば終わりだ。そつなくこなすヴィークだが、実際は緊張でいっぱいだった。


(これで大丈夫だよな? 間違ったことしてないよな?)


 年頃のヴィークは女の子と一緒に風呂に入るだけでも緊張でドキドキなのに。それが自分の好きな人ともなるとちゃんとできたか不安になるのも納得できる。


 ヴィークは恥ずかしさとかそんな気持ちを隠すために湯船に入った。しばらくして体を洗い終わったアインも湯船に入ってくる。サムの言った通り浴槽が広いので2人が入っても全然狭くない。延ばせる足を延ばそうと思えば余裕でいける。


「ふぅ。気持ちいいねお兄ちゃん。こんな広いお風呂私初めて」


「ここら辺は水が豊富だからな。魔法で作った水じゃなくて自然の水なんて王都じゃなかなか手に入らないよ」


 今日ユリンの家に行くときとかに見たがこの村は湖の岸辺で水がとても豊富にある。そしてその水が美味い。水が豊富だからこそこんなに大量の水を風呂に使えるのだろう。王都では自然の水なんてあまりなかったし魔法で作った水も風呂に使うほどなかった。


「ねぇお兄ちゃん。こうやって一緒に入るのって久しぶりだね。私、どうかな? 女の子っぽくなってる?」


 アインからの一撃。これは答え方にすごく困る質問だ。「うん、とてもいい感じ」と言っても変態感あるし、「全然なってない」なんて言えないし。好きな女の子に言うには全部レベルが高い。何故かこんな平穏な風呂場で窮地に立たされるヴィークだった。


 そして、ここは風呂場。逃げ道の無い密室空間。もはやヴィークに言わずに逃げるなどという選択肢は残されていなかった。


 言った張本人にそんな深い戦略はなくただ、ヴィークにとって自分がどう映っているの知りたかっただけ。「いいよ」と言われれば嬉しいし、「なってない」と言われればエルや、ユリンのお母さんの力を借りて女子力を上げればいいだけのこと。


「早く教えて欲しいな。お兄ちゃん」


 覚悟を決めた。言うしかない。ヴィークは思い切っていった。


「すごい可愛くなったよ、アイン。昔も可愛かったけど今の方が少し大人っぽくて俺は好きだ」


「ほ、ほんとにっ!? えへへ。とっても嬉しい! お兄ちゃんもとってもかっこいいよ!」


 可愛いと言われて嬉しがるアインと、かっこいいと言われて照れているヴィーク。やはり、好きな人からそう言われるのはお互い嬉しいようだ。


 その後、しばらく風呂を堪能して風呂場を後にした。体の拭き合いとかは、当たり前であるがしていない。アインはしようとしていたらしいが。




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