第8話 これくらい余裕です

「え? お兄ちゃん?」


 アインはびっくりした。あのファイアボールでヴィークはやられたと思っていた。しかしヴィークには一切ダメージを負った形跡はなかった。


「お、お兄ちゃん!?」


「アイン、俺を心配してくれたのか?」


 そう言ってヴィークはアインの頭を優しく撫でた。アインの髪を手で梳くととてもサラサラで小さかった頃となんら変わっていなかった。


 アインはさっきまでの絶望が嘘のように気持ちが軽くなっていくのを感じた。そして確信した。ヴィークはこんなやつにやられるほどの人ではないと。


「我の攻撃をどうやって避けたのだ! 確かに命中した筈だ!」


 わけが分からないと叫ぶヤヴァス。無理もない。あの全力のファイアボールはヤヴァスからしたら必勝の一手だった。それをどういう事かは分からないが耐えられたのだ。


「いや、どうもこうもあれくらいの魔法防げないわけないだろ。あれくらいの魔法を防げないで、勇者パーティーでやっていけるかよ」


「な、貴様、勇者パーティーのやつだったのか! てことはなんだ。我々の情報を探りにでも来たのか?」


「いや、俺は勇者パーティーのメンバーじゃないよ。俺は弱いからさ勇者パーティーを追放されたんだ」


 少し懐かしむようにヴィークは言った。しかし、ヤヴァスからしたらそれは驚きだった。ヤヴァス自身は実戦経験こそ豊富ではないもののそれなりに力があると確信していた。少なくともまたこの地を取り返した勇者パーティーのメンバーと1対1でいい勝負になるくらいには。


 でも自分の召喚したスケルトンは瞬殺された。スケルトンは雑魚と言われるがヤヴァスが召喚したスケルトンは強化魔法を掛けられていて普通のスケルトンの10倍は強いはずだった。


「いろいろ聞きたいことはあるけど覚悟はできてるよな? お前は俺の大事なアインに手を出そうとした。その罪は大きいぞ?」


 その瞬間ヤヴァスが感じたのは殺気。さっきまでの緩やかな雰囲気とは違いここが戦場であることを強く感じさせる。ヴィークが戦いの中で自然と培った技というか気合を入れた時に出るようになったものだ。


 ヤヴァスは感じたことのない恐怖に襲われた。自身はアンデットという、恐怖に対してある程度の耐性があるにもかかわらず恐怖を感じさせるヴィーク。ヴィークは本気だった。


「アインもうちょっと待ってて。すぐに終わらせるから」


 アインから10歩ほど距離をとる。そしてヴィークは大きく右の手のひらをヤヴァスの方へ向ける。そして魔法陣を展開させる。


 使う魔法は四重魔法。今ヴィークが使える最高位の魔法。光輝く魔法陣。5秒ほどして発動が可能になる。


 ヤヴァス自身見たことのない魔法だった。ヤヴァスも魔法が八重まであることは知っていたが自分が使えるのは三重魔法まで。そしてヴィークが展開している魔法が自分を殺すのに十分なものであることを理解した。


「待て! 我を殺したらあのお方が黙っておらんぞ! そうしたらお前たちは終わりだ! もし我を見逃せばお前たちのことは黙っておいてやる。さぁ早くその魔法を解除しろ!」


 はっきり言って情けない。人間を相手に命乞いをするなど。しかし、今恥を晒してでもヤヴァスはやられるわけにはいかなかった。


 あのお方。そうヤヴァスが呼ぶ人物に自分が人間に敗れて消滅し絶望される方がヤヴァスからしたら嫌だった。


「悪いがアインを泣かせるやつは容赦しないってアインと再開した時誓ったんだ」


「ならこうしてやる!」


 もうヴィークに何を言っても自分は殺される。ならヴィークが大切に思っているアインも道ずれにしてやろうと考えたのだ。そうしたらヴィークも絶望するだろう。


 しかし、ヤヴァスのねらい通りに行くはずもなくアインに向けて放った魔法もヴィークに防がれてしまった。


「じゃあここでお前は終わりだ。雷撃ライトニング


 その瞬間ヴィークの発動した魔法から一本の光が放たれた。その光は一直線にヤヴァスの方へ向かっていく。あまりの速さにヤヴァスも回避する間もなく光が直撃した。そしてあっという間にヤヴァスは消滅した。


「ふぅ、まぁこんなもんか。やれやれ、もう戦うことなんてないと思ったのにこんな朝っぱらから疲れることさせるなぁ」


「お、お兄ちゃん…? もうあのアンデットはいないの?」


 まだ辺りを少し警戒してキョロキョロ見渡すアイン。それでも大丈夫だとわかるとすぐさまヴィークに抱き着いた。


「良かった…ほんとに良かった。お兄ちゃんが無事で。私、さっきお兄ちゃんに攻撃が当たったときほんとにやられちゃったのかと思ったから」


「俺があの程度の魔法を防げないわけないだろ?」


 ヴィークはそう軽く言うがヴィークの力を知らなかったアインからしたら本気で心配だったのだ。


「お兄ちゃんはそう言うけど私は怖かったんだからね」


「そうだな、ごめんな心配させて。アインも無事でよかったよ」


「私を助けてくれてありがとね。お兄ちゃんって強いんだね」


 心の底からすごいと称賛するアイン。でも、褒められ慣れていないヴィークは頭をポリポリ掻きながらそっぽを向いてしまった。


















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