第4話 空を飛ぶのは簡単です

 買い物を終えたヴィークたちは少し森の中へ入っていた。たくさんのものを買ったけど、ほぼマジックボックスに入れてしまったため、やっぱり最初と変わらず手ぶら状態だ。


 これから5千キロの旅をするには到底思えない。これで旅ですと冒険者に言ったら確実に笑われるだろう。


「良し。じゃあ空の旅に行こう」


 そう。ここから南の村まで歩いたら一生かかる距離だ。それにこの街から先に行く馬車はない。


 今、人類は9割がこのヴェルト王国に暮らしている。そして残りの一割が王国に所属せず民族ごとに暮らしている。


 勇者パーティーの時は飛行船なりなんなりでどこへでも行けたけど、今はふたりとも一般人。飛行船を購入できるわけがない。


 いや、ヴィークなら買えないこともないかもしれないが目立つし結局は却下。


 ヴィークは左手を広げた。使う魔法は三重魔法である自由飛翔フリーフライで使える人は少ない。


 一瞬で魔法を発動させることができるのはヴィークのこれまでの努力と経験による賜物だろう。この魔法を使いこなせるヴィークは自分の思うように空を飛べる。


「さぁ行こう、アイン。時間はかかるけどもうそんな焦ることなんてないもんな。ゆっくり楽しく行こう」


「うん!」


 アインは元気良く返事してくれる。俺ヴィークちがここまで来たのは人に見られないようにするためだ。


 空を飛ぶ人を見たら下手をしたらヴィークだとバレて尾行されるかもしれない。そんな人がいるとは思えないがそういうところにも考慮するべきだろう。


「良し。アイン、俺から手を離すなよ」


 ヴィークたちは手を握り合う。魔法を使えるのはヴィークだけで、アインは飛ぶ手段を持っていない。


 しかしヴィークは自分と手を繋ぐことで魔法の効果範囲を広げる技術を持っていた。なのでこうやってアインと手を繋ぐことで2人で空の旅に出れるようになる。


 指と指を絡ませる。ここまでする必要はないのだがアインがこうしたいというのでこうなってしまった。こうしているとまるで恋人みたいだ。ヴィークはかなりドキドキしていた。


 しかし、それはヴィークだけでなくアインもヴィークと手を繋いだことにとてもドキドキしていた。


「私たち恋人みたいだね〜」


 アインが嬉しそうにそう言うがヴィークは恥ずかしさを隠すためにすこしそっぽを向いて魔法に意識を集中させた。


 ビュッと音を立てて2人が空へ上っていく。高度10メートルほど上がったところでヴィークは昇るのをやめて空中で止まった。アインはヴィークの手を不安そうに握りながら目をぎゅっと瞑っている。


「アイン、怖いか?」


「う、うん。やっぱり怖い。空なんて飛んだことないし、高いところは苦手かも…」


(そりゃそうだよな。俺もなかなか慣れなかったし)


 でも、慣れると空を飛ぶのは楽しい。鳥になったように感じられるし、風を切る感覚もなんとも言えない爽快感。


「アイン、ゆっくり目を開けてごらん。大丈夫、俺がすぐ横にいるから」


「大丈夫?」


 ヴィークが返事をするとアインはそっと目を開けた。だが、まだ少し怖いようでヴィークの手を痛いほどギューッと握った。


 しかし、そのまま10分もたつとアインは慣れたようで周りを見渡しながら楽しそうにしていた。


「アインも大丈夫になったようだしそろそろ行くけど良い?」


「うん、まだスピード出したら怖いからゆっくりにしてね」


 アインの注文通りにゆっくり目的の村へ飛んでいく。それでも5分もすればさっきまでいた街も見えないくらい遠くになってしまった。


「お兄ちゃん、もう少しスピード出していいよ」


 アインはもう空を飛ぶことに完璧に慣れたようだった。ヴィークでさえもっとかかったのに。


 アインはこれぞ「愛の力よ」とか思っているがこれはただ慣れるのが早いか遅いかなので「愛」は関係ない。もう一度言っておこう「愛」は関係ない。


 ただ愛の力だと思っているアインはニコーっとなっていたがそれをヴィークが気付くことはなかった。


 何はともあれまだ旅は始まったばかりだ。



 ◆◆◆



 しばらく空を飛んでいるとヴィークがある異変に気付いた。また空を飛んでいるときに索敵をしてしまうという勇者パーティーの時の感覚が残っていたらしい。


「なんでこんなところにスケルトンがいるんだ?」


「お兄ちゃんどうしたの?」


「スケルトンがいたんだ」


「え? スケルトンってアンデットの仲間だよね?」


 スケルトン自体は戦闘能力は男の大人くらいで大して強くはない。ヴィークからしたら雑魚といってもいいだろう。しかしヴィークが感じたのはなぜこの人類の地にアンデットがいるのかということだ。


 勇者パーティーがアンデットに奪われた土地を取り返したところにいたアンデットは全て死んだはずだ。


 そしてアンデットは自然に生まれてくるものではない。ということはこの近くにアンデットを生み出すものがいるということになる。


「いや、俺たちはただの一般人だ。アンデットについては勇者パーティーがどうにかするだろ」


 ヴィークは特に気にすることなく南にある目的の村へ向かった。


 誰も予想しなかっただろう。今水面下でまたアンデットが猛威を振るう準備をしたいることに。



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