第3話 2人は街に寄るようです

「さて出発するのはいいがアイン、持っていくものとかはないのか?」


 今のアインは何も待っていない。2人は何も考えずに家を出てしまったので、手ぶら状態だ。このまま出発するのは今後のアインの生活に困るものもあるんじゃないか? そう思ったヴィークは最悪1度家にこっそり帰ってアインの必要なものを持って行こうと考えた。


「ん。何もいらない。もうあの家に行きたくない」


「そっか」


 しかし、アインはあの家にはもう行きたくもないと言う。


 ヴィークが勇者パーティーに参加してからアインは1人だった。ヴィークはアインが自分がいない時に両親にもっとひどいことをされたのではないかと心配していた。


「大丈夫だ。もう俺はアインから絶対離れないから。あいつには追放されたけど俺はアインを守るためにもっと強くなれるように頑張るよ」


 ヴィークはもう一度アインを抱きしめる。アインはヴィークに抱きつきながら「ぐすっ」とまた泣いていた。


 アインは17歳。だけど年の割に身長は低くとても可愛い。肩にかかるくらいの明るい金髪で大きな目と柔らかな雰囲気を感じさせる女の子。目はエメラルドグリーンのように光輝いている。それがアインだ。贔屓目で見てもすごく可愛い。甘えん坊なところもある。


 そんなヴィークの大切な妹が自分の胸の中で泣いてる。ヴィークはもうアインが泣いてる姿を見たくなかった。


「俺、決めた。アインを泣かせる奴は誰であっても容赦しない。俺はアインを守る」


「お兄ちゃん」


 アインが顔を上げてヴィークの瞳を真っ直ぐに見ていた。ヴィークも真っ直ぐにアインを見つめた。


「俺はアインと幸せになりたい。そのために俺はアインを守る。だからアインも俺を守ってくれないか? お互いに守りあおう」


「うん! 私がお兄ちゃんを絶対に守る! 私もお兄ちゃんとなら何でも出来る気がするよ」


 良し。ヴィークたちの気持ちは決まった。絶対に2人で幸せを掴みとると。


「なら次こそ始めよう。俺たちの新しい生活を」


「うん!」


 ヴィークたちは次こそ歩き出した。



 ◆◆◆



 ヴィークたちは街を出発した。2人にはもうこの地に未練はない。ヴィークはアインと南の村に行くことに決めた。


 ここからヴィークが言っていた村まではまぁ5千キロってとこだろうか。歩いて行くのは無理だ。


「〜♪」


 横のアインはとても嬉しそうにヴィークの隣に座ってる。ヴィークたちは馬車に揺られて王都郊外に向かっている途中。とりあえず王都にいたくなかったのだ。


 今ヴィークたちが乗っているのは夜行馬車といわれるもので夜中にゆっくり人を運んでくれるもの。時間も料金も高くなるからあんまり人気ではない。


「アイン。随分楽しそうだな 」


「うん! もう嬉しいし、楽しみだよ。お兄ちゃんと2人だけの生活! えへへ」


 アインはそう言ってとびっきりの笑顔で微笑んだ。不覚にもその笑顔をヴィークはドキッとしてしまった。



 まぁそんなこんなで馬車は目的の場所までヴィークたちを連れて行ってくれた。運賃は2人で金貨10枚。


 夜の10時に出発して、今は、朝の7時。運賃も高いけど王国の通貨は持っていてもしょうがないことに気づいたので問題なかった。


「アイン、ちょっとここで何か買っていこう」


 ここは王都郊外だがけっこう大きい街で、店もかなりあった。こんな朝早くからいろいろな店が開いていた。人もそれなりに多く、栄えている街と言ってもいいだろう。


 そんな店を見てヴィークは一軒の店に行きたくなった。


「アイン、あの店に行こう」


 そう言ってヴィークはアインの手を引く。アインもヴィークの手を握り返す。温かい手の感覚。こうやってアインといれることを深く実感した。


 やってきたのは女性物の服が並んだ店。


「アイン。好きな服を選んで良いよ」


「え? それはお兄ちゃんに悪いよ」


 今アインが着ているのはみすぼらしいワンピース。あの親達がアインに何もしてあげてないことがよく分かる。


「大丈夫。お金はあるし、今からの事も考えて買っておこう。いい服があっちにあるか分からないしね」


「でも」


 アインは渋っている。ヴィークに悪いと思っているのだ。


「アイン。俺たちは今からずっと一緒なんだ。遠慮なんてしなくていい。もっと欲を出してもしてもいいくらいだ。今まで頑張ってきたんだから。それに兄ちゃんにいい格好させてくれよ」


「お兄ちゃん。ありがとう。なら選んでもいい?」


「あぁ。好きな服を買ってな」


 アインがようやく納得してくれた。


 しばらくしてアインが出てきた。もうすでにワンピースは脱いで新しい服を着ていた。とてもかわいくて似合っている。


「どうかな、お兄ちゃん。私似合ってる?」


「あぁ、ものすごく似合ってるぞ。可愛いと思う」


「えへへ。そっか」


 アインは嬉しそうにはにかんだ。その顔は恋する女の子の様な顔をしていて...その顔を見たヴィークは恥ずかしくて顔をそらしてしまった。

 

 その後、アインの服を何着か買って店を後にした。


 ちなみにアインが今着ていない服は「マジックボックス」に入れておいた。マジックボックスは魔法でできたアイテムの1つで100キロ分のものを体積関係なく仕舞うことができ、重さもほぼないという優れものだ。


「お兄ちゃん、ありがとうね」


「ぜんぜんいいよ。アイン、さっきも言ったけどもっと欲しい物とかして欲しいことがあったら言ってくれよ?」


 アインは物欲があんまり強い方ではない。自分からなにかをねだることは絶対になかった。でもヴィークとしては我慢して欲しいとは思っていない。むしろもっと欲を持ってほしかった。


「ならお兄ちゃん。私、手握って欲しい」


「え?」


「手...繋いでいたいの...ダメ?」


「大丈夫。俺たちはこれからずっと一緒だから」


 ヴィークはそうやって手を差し出した。


 ギュッとアインがヴィークの手を握った。さっきよりも少し強くヴィークの手を握るアインは5年前とは違うヴィークの手に驚いていた。


 さっきはそこまで気が回らなかったが勇者パーティーとして出て行くときより一回り大きくなっていた手。少しごつごつしていて、でも絶対に離したくないって思わせる手だった。


「今、私たちのこと周りの人はどう思ってるかな。彼氏彼女って思ってるかな?」


「いや、それはないだろう。仲の良い兄妹って思われてるんじゃないかな?」


 嘘だった。ヴィークはアインのことを妹としても大好きだが、1人の女の子として、異性としても大好きだった。


 でも恥ずかしかったヴィークは誤魔化してしまった。


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