第2話 兄妹は決めました

 アインの両親は馬車の衝突事故で亡くなった。奇跡的に生き残っていたというアインは、ある家族に引き取られた。そこの家にはアインより1つ上の男の子がいた。義理の兄。名前はクラン.ヴィーク。


 ヴィークとアインは、その親から奴隷的扱いをされた。アインはまだしも、実の子を乱雑に扱う両親に憤りを覚え反抗したことがあった。


 その後、アザだらけになったアインを見てヴィークは親への嫌悪を募らせるばかりだった。親に叩かれたりしたアインに、ヴィークは泣きながら「ごめん」と繰り返す。


 ヴィークはとても優しくていつもアインのことを思っていた。かっこよくてすごく頼もしいお兄ちゃん。


 そんなお兄ちゃんのことがアインは大好きで、ヴィークが勇者パーティに行くことが決定した時は散々泣きじゃくった。


 勇者パーティーに参加することで得られるお金は膨大で、両親はヴィークにそのほぼ全額を自分たちの懐に納めさせた。納めなければアインがどうなるかは明白だった。


 それでもアインへの扱いの酷さはエスカレートするばかりだった。1日何度怒鳴られ、何度手を出されたか。


 


 今日、勇者パーティが帰還すると聞いた時から鼓動が早くなった。でも家へは帰ってこない。以前お兄ちゃんが家へ帰ってきた時、両親は会わせてはくれなかった。


 それどころか父親はアインをダシに兄に二度と家に帰ってくるなと脅していたのを聞いた。「帰ってきたらアインを身包みなしで追い出す」と。


 それでもアインは帰ってきてほしかった。優しいお兄ちゃんであるヴィークは帰ってこないだろうけど。


「お兄ちゃんに会いたいよぉ」


 誰もいない家でアインは一人そんな言葉をこぼす。今すぐそこに自分の一番会いたい人はいる。


 しかし、それは物理的な距離であって、何の力もないアインにとっては絶望的な目には見えないな高い壁があった。今の自分が、王城に行っても中に入れてはもらえないだろう。


 目には涙が浮かんでいた。そして、それは一筋の線となってアインの頬を伝った。


「アイン、きっと迎えにいくから。それまで…それまで待っててくれ」


 ヴィークが家を出るとき体の小さいアインを抱きしめながら涙交じりにかけた言葉だ。アインはその言葉を心の支えにしてこのつらい日々を過ごしてきた。


 しかし、今日だけはアインも我慢できなかった。一度流れ出した涙は止まることを知らず、頬から落ちた雫はテーブルを濡らしていった。


 コンコン


 急に家のドアをノックする音がした。アインはびっくりした。今は、夜の九時を回ったくらい。こんな時間に来客なんてふつうあり得ない。かといって居留守を使うわけにはいかない。アインは恐る恐るドアを開いた。


 そのアインの目の前には自分の大好きなお兄ちゃんが立っていた。


「アイン…」


「えっ…お…お兄ちゃん…?」



 ◆◆◆



 ヴィークは家のドアをノックした。そして、しばらくして人が近づく気配がした。それと、同時にドキドキしてくる。アインに会えると思うとドキドキがとまらなかった。


 ガチャッと言う音と共にドアが開いた。そして中から顔を出したのは見間違えるはずのない自分の大好きなアインだった。


「アイン…」


「えっ…お…お兄ちゃん…?」


 まだアインは何が起こっているか理解できていないようでヴィークを見て固まってしまった。そして、ハッとしたようにブンブンと頭を振った。


 アインは、否定されたくないとおもいながら。しかし、ちゃんと確認しないといけないと覚悟を決めて震える声で問うた。


「ヴィーク…お兄ちゃんなの?」


「ああ、俺はクラン・ヴィーク。アインのお兄ちゃんだよ」


 そう聞いた瞬間アインはヴィークの懐へ飛び込んだ。ヴィークはそんな妹をそっと抱きしめた。


「お兄ちゃん…ぐすっ」


 さっきとは違う涙が流れてくる。でも、心の中はとても温かい。ヴィークもアインの頭をなでながらアインが泣き止むのを待った。




 しばらくしてアインが落ち着いたところで二人は一度家の中へ入った。そして、テーブルをはさんで今日のことを話そうと椅子に座ろうとした。


 しかし、アインがずっとくっついて離れようとしないので床に座って話すことに。


「アイン…俺は勇者パーティーを追放されたよ」


 ヴィークはマリンに言われたことをアインに伝えた。追放されたこと。自分が弱いのがいけないこと。すべてを伝えた。


 繋いだ右手をアインはぎゅっとさらに握る。


「アイン。このまま二人で静かな場所で暮らさないか? 俺はもうこの家に居たくない。それでさ、冒険中にみつけたんだ。とてもきれいで静かな村を。俺はそこでアインと幸せに暮らしたい。ただ…アインが嫌なら…」


「嫌なわけない!!」


 ヴィークの話を止めさせるくらいアインは大きな声で言った。


 アインは一緒に暮らしたいというヴィークの思いが嬉しかった。とても嬉しくて、好きな人から貰えたその言葉が嬉しくて、ヴィークを後ろから抱きしめていた。この大きく鳴る心臓の鼓動は聞こえてはいないだろうか。


「嫌なわけない…嫌なわけないよお兄ちゃん。私の幸せはお兄ちゃんの傍にいること。他にはないの」


「アイン…なら俺と一緒についてきてくれるか?」


「うん!! お兄ちゃんを幸せに…幸せに絶対する! だから私をつれて連れていって!」


「あぁ、アインこれからは絶対離れないから。俺もアインを幸せに絶対するから」


 アインはその言葉が嬉しかった。好きな人からもらえたその言葉が嬉しくてさっきより強くヴィークを抱きしめていた。


「私もずっとお兄ちゃんの横にいるから」


「ははっ。あの親たち俺たちが一緒に遠くで暮らすって知ったらどんな顔するかな」


 お互いに笑いながら涙を拭って、この家を後にした。

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