最終章 「記憶の彼方に……」

「みんなおはよう。今日はついに作戦決行日だ!何がどうなるか見当もつかない、でも、きっとうまくいく!自分たちを信じて頑張ろう!!」

 さすが作戦当日だ、誰一人寝坊することなく司令部へ集まった。

「さてと、じゃ行こう」

 一行は事のはじまったシオンモールへと向かった。今日は政府からの命令でシオンモールは閉店している。

 安心して、色々とできる。

 大型バスに乗って1時間ほど。

 みんなの緊張感がピリピリと伝わってくる。

 昨日の戦いでは、本部三人の犠牲とヨーロッパ支部の五人の犠牲を出した。ゼラリア残党の殲滅には成功したが、あまりにも痛すぎる結果であった、決して勝利とは言えない。まだ、みんなの中にも消化しきれていない事ばかりで、不安感も同時に伝わってくる。

 空を飛ぶ鳥にあこがれを感じる。

 昨日のことをまた思い出して泣きそうになる。

 でも、今日ですべてが終わる。

 世界は元に戻る。

 八一もミーシャさんも、うららもみんな生き返る

 日常が帰ってくる。

 瑞穂の羽も消える。

 そして、また一人に戻る……

 真白との昨日のこともなかったことになる。でも、それで世界が戻るならちっぽけな代償だ。


 大型バスは駐車場へ入り、一行はバスから降り、影の中心へと向かった。


 影の中心の力がどんどんこちらに伝わってくる。

 勝ち目のない雰囲気が漂う。

 飛んで火にいる夏の虫とはこのことだろう。

 歩いて闇にいる夏の人……


 中心についた。そして……

「神谷くん。始めよう」

「はい。ニソラさん。リードは任せます」

「分かった」

 一同は唾をのんだ。

 すべてが終わる。

「時空反転!神よ開きし扉を閉ざされたまえ!」

「時空反転!神よこの願い聞きいれたまえ!」

 二人の手から光のようなものが出てきた。

 そして、闇の中心へ向かって、光が伸びはじめた。

 見るからに劣勢である。

 闇はますます力を増す。

 光が押されていく。

 二人も必死に抗戦する。

すると、メアリーさんが口を開いた。

「光よ集え、我が同志たちに力を与えよ!ファイナルフラッシュ!!」

 なんとメアリーさんが呪文を唱え、光を出す。

 これで、俺の仮説は無残に散った。

 でも、少しづつ、また少しと闇を押していく。

 でも、闇はまた力を強める。

 これでは永遠に勝負がつかず、タイムオーバーで負けてしまう。

 なんとかならないのか?!

「神よ!我が力を今解放したまえ!星に宿りし、力をすべてこの者たちに貸したまえ。今我は魂を捧げる」

 シリウスが力を使った。

 光は更に強くなる。

 闇も負けまいと吹き返してくる。

 だめだ……

その瞬間光が完全に闇に吸収された。


そして……


闇は更に大きくなって暴発をはじめた。


大きな爆発が起きる。そして、前線にいた瑞穂が吹き飛ばされた。

「瑞穂ぉっぉおお!!大丈夫か!!」

 瑞穂を抱きかかえた。意識がない。

「もう一度試してみる!能力者のみんなは力を!!」

「わかった!」

 そして、能力者たちはまた呪文を発動した。

 今度は光が大きい。

 しかし持続力がない。

 あっけなく闇に包まれてしまった。

「柊人、力を貸してくれ!!」

 シリウスが必死に叫ぶ。

「分かった!」

 俺は、そういって、闇の消滅する様子を脳内に妄想した。

 みんなによって生成された光は、さらに増幅する。

「私もついに力を使う時が来たようだ……」

「石川さん?!?!そうですね……私たちも開放しましょうか!大人になっても厨二力は決して消えない。不治の病……その力をとくと見よ!これが究極奥義!!!ファイナルフラッシュ!!!」

 石川さんと良子さんが、手から大きな光を放つ。その光は、闇を包み込む。圧力をかけ、どんどんと、闇を小さく押し込めていく。

 でも、だめだ。闇は光の中で爆発のようなものを起こし、力を強める。そして、またもや闇は外に出てきてしまった。

 このままでは、世界は闇によって包み込まれる。そうなると、前回歪みを直し切れていない分、今回の歪みで、さらに世界は歪み、それを直そうとする力が働いて、世界は崩壊を始め、能力者が世界に点在し、やがてイエラニスのような人物が出来上がってしまう。

 なんとか止めなければ。この任務の第一段階が、闇を止め、完全に消滅させること……これは、作戦の第一段階にしか過ぎないのである。そして、闇を消滅させた後、みんなの力を使って、世界を回復させる。そう……光で世界を包み、22年前の歪みに潜んでいる、闇を完全に取り除く。そうすれば、22年前のこともなかったことに出来る。

「ニソラさん!!もし、この作戦が失敗した時の最終手段ってなんなんですか!!」

 ニソラさんが来た時のセリフを思い出し、聞いてみる。あまり使いたくない手段とのことだったので、深く聞かなかったが、今はその最終手段を使う時なのかもしれない。そう思ったからだ。

「四条柊人。その方法を本当に聞くのか?」

 俺はコクッと頷いた。

「心して、聞けよ。世界をもとに戻す最終手段。それはつまり、闇に鍵を堕とすことだ」

「闇に鍵を堕とす……でも!!それってつまり!!」

 ニソラさんが、少し間をあけ、真剣な表情で話す。

「そう。この闇に、鍵である瑞穂ちゃんを堕とす……つまりそういうことだ」

「何故、闇に瑞穂を堕とすことが世界を戻すことになるんだよ!!」

 俺は、感情的になって強い口調で発言してしまった。

「落ち着いて!でも、この方法はオススメしないよ……実は成功率が50%しかないんだ。闇の中には、二つの鍵穴が存在するといわれている。光の鍵穴と、破滅の鍵穴。この二つのうち、光の鍵穴に鍵が刺さる必要がある。もし、破滅の鍵穴に入ってしまうと、世界は、リカバリーを始めるために、一度解体を始める。そうなると、一度世界が消滅してしまうことになる。この人類は絶滅し、神によって作られた新たな人類が誕生する。ただ反対に光の鍵穴に刺されば、闇は完全に消滅し、世界に光が注がれる。そうなれば、世界は元に戻る。この出来事もなにもかもの記憶を脳内から消し去って……」

「そんなのを手段とは言えない!!50%の賭けに瑞穂を犠牲にするなんてできるわけがないだろ!クソ……どうすればいいんだよ!!」

「お兄ちゃん……」

 最終手段という選択肢が完全に消え去った。世界に光が注がれる……か。



目の前には大きな闇。

 どんどん大きくなっていく。

「力不足です……」

「嘘だろ?おい。どうすんだよぉおお!!」

 俺は涙を流しながら叫んだ。

「もういいよ。私が行くよ。そうすれば、解決でしょ?長い間ありがとね……」

 腕の中にいた少女が声を上げた。

「はぁ?何、言ってんだよ!そんなことしたらお前はどうなるんだよ!!!」

 涙で視界が滲む。


 

「そんなの分かんないよ……でも、それで全てが戻るなら……ね……?」

 そんなのってないぜ……なぁ神様よぉ。どうしてなんだよぉ!なぁ!あんたらは世界を変えちゃうくらいすごいんだろ?だったらさぁ!助けてくれよぉ!

「柊人君……残念だが、彼女の言うとおりだ、もう、それ以外に方法は……」

 薄緑色の紙をした少年が声を上げた。

「お前はそれでいいのかよ!コイツが……コイツがどうなってもいいってのかよ!」

「そんな訳ないじゃん!」

 少年は下を向き、目線の先に小さな水滴を一つ、また一つと落とした。

「なぁ……皆!考えてくれよ!考えれば方法があるはずだよ!そうやっていままで乗り越えてきたじゃん!なぁ。頼むからさ」

「…………」

「…………」

「…………」

 たくさんの人が居る中、音は消え、何も聞こえなくなってしまった。

「おい、誰か!誰か頼むよぉ!」

スーツを着た女性が声を上げた。

「そんな方法もう、ないわ……ここはアニメの世界でも漫画の世界でも

ないわ!まぎれもない現実。……文書にもあった通りなのよ?男なら聞き分けなさい!」

「嫌だ!!コイツは俺の……大切な……」

 涙で滲む目をとじ力一杯叫んだ。

「もう……いいよ……私は自分で決めたの。何が何でも私が行かなきゃ……そうしないとみんなが幸せになれない。そんなの私嫌だもん……だから……ね?」

腕の中にいた少女が小さな笑みを浮かべながらこちらをみつめる。

涙が止まらない。

それをみながら少女が立ち上がり、言った。

「でも、その前に……」

「その前になんだ?」

「約束して……」

 そして、少女は言った。

「私に絶対会いに来るって!」

 瑞穂は、悪戯にニコッと微笑んだ。

 それだけを言い残し真っ白な羽を広げ、闇の中心へと飛んで行った。

「瑞穂ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

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