第五章 第十五話

一行はなんやかんやで、階段をのぼり、二階へたどりついた。

「さてと、とりあえず、二階だな」

 まだ、二階か……と疲れ果てている一行。何しろ、シルフ本部同様に、この基地も広すぎる。まったく。こまったもんだ。トラップやなんやらで時間を取られたのもあるけど……

「なぁ。柊人」

「ん?なんだ??」

 一から声を掛けられる。

「この階、やけに静かすぎないか?」

「奇遇だね。そうなんだよ。僕もそう思ったところだ」

 秀才二人が、俺に尋ねる。

「そうか?こんなもんなんじゃないか?」

「いや、さっきまでとはあまりにも雰囲気が変わりすぎている」

 まさか、そんなテンプレみたいなことは……でも、確かに一階より静かなのは確かである。まるで、何かに誘い込まれているようなそんな静寂さ……?……!!!

「敵襲!!!その数、十……いや、百。それどころではない!!」

「なんだって!!」

 一とシリウスの懸念が的中した。俺たち一行は、まんまと敵の策にはまってし合ったのである。まるで、井の中の蛙のようだ。狭い考えで、進行してしまった。もっと、いろんなリスクを考えるべきだった。

「不覚……」

 ミーシャさんを始めとして、三人が必死に応戦する。俺たち能力者四人は武器を所持していないので、拳で必死の抵抗。でも、明らかに歯が立たない。

 確実に数は減っているのだが、母数が桁違いなので、まだまだ殲滅には果てしない。

「柊人!!!ここは任せろ!お前たちは先に行け!!!愛する者のために走り続けろ!!!足を止めるな!!お前たちがここで止まったら、北斎さんはどうなる!怯むな!!!前に足を進め続けろ!!また、会うことがあったなら、その時は、お前ののろけ話でも聞かせろよ!いけぇえええええ!!!」

 八一が必死に叫ぶ。しかし、アンドロイド達が、ひっきりなしに攻撃を仕掛ける。八一の体力も限界に近付いている。

「八一ぃぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

「何をしている!!心配するな。俺は、一流のアサシンだ!お前たちなど、足元にも及ばないレベルのな!だから早くいけえぇ!!!また会おう!」

「八一!」

 八一は、高く飛び上がり、敵の群れの奥へと突っ込んでいった。

「ご主人様はやく!!もうここにいてはいけません!あとはうららめにお任せを!大丈夫です!私は、いつもご主人様の近くにいますから!あなたとあえて幸せでした!ありがとうございました!ご主人様♪」

 うららも、敵を引き付けるように、敵を挑発し、どんどんと離れた方向に進んでいった。

「四条様。シルフのこと、あとは頼みました。どうかご無事で!」

 ミーシャさんが、俺たち一行の道を切り開いてくれた。

「はやくいってください!!!」

「行こう柊人!」

 そういって、一に腕をつかまれて、俺たちは走り出した。

「ミーシャさん!!!」

 そういうと、彼女は、ニコッと笑い、俺たちの盾となった。

 どこまで、勇敢な人なのか。思わず、涙をこぼしてしまった。

「柊人くん。泣いては、ダメですよ。あの三人は強い方たちです。きっと、また出会えます。疲れた、とか言ってまた笑顔で話せる日がきますよ!それに、あなたが泣いていては、北斎さんは悲しみますよ。正義のヒーローが泣いているなんてかっこわるいじゃないですか」

 シリウスが、優しく言葉をかけてくれた。

 正直、さっきの状態からみても、この先の三人の結末は分かっている。でも、今は彼らを信じるしかない。どうかご無事で!!!


 そして、最終階である、三階へとたどり着いた。

「ついに、ラストバトルか……」

 いかにも、ボス戦前という感じの、大きな扉の前に来た。

「いくぞ。柊人、克実、シリウス。準備はいいな!」

「うん」「はぁ~い」「もちろん」

 大きな扉を一が勢いよく開ける。その先には、俺たちをあざ笑うかのような強い光が発されていた。

「よくきたね……」

 中央の玉座に、ワイングラスを片手にした白髪の人間がいた。

「イエラニス・ゼラ……か」

「いかにも。私がイエラニス・ゼラ。またの名を、創造神イエラニス」

「創造神イエラニス……?どういうことだ!!」

 創造神というと、この世界を創造し、世界のあらゆる物質をも生成するという、世界神話の中の人物。その異名を何故イエラニス・ゼラが?

「説明するほどの、ことでもないと思うがね。私の名前は創造神イエラニス。この世界を創造し、作り上げた張本人だよ。創造神だからゆえ、私は老いない。どうだ?この体は、すごいだろ!君の所に転がり込んだ、ニソラ君にめった刺しにされたときは困ったけどねぇ~。でも、まぁ、皮膚や臓器を再生することくらい一時間もあれば、容易い事なんだよ」

 そうか、そういうことか。ニソラさんは、確かに、一度殺していた。でも、創造神だからゆえ、その箇所を修復できた。それによって、今世界に存在できた。というわけか。

「そんなの、凄くもなんともない!!お前のせいで、世界は無茶苦茶になった!俺の人生だって!さぁ、はやく真白を返せ!!!」

 ありったけの声で叫んだ。

「そんな簡単に返すわけないだろ?というか、君たちにはここで人生という名の長い道のりを終了してもらうよ」

 そういって、イエラニスは不気味に笑い始めた。それと同時に扉から勢いよくアンドロイド達が攻め込んできた。

「ここまでか……」

 武器もない。戦力も皆無な俺たちにはせいぜい二、三分抗うことくらいしかできない。

 こんなにも無力さを感じさせられるとは。神様。あんたはほんとうに意地悪だよ。ロクに愛する人も守れやしない。そんな残酷な運命を受け入れるしかないのか……あぁ。ありがとう世界。ごめん、シルフのみんな……

「あきらめるなぁあああああああ四条柊人ぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 聞き覚えのない声が響き渡る。それと、同時に窓ガラスが砕け散った。

 すごくきれいな女性が、窓ガラスを突き破って、アンドロイド達に向かって飛び蹴りを食らわせた。

「あなたたちは?!」

「お兄ちゃん!!」

「み、瑞穂?!?!?!?」

 ありえない光景が広がった。本部にいるはずの瑞穂が白い羽をなびかせて、ゼラリア基地まで来た。

 そして、謎の女性が突き破った窓から、次々と特殊部隊のような人たちが入り込んでくる。これはいったい?

「初めまして、四条柊人君。私は……杉浦波留。シルフヨーロッパ支部の支部長よ!良子の依頼を受けて、とんできたわ!この特殊部隊っぽいのは、ヨーロッパ支部の軍隊。あなたたちを援護にきたわ!安心して、もう大丈夫だから」

 そういって、杉浦波留さんは、俺のおでこにキスをして、またアンドロイドのもとへと突っ込んでいった。八一やミーシャさんとは、比べ物にならないくらいの強さだ。

「私は、杉浦波留!!!遠距離支援型女子校生から今は、近接戦闘型支部長へ究極進化した、厨二病のなれの果て!!なめてもらっては困るなああああ!!」

 つよい。あまりにも強すぎる。一蹴りで、アンドロイドが真っ二つに。恐るべし。

 そして、イエラニス・ゼラが口を開いた。

「馬鹿な……そんなはずは!!」

「もう、これで、エンドだ。もう武力では勝てないぜ?」

 完全に余裕を失っているイエラニス・ゼラがそこにはいた。

「白翼の少女が何故ここに……!確かに、監禁しているはず……そうか、私は致命的なミスを犯してしまったようだ。この私が、対象を間違えるというミスを犯すとは。なんたる失態。ええい。こうなったら、白翼もろとも、滅ぼしてくれるわ!!そうなれば、世界は新たな支配者を求める。そこに、私が入る。そして、世界は私の支配下にはいる!」

 イエラニスが、狂気に満ち溢れた顔でこちらを見る。

「やめろ!!そんなことをしても、世界は変わらない!」

「変わらなくていい!!俺の世界にさえなればいい!!世界を統治する。なぁ?ロマンだろ?どうだ、今なら、支配者階級に入れてやるぞ?」

 イエラニスが、またもや不気味な笑みを浮かべながら、提案してくる。

「だれが、そんな誘いにのるか、こっちの要求をのまないなら、方法はただ一つだ。お前を殺す」

 正直、こんな強敵を殺せるのかどうかは分からない。でも、それしか、今を切り開く打開策が見つからない。考えるのはもうやめた。今は、弱点と隙を見つけるのみ。

「ほう。面白い。ならば、正々堂々戦おうじゃないか。世界はどちらを選ぶのか」

「何が正々堂々だ!世界はお前を選ばない!」

 イエラニスが、玉座の横においてあった剣を手に持ち、勢いよく切りかかってくる。

「っつ!」

 剣は俺の額を掠めた。

「柊人!!」

 一がこちらに目線を向ける。しかし、彼も、アンドロイド達の猛攻によって、また視線を戻される。克実・シリウスも必死に抵抗する。しかし、圧倒的な数にねじ伏せられる。ヨーロッパ支部のみんなも、必死に戦うが、やはり数で押し返される。

 つまり、イエラニスと戦えるのは、俺だけ。

「どうした!!もっと攻撃してこないか!お前は口だけの男だったのかぁあ!!もっと、私を楽しませてはくれないのかぁあああ!」

 イエラニスが高笑いしながら、間を開けずに剣を振りかざしてくる。

 ただ、よけるというコマンドしか選択できない俺にとっては絶望的な状況。攻撃があたるのも時間の問題。どうする。

「クッ!!こんちくしぉおおおおおおおおおおおお!」

 波留さんの声が響く。

「四条柊人ぉおおおお!力を使えぇえええ!!相手を憎め!愛するものへの想いをそいつにぶつけろぉおおお!!強く願え、そして、強く憎しめ、そしてやつを殺せぇえええ!」

 相手を憎しめ……こいつが憎い。そんな事はさっきから思っている。

「殺してやる殺してやる殺してやる……殺してやる!!」

「ハハハ!またも口だけなのか!さぁもっと舞え!そして、剣のさびとなれ!」

 イエラニスが、またも剣を振りかざす。そして、避ける。明らかにイエラニスの攻撃速度が上がっている。もう時間がない。強く想う……愛する者のことを……真白……

「グハゥッツ……」

 猛威を振るっていたイエラニスが突然胸を押さえ、後ずさりした。

「うぐぅぅうう……ああああああああああああ!」

 そして、まるで狂犬病にかかったかのように反り返り、持っていた剣を手から落とした。

「一体何が……」

 あまりの衝撃的展開に言葉が出ない。

「ああああああああああああ!何をした四条柊人……これが、世界が……シエナが選んだ結末だというのかぁあ!!!」

 俺は世界に選ばれた……?そうか、そういうことなのか、神様。あんたはどこまで俺たちを馬鹿にしてくれるんだ。俺に宿った力が、ここまで使えなかったのは、この時のためだったのか。強い想いこそがトリガーとなって、封印を解く。イシス文書の文字に隠された秘密はこのことだったのか。

「残念だったね。イエラニス・ゼラ。君にはここで死んでもらう。世界は支配者なんて必要としていないんだよ。世界はあるべき姿へと戻る。それで十分だ。過去の歴史から人類と世界は学んだ、無理な改変は災いを呼び起こす。大きな代償を支払ってまで変えた世界は、決してきれいなものにはならない。そんな世界は表面上は真っ白な世界でも、中身はどす黒く汚れきったつまらない世界なんだよ。だから、いくら人類が世界を改変しようとしたって、それを神が許さなかった。今回の出来事は、神が起こし、人類がそれに乗っかり、人類と神が止める自分たちへの罪滅ぼしの行為にすぎないんだよ。だから世界は変わらない。ここで、何もかも無かったことにする」

 イエラニスが吐血する。

「そんな馬鹿な……世界は支配者を求めた!だから私は、創造神として、この世界を作り上げたものとして、この世界をあるべき方向へと持っていこうとした。統一された素晴らしき世界。戦争も暴動も起きない素晴らしい世界。そして、私に忠誠を誓うものだけで作り上げられた国家。あぁ、すべて夢物語に終わるのか……まさか、シエナに殺されるとは思いもしなかったがな。何十億年生きたことだろうか。ついに、私も神生を終えるのか、でもだな。四条柊人。最後に一つだけ、言っておく。神童は無に還る……」

 イエラニスが謎のメッセージを残す。それと同時に、イエラニスの体内から大量のクリスタルが突き出てくる。血だらけになって、一つの大きなクリスタルとなった。

 赤いクリスタル……そして、そこに創造神イエラニスは、永遠の眠りについた。

「お兄ちゃん!!」

 ヨーロッパ支部と一緒に闘っていた瑞穂が俺を呼ぶ。赤いクリスタルを目の前に、思考経路が完全に途切れていた俺はハッと現実に引き戻される。

「お兄ちゃん!!はやく真白さんのところへ!」

「でも、お前たちは大丈夫なのか!!!」

 明らかに苦戦している様子だった。

「四条柊人気にするな!私たちの力を見くびってもらっちゃ困るな!」

 波留さんが、こちらにウインクする。まったくだ、とばかりに一・克実・シリウスもおちらに目線を向ける。

「もうはやく!!私は大丈夫だって!なんてったって、あなたの妹なのよ?運動神経抜群というところもお忘れなきように!」

 瑞穂がニコッと微笑む、俺の心に日がさした。もう迷うことはない!

 瑞穂に最大の笑顔を返し、俺は扉へと走り出し、玉間を出た。

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