第五章 第十三話

 楽しかった時間から一晩が立ちいよいよ作戦前日。

 今日は、さすがに前日という緊張感もあってか、全員が集合時間前に集まった。

「いよいよ明日か……」

 銀縁眼鏡の秀才が声を上げる。

「そうだね、ほんとに明日、やるんだね」

 緑色の髪の秀才がレスポンスする。

「やっと、世界がもとに戻るんだよ。これで私の長い長い闘いもやっと終わりだよ。アハハ」

 誰よりも長いこと厨二病と世界を相手に闘ってきた、優しい顔のおじさんがつぶやく。

「に、しても、何故川井はまだ来ないの!」

 と、仕事できるけど厳しくて……(以下略)な女性が声を上げる。

 でも、その一言で川井さんが来ていないことに気づく。まぁ、それが彼らしくもあり、出世しない原因なんだろうな、と思いつつ……

 そして、集合時間ギリギリに川井さんが息を荒げながら司令部へと飛び込んできた。

「川井!!あんたね!前日まで、遅刻ギリギリとはいい度胸じゃない。さぞ、納得のいく言い訳ができるんでしょうね?」

 すると、川井さんが、いつもとは違った面構えで良子さんを見つめた。

「ハァ、ハァ、ハァ……大変です……本部のポストにこんな手紙が……」

 嫌な予感がする。このタイミングで、ポストに嫌な手紙。でも、なんだ。この作戦について知っている人はもういないはずだが……

「な、なによ、これ!!!!」

 良子さんが叫びながら、ニソラの方を睨む。

「な、な、なんですか!そんな怖い顔で睨まないでください!!少し、拝借!」

 ニソラが読み進める度、表情に余裕がなくなるのがはっきりと分かる。

「何故?!どういうことだ。私は確かに、あの時、あの時。そんな馬鹿なハズは……」

 いつもの冷静さを完全に失っている。そして、手紙を地面へとスルっと落とした。

「え~っと……」

 俺は手紙を読み進める。

『拝啓 シルフの皆様

 ご機嫌いかかでしょうか?うちの裏切り者メタニとニソラとはうまくやってますか?

 まぁ、そんな裏切り者のことはどうでもいいいのだがね。

 君たちが明日、世界を元に戻そうとしている事を知ってね。まぁ、当然そんなことさせないけどね?せっかく、僕が綿密な計画を立てて、ここまで来たのに、それをリセットされたんじゃ、たまったもんじゃないからねぇ~

 そこで、僕は考えたわけだ。

 で、出した結論が……シルフの計画にないものを追加する。

 さすがに一人で計画を消してしまおうなんてことはしない。そんなのは敗者が思いつく方法だ。

 つまり、君らのところの、北斎真白を闇へと突き落とす。

 闇が世界を包むとき。世界は新たな方向へ進みだす。新たな支配者であり創造主を選択して。では、世界最後の一日を楽しむとい。アディオス」

「な、真白!!!」

 あたりを見回す。真白の姿がない。そういえば、あの拷問事件以来毎日会ったら元気よく甘えてくる真白の行動が今日は無かった。作戦のことや、瑞穂のことなどを考えていたからそんなことは微塵も頭になかった。てっきり、今日もいるだろう。という固定概念にとらわれていた。

「これ、まずいね。どうする」

「決まってる、探し出す!その選択肢以外ありえない。そうだろ柊人」

 二人の秀才が、こちらに目線を向ける。

「も、も、もちろん!!!とりあえずゼラリア本部に向かう!一!車を用意してくれ!」

「すぐにでも」

 司令部の外へと走りだそうとした時に、着ていたパーカーの袖をグッとつかまれた。

「マスター。私も連れて行ってください。イエラニス・ゼラ……やつだけは一度ぶんなぐっておかないと気が済まないんです」

 いつものほんわかとした少女ではなく、一流の暗殺者としての極一うららがそこにはいた。

「まったく、何を焦っているんだ、四条柊人。君らしくもない。君たちだけでなにができるというんだね。相手はかなりの実力者。一人でも戦力が多い方がいいだろう?」

 腕を組み、扉の付近へともたれている。相変わらずのかっこよさ、特務科所属 イグラアス・ミーシャさん。本当にどこまでも、かっこいいんだ。でも、この一言で気が付いた。

 俺が焦っても仕方ない。焦りは失敗を生む凶器へと変わる。まずは何事も準備だ。

「やれやれ。また今回も助けを出してくれないのかい?ほんと親戚として、悲しい限りだよ。自慢じゃないが、俺も一流のアサシンだ。それなりの腕はもっているって自負してる。だからさ、頼ってくれ、柊人。愛する人のために駆け出す気持ち。分かるぞ、柊人」

「ば、ばか!愛する人とかそういうわけじゃないから!」

 八一の一言に過剰に反応しながらも、ほんとにありがたい一言だった。やはり、一人でも多くの戦力が必要だ。

「ありがとう八一。今回は手を借りることとするよ」

 フン、それでいいんだ。と反応する八一。

「さてと、これで、役者は揃った。行こうか!」

「お兄ちゃん、頑張ってね!真白さんを!絶対に連れ戻してきてね!!」

「うん!任せろ!」

 ニコっと瑞穂に笑顔がこぼれる。守りたい、この笑顔。この笑顔に約束する!必ず、真白はとりもどす!!!

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