第二章 第五話

「ただいま……」

 帰ってテレビをつける。

 こぞって全局が緊急放送として、養条学園の映像を映していた。

 大量の警察官と消防士、国の研究者らしき人たちがいた。

「え~先ほどからお伝えしております。大阪府の私立高校、養条学園での事件ですが新たに情報がでました。この事件では、現在、死者92名 負傷者389名出たとのことです。繰り返します……」

 柊人は自分が妄想したことが現実に起きてしまったという事がまだ信じられなかった。

「どうして……なにがどうなってんだよ。もうわけわかんないよ!」 

 鞄を机へとたたきつけた。

 すると一つのノートが落ちた。家用日記帳である。

 それをみて、昨日受信していたお父さんからのメールを思い出した。

「もしかして……これが、お父さんの言っていた異変か」

 日記帳を持ち、俺は無我夢中で親父の部屋へと走った。

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「なんだこれは…」

 中には大量の札束と、大量の研究資料、そして、一つの封筒があった。

 封筒をひらいた。するとそこには一つの手紙が入っていた。

<これをみている君へ。 この手紙を読んでいるという事は身の回りで大変な事態が起きた後だろう。これは君の妄想が引き起こした事だ。残念ながらこれは変えられない事実だ。

 しかし、このことに大きな責任を感じないでほしい。これは君だけが引き起こした事ではないのだから。そして、シルフという勢力に力を借りなさい。そこの石川正造いしかわしょうぞうという男が君の助けになってくれるだろう。>

 ん?石川?シルフ?……?!

 何かに気づいたように自室の机に走った。

「ビンゴ…………」

<シルフ所属 百川良子>

 早速名刺に書いてあった番号へ電話をかけた。

「プップップッ…プルルル・・・プルル はい百川です!」

「あのすいませんこの前ぶつかった四条柊人というものなんですが……」

「ああ、あのおもしろい少年か!お詫びならもういいぞ、ってかなんで番号知ってる?!いや、そんなことはどうでもいいか……悪いけど忙しいので!きるぞじゃぁな」

「あの……あ、切られた。もう一回かけるか」

「プップップッ……プルル・・・プルル はい百川です!」

「すいません四条ですけど、別の件で電話させてもらいました!」

「またか!なんだよ!」

 百川は再度の電話に少し苛立ちをみせた。

「あの、百川さんが所属するシルフという団体に石川正造さんっていらっしゃりますか?」

「私の上司だが、それがどうかしたのか?」

「実は少し厄介なことを引き起こしてしまって、お父さんがシルフの石川正造なら力になってくれるからって……」

「厄介な事ってまさか……!あの事件か!」

「はい、そうです……」

「トリガーは君だったかぁあぁ!分かった今すぐ迎えに行こう!!家で待っていてくれ!」

 トリガー?なんの話をしてるんだ?

「はい分か―切られた。にしてもせっかちな人だなぁ全く…」

 ため息をつき、落ち着くためにベランダへでた。

 青く澄み渡る空に沢山のサイレンが鳴り響く。

「ほんと、どうなってんだよ……」


「お待たせ!」

 白色のRX-7に乗った百川がやってきた。

「さ、早く乗って……」

「あの……」

「話は後よ!さぁ、早く!今は時間がないの!」

「わ、わかりました!」

 慌てて助手席へと乗り込んだ。

 それにしても、百川さんの見た目とは裏腹に、綺麗に乗ってるんだなぁ……

「柊人君……だったかしら」

「は、はい、そうです!それにしても、百川さんこれって、ホントに……何がどうなってるんですか??」

「そうね、どこからどこまで話せばいいか分からないけれど……柊人君、あなた、あの時、自分の身になにか異変はなかった?」

 できるだけ、鮮明にあの時のことを思い返した。

「異変ですか……異変というか、不思議な事ならありました……」

「それは脳内で考えたこと―妄想が現実に起きたという事ね……」

 何故だ、何故この人はそのことを知っているんだ?!俺はなにも言ってないぞ!百川さんどころか、自分以外には誰にも言ってない。だから、この事を知っているはずがない。なのに何故?!

 しばらくの沈黙が続いた。そして、しびれを切らした百川が口を開いた。

「よし!じゃぁ、私達シルフについて説明していこうか」

「はい!お願いします!」

「分かったわ。色々あって大変だったんと思うけど、落ち着いて聞いてね。」

「はい。分かりました」

 唾をゴクリと飲み、話を聞く態勢に入った。

「私達、シルフは、政府からほんのすこーしだけ援助を受けて、動いている、非政府特定機動本部の事よ、政府から援助してもらってるとはいえ、名前の通り非政府の組織なので、政府直属の部隊っていうわけでもないんだけどね……そして、私達の主な活動は厨二病についての研究よ」

 ん?今なんて言った?厨二病……?まさか、なにかの聞き間違いだろう。うんそうだろう……

「そして、その厨二病患者が世界を変えてしまうかもしれない。という説がいま出てきているの。それで、研究しているのだけど、その厨二病患者っていうのが、特定の一人の事を指すのか、全員の事を指すのか、そこまではまだ分かっていないの……決定的な根拠でも書いている文書でも出てきてくれれば話は別なんだけどね……」

 ん?また厨二病っていった?

「あの、百川さん、厨二病って言いましたか?」

「え、あぁ、言ったわよ」

 間違えない…………

「もしかして、シルフって厨二病患者の集まりだったりします?さっきから言ってることが………」

「ちぃがぁ~う!!確かにやってることは厨二チックだけど、私達はしっかりと活動しているんだから!実際問題、そういった説があるのは間違いないんだから!!」

 少し怒ったように百川が言った。

 あれ?怒った百川さんちょっとかわいい?

「と、話を戻すけど、私たちは大事件が起こる前にその患者達を保護しようとしているの」

「そして、研究のために解剖すると……」

「だからちがうってば!そんな悪の組織みたいなことしないわよ!!」

 又、少し怒ったように言った。

 うん。やっぱりかわいい。確信した。これからもイジリ続けよう。

「で、その患者達を保護して、事件を完全に防ぎ、こうなってしまった世界を戻そうとしているの。」

「なるほど。要するに、厨二団体が同じ厨二病患者を救おうとしている―という事ですね!」

「そうよ……って!だから厨二団体でも悪の組織でも何でもないって言ってるでしょ!!!」

 少し、気がやわらいだような気がした。これが大人の対応か……

 事件の事はまだ謎だらけだけど、とりあえず今はこの人をいじり倒そう。うん。決めた。

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