いつも隣にいたキミに

夜月 朔

第1話 出会い

 あれは……『彼女』との出会いはいつの事だっただろうか。僕はふとそんな事を考えた。

 別になんてない日の朝。いつもの朝食にいつものテレビ番組。何か違うことがあるとすれば、それはニュースの内容が明るいものばかりだったということだけ。

 時計を見て、トーストを一口。ちょっと熱い。そういえば……彼女との出会いは大学だったような気がする。


 ◆◆◆


 彼女は……三坂みさか優香ゆうかは僕の大学の同級生であった。同じ大学の同じ学部。初めての出会いは、理数の講義だったはずだ。

 その講義では、狭い講義室に数十人が押し込まれている。講義開始の一分前。彼女が講義室に入ると、空いていた席は一つだった。

「隣の席、いいですか?」

「あ……はい。どうぞ。」

 僕と彼女の会話はそれだけだった。

 それから退屈な講義を一時間半。なんとなくぼーっとしていると、いつの間にか講義は終わっていた。そして、彼女もいなくなっていた。

 理数の講義は毎週火曜日の昼過ぎにあった。次の週。彼女はまた開始一分前に講義室に入ってきた。

 だいたい数回、講義が終わる頃には席も決まってきている。誰が誰の隣で、誰が教授の近くに座るか。どこの席が空いているか。

 だから、偶然という訳でもなく、彼女は僕の隣の席に座ることになった。

「隣の席、いいですか?」

 彼女は先週と同じように同じ言葉で僕に尋ねる。

「はい。どうぞ。」

 僕の言葉も大して変わらなかった。

 一時間半の退屈な講義が終わると、彼女はすぐに席を立った。

 だけど、その日の僕は何かが違った。それが何だったのかは分からない。気まぐれなのかもしれないし、彼女に何かを伝えようとしていたのかもしれない。

 ただ一つ分かることがあるとすれば、僕は少なくとも彼女と話したいと思っていた。

「どうしてギリギリの時間に来るんですか?」

 彼女は筆箱をバッグに仕舞った。それから彼女は動作を止めた。僕の方をゆっくりと振り向く。シャンプーの香りが僕の鼻腔をくすぐる。

「……何ででしょうね。」

 それがアルバイトだろうかと予想していた僕は唖然とする。

 その表情が顔に出ていたのか、彼女はくすりと笑った。

「不思議ですよね。朝の六時には起きているんです。

 朝食を取って、支度をしても時間は余ります。

 でもどうしてもここに来るのがギリギリになっちゃうんです。」

 彼女は一旦そこで言葉を区切ると、何かを考える素振りを見せた。

 何を考えているのか、てんで理解のできていなかった僕は困惑するばかり。しばらくして彼女の思考は終わったようだ。

「面白いですね。」

 そう、呟いた。思わず僕は聞き返す。

「面白いですか?」

「はい、面白いです。」

 それからしばらく話をしていたのを覚えている。

 何を話していたのかなんて覚えていない。天気の話だったかもしれないし、世間話だったかもしれない。話したいことがあったのかもしれない。

 僕が覚えているのは、その数分間、僕の心はどこか温かくて穏やかだったという事だけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます