戦い済んで

 夕焼けの空の下で一人の初老の軍人が立っていた。

 襟には大佐の階級章。神雷部隊の司令である。

 司令はずっと空を見ていた。

 果たして飛んで行った陸攻隊は無事に目標にたどり着いたのだろうか。桜花は命中出来たのであろうか。

 連日のように部下が必死の出撃するという苦しさの中、ただ桜花が命中したという報告だけが彼の心を慰めるものであった。

 しかしその慰めの報告も司令の元に届くことはほとんど、ない。

「司令」

 指揮所からやってきた士官が司令の脇に立つ。

「どこの基地にも陸攻は着陸していません」

「そうか……」

 司令は寂しそうに頷いた。

「セ連送以降、何も通信はありません。やはり敵艦に辿り着く前に全機撃墜されたのかと」

「そうだな」

 再度司令は寂しそうに頷く。

「戦闘詳報には、そのように書くように伝えてくれ」

「はい」

 士官は頷くと踵を返して指揮所の方に戻っていった。

「今回もダメだったか」

 赤い夕焼けを司令は見上げる。

 この日の戦闘詳報には戦果は記されず、ただ「全機未帰還」と短く書かれたのみであった。

 そこ書かれた財前の文字は単なる「戦死者」であるに過ぎず、彼が桜花で体当たりに成功した事も、その結果として大型輸送船を道連れにした事もなにも書かれなかったのである。

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「証」の特攻 矢舷陸宏 @jagen

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