9-2
※ ※ ※
令が出くわしてしまった住宅街の十字路で
令が出るなり秋津佐の威勢の良い声が耳元に響いた。
「あの子監視カメラを避けて生きてんのかって思うほど見つかんないんだけどっ! まあもっとも、まだ住宅街付近にいるんならネットワークに繋がった監視カメラがそもそもないんだけどさっ!」
フラストレーションをぶつけるような勢いの秋津佐からの報告。
その声に令も思わずスマホをちょっと耳から遠ざけた。しかし内容はしっかりと頭にまで入っている。
「ってことは、周辺の監視カメラには映ってないんだな?」
「映ってないけど、だからといって住宅街から出てない証拠にはならないわよッ? ルートさえ選べば、監視カメラに映らずにかなりの範囲に行けるんだから!」
秋津佐のその言葉に令は
“ルートさえ選べば”……。だが
そんな風に一瞬考え込んだが、続く秋津佐の声で引き戻される。
「パトカー要請するわよっ? 監視カメラにらめっこしてるんじゃあ
「ああ、頼む」
令が応えると電話が切れた。秋津佐も令とお喋りしていても意味がないことを承知しているらしい。
令もまた、今は会話などしていても意味がないことを理解していた。今は行動しかない。だが、その行動の為に必要なことを令は思考しだす。
(監視カメラに映らないのも……結局“答え”は一つなんじゃあないか? それは母親も言っている通り、光輝君が“人を避けている”からだ。元々人通りが少ない場所には監視カメラはほとんど設置されていない――。光輝君が人を避けた結果、自然と監視カメラに映らなくなってしまった。……光輝君が家を空けがちだったことも
令には既にその答えは推測という以上に、“真実”に思えていた。
(彼は、“巻き込まない”ようにしているんだ。誰かが自分の“巻き添え”を喰わないように……。――彼が殺人現場に顔を出したのも、犯行がハッピージョージの仕業じゃあないかと気になったが故か――)
光輝の行動の“理由”に辿り着いた令が目指す場所はひとつ。“人が少ない場所”だ。
だが、それは余りにも
令は十字路の三つの進路を見比べ、溜息を吐く。
辿り着く場所は、
※ ※ ※
住宅街の中を、パトカーが音を鳴らさずに回転灯だけを回してゆっくりと走っていた。
それも一台ではない。広い範囲で、十数台のパトカーが、同じように走っている。
車両に乗った警官たちは、道行く人たちをつぶさに観察していく。暗い町の中を幾つもの赤色灯がぼんやりと照らす、その異様な雰囲気に町の人間たちも気付いていた。至って静かではあるが、町には何処か緊張した空気が流れている。
そんな住宅街の外れ、人家からも離れた川のほとり、空き地というよりは荒れ地といった様相の土地の
そんな神社のちいさな
闇の中で、開かれた
それは――光輝であった。
ぼんやりと闇の中で光輝の輪郭が浮かんでいる。光輝は膝を抱え、ただじっと座っていた。社の中にはそばの川の流れがちいさく届いている。こうしていると心臓の鼓動も頭に響く。
息遣い、川の流れ、心臓の鼓動。
やがてその音の中に、ぱつぱつと、社の屋根を叩く雨音が混じる。遂に空が泣き出した。
光輝はただじっと、目の前だけを見ていた。
外はいよいよ闇となる。
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