7-6

 学生服を着た少年は、息を切らし、汗をびっしょりと掻いていることもいとわず、すぐに自室の勉強机に突っ伏した。

 カーテンは閉められ、明かりも点けられていない室内は暗い。

 少年は、自分の腕の中で目を見開いていた。息はまだ荒い。

 少年は口が腕で半ば押さえつけられる中、構わずに呟き続けていた。


「“アイツ”が……“アイツ”がやってきた……」


 少年はハッキリと震えていた。汗はまだ冷えていない。

 少年は震え続ける。同じ言葉を繰り返しながら。


「“アイツ”がやってくる……」



 ※ ※ ※



 少年が震えるその家の外に、ひとつの人影があった。

 その人物はパーカーのフードを目深に被り、顔に深い影を落としている。


 コンクリート塀に備えつけられた表札の名前は、『架金かけがね』。

 玄関の門扉もんぴの前でその人物はたたずみ、じっと一点を見上げていた。


 その視線の先にあるのはひとつの部屋。――“少年”の、自室。


 夕闇の中でその人物からは只ならぬ憎悪と、溢れんばかりの殺気が漏れ出ていた――。




 End


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