6-5
それはもうもうと広がって、幻影の森を巡っていく――。
その白煙が噴き上がる元には、なごみが居た。――その手に、赤い消火器を持って。
煙がやってくると、森はまるで煙に溶けるようにふわりと消えていく。
(煙に包まれちゃえば光の能力は邪魔されちゃうし、敵もこっちが見えなくなる!!)
なごみが思惑に描いていた通り、幻の森が、“収束”していく――。
だが、そこでである。
突如警報音が鳴り響き、なごみの頭上から“
それは――煙を感知して作動した、スプリンクラーが
「そ、そこまで考えてなかったあ!!」
なごみの前でみるみるうちに煙は中和され、幻影の森が姿を取り戻していく――。
その時。
「おい、一体どうしたんだ? マジで火事か?」
そんな声がホールに響き、さっきなごみが通ってきた廊下から――“
(さ、最悪のタイミングで
「ああっ? なんだこ――」
ホールが何故か森になっていることに気付いた外堂が、ホールに一歩足を踏み入れた、その瞬間だった。
休憩室でそうなったように、周りの景色がバラバラになる。
「司くん逃げ――っ」
なごみの叫びが終わる前に、ホール内に銃声が響く。
なごみの目の前に広がるバラバラになった景色の中で、幾つもの断片となった外堂が、その肩から血を噴き出して、後ろに倒れ込む。それはなごみにとって、スローモーションのように遅く感じられた。
どさりと、外堂が床に倒れる。
その瞬間、外堂は即座に“横”に転がった。
一瞬の間すらなく、外堂が今の今まで横たわっていた床に、“二発の弾丸”が撃ち込まれる。
転がった外堂は、やおらに立ち上がる。
なごみは少し涙を浮かべて外堂に向かって叫ぶ。
「司くんっ! 敵の攻撃なのっ!!」
「アア、なごみ、ちゃんと解ってるぜ……。大丈夫だ――もう“喰らわねえ”」
再び銃声が響く。
弾丸は空気を裂き、バラバラになった幾つもの断片を通り過ぎ、
――しかし、弾丸は心臓に向かっていたはずだが、何故か外堂はそれをいとも簡単にかわしていた。
まるですれ違う通行人を避けるかのように。
外堂は呟く。
「この傷も
外堂のくすんだ赤い瞳が、好戦的な輝きを見せていた。
そして背を丸めると、前傾姿勢で鋭く目を配らせる。それはまるで、獲物を探す肉食獣のようだった。
外堂の“右斜め上”で、なごみは逆さまの姿で心配そうにこちらを見詰めている。
「なるほどな。光の反射――いや“屈折”を操ってやがんのか。敵の姿が見つからねえ」
外堂はそう言ってから、不敵に口の端で笑ってみせる。
「――だが、能力さえ分かっちまえばどうってことはねえな」
肩から血を流してスーツを汚している外堂は、瞬きすらせずに視界の全てに意識を払っている。
その眼には、常人離れした集中力がある。
「来いよ。来ねぇならこっちから行くぜ?」
その言葉をきっかけにしたように、言葉が終わるのとほぼ同時に銃声が響く。
バラバラのホール内を再び弾丸が駆け巡る。
――しかし、外堂は目の前の“一点だけ”を見詰めていた。
何もない一点だけを見詰める外堂の目前に、突然弾丸が現れる――外堂の視線は動かない――。外堂の無防備な顔に、弾丸が喰い込んでしまう――そう思われた次の瞬間、外堂は消えていた。
そして消えたと思われた次の瞬間には、外堂は全く“別の場所”に姿を現していた。
バラバラになっているせいで本当は
その途端、弾かれて何かが物凄い速度で壁に叩きつけられる。
それと同時にバラバラになったホールの景色がテレビのチャンネルを切り替えたように一瞬にして元の姿を取り戻し、外堂は床に着地した。
外堂が視線を向けた先には――切れかけの電灯のように、姿が現われたり消えたりする、“器”姿の敵が居た。
人間の骨格はしているが、まるでミラーボールのように銀色の六角形が集合した頭部を持つその“器”の人物は、明らかなダメージを感じさせながら壁にもたれて座り込んでいる。
「弾道の“角度”さえ分かっちまえばテメエの居場所を見つけるなんて訳もねえ。ただ弾が飛んできた先に、まっすぐ行きゃあいいだけだ」
外堂は、その“器”姿の人物をギロリと睨む。
そのくすんだ赤い瞳には、確かな怒りが浮かんでいた。
「よくもなごみを怖がらせやがったな――!! さあ、トドメを喰らいやがれ!!」
外堂の目にも止まらぬ速さの蹴りの応酬が敵を襲う。
外堂が愛用するSCCA特製の革靴の踵には、一般的な“器”より遥かに“硬い”合金が使われている。
敵は抵抗することも出来ず、メタメタに蹴られて――ついぞその“器”を砕かれる――。
――と、外堂の目に飛び込んできたのは、“予想外”の光景だった。
砕け散ったそれは――明らかにホールに置かれていた観葉植物だった。
「なにぃぃ?!」
外堂は土を吐き出しながら砕け散ったそれを見て、瞬時に考えを巡らす。
そして間もなく“答え”を叩きだす。
(――本体は観葉植物の“後ろ”からオレを撃ってたんだ!! 敵は観葉植物を自分の姿に変えて、“身代わり”にしやがった!!)
外堂は瞬間的に、今自分が隙を見せていることに気付く。
そして危機を察知して背後を振り向いた――。
と、そこにはなごみが立っていた。
――それも、“二人”。
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