第四話『コンビニ強盗と大砲《ビッグキャノン》2』

4-1

 三方から迫りくる圧縮空気――そして、眼前の敵。



「テメエはもう何処どこにも逃げられねえ!! 此処ここがテメエのドン詰まりだ!!!」



 敵が高らかに雄叫おたけびを上げる。

 そこには絶対的に揺るぎない、勝利への確信があった。


 しかし、令は――令のたましいは、折れてはいなかった。


「いや、前進する!!」


 その言葉と共に令は、あろうことか


「自ら死に飛び込――」


 敵は令のその行動を揶揄やゆしようとしたが、発せられた言葉はそこまでだった。

 何故ならば敵は――突然 平衡感覚へいこうかんかくを失ったように、首を不自然にかたむけ、ぐらりとからだ。

 一瞬何が起きたか把握はあく出来ず、それから世界が均衡きんこうを失い歪んだのではなく、自らが倒れ地に伏せたことを理解した敵は、混乱する。


「ナッ、ナニィ?! バカな!! 俺はテメエに触れられてねえはずだ!!?」


 敵は必死に今までの戦いの流れを反芻はんすうするが、どう考えても接触なんてしているはずがない。

 令の力の使い方を考えれば、接触――それも“手”での接触が能力発動の条件であることは、敵も明白に理解していた。

 敵はなんとか必死に顔を上げて令のことを見ようとするが、それも叶わない。

 令は満身創痍まんしんそうい身体からだで、必死に何が起きたか解き明かそうとする地に這いつくばった敵を見下ろし、一言呟く。


「俺もお前と同じことをしたまでだ」


 令の言葉は一瞬謎めいた響きを持ったが、敵はすぐにその意味するところを理解した。

 “同じこと”とはつまり、“利用”したものが同じということ――。


「――“空気”か!! 空気は繋がってる――だからテメエは手元から空気を重く出来る!! テメエは! 俺の“頭上”の空気を重くしやがったんだッッッ!!!」

「正解だ。――消耗するから出来れば使いたくないけどな」


 敵は屈辱と怒りに満ちた唸り声を上げる。それは敵の断末魔の声か。

 令は敵を冷淡に見下ろした後、トドメを刺すべく、跳躍のために一度グッと足に力を溜め込み――そして地を蹴った。



「――テメエは必ずブチ殺す!!!」



 令が這いつくばる敵の背へ向けて跳んだ瞬間、そんな言葉と共に、目の前の敵が――“球体”となった。


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