3-6

 敵の言葉と共に砲弾が発射されるよりも速く、令は動き出していた。

 また敵の砲弾の軌道から逃れることに成功した。砲弾は令の脇をかすめていく――。

 距離があれば大砲を使われるが、その大砲自体は注意していればそれほど脅威ではない。


 ――そう、令が思った時だった。


 “破裂音”と共に、急に

 令の脇腹に、砲弾が食らいつくようにズシリと食い込む――。


「ナニィ?!!」


 令は一瞬混乱したが、攻撃を受けながらもすぐに原因に辿り着いた。


(砲弾と共に圧縮した空気を投げ、“破裂”の衝撃で弾道を変えやがった――!!)


 砲弾の威力は圧縮空気の破裂で軌道を変えられたことにより緩和されたようだったが、それでも令の“器”にダメージを与えるには十分だった。

 脇腹を中心として、令の身体からだに放射状にヒビが入る。


(ヤバい!! あと一発まともに喰らったら器が崩壊する!!)


 身体からゴトリと砲弾を落とした令は、手負いにも関わらず素早く移動する。

 ダメージを受けたからといって突っ立っていては、的にしてくれと言っているようなものだからだ。こういう場合“器”に痛点がないことに本当に救われる。

 令は必死に思考する。


(左腕であと一発はさばけるにしろ、後がない!!)


 令は出来るだけ敵から距離を取る。何かをされても十分に対応出来る距離まで。

 だが令が見詰める先で敵は間髪入れずに行動を続ける。

 敵は、何故なぜだか両腕を交互に振っていた。


 令は一瞬そのモーションに気を取られたが、次の瞬間 咄嗟とっさに身をかわした。

 それは精一杯の行動だったが、たちまち令の左腕が弾き上げられる。

 まるで突然クイズに答える為に手を挙げたように、令の左腕はその意思に反して上方に挙げられた。


(クッ――!! こいつ、圧縮空気をやがる――!!!)


 そう、令の左腕は、姿のない“圧縮空気”をぶつけられ、弾き上げられたのである。

 左腕にまで、わずかに亀裂が入る。


「コイツは威力こそ劣るが、目に見えない分避けずれェだろう!」


 敵の声が倉庫内に高らかに響く。

 敵は憑りつかれたように次々と目に見えない圧縮空気を令に投げつける。

 令は出来るだけ一か所に留まらないように動き続けることしか出来なかった。

 時に地を跳ね、時に宙へ飛ぶ。


(消耗戦に持ち込まれたら負ける……!! 次で決めなければ……ッ!!)


 令は敵の攻撃を避けながらも、徐々に敵との距離を詰めていった。

 慣れれば敵の攻撃の軌道は読める。敵の動きも機敏とはいえない。

 スピードを生かせば、敵のふところまではもぐり込める――。


 令は一度下に降りると、思い切り床を蹴り、一気に宙を駆け、倉庫の壁に“着地”した。

 そこは敵の死角。敵はまだこちらを振り向けない――。

 令は壁を蹴ると矢のように敵へと突進していく――。


 完全に敵には対応出来ない角度と速度。

 令の拳が敵を捉える――。



 そう思えた瞬間、姿



 破裂音と共に、敵が一瞬で


 それを見た瞬間、令は思い至る。

 敵の最初の攻撃――空中からやつが降ってきたのは――敵が、からだ!!

 圧縮空気で飛び、落ちてきた。それがやつの身体に似合わない俊敏さの正体。


 そして今も、そうだ。


 からぶった令の側面に――敵は居た。 

 顔を向けなくても分かる。

 敵はこちらにしっかりと狙いをつけている――。


「アテが外れたな――」


 敵の言葉の直後、破裂音が響く。

 それも、近距離で複数。


 令はその音の意味を瞬時に理解した。

 左右からの破裂音。そして上からも。

 それは無意味に空中で破裂させられた訳ではない。

 その破裂によって、

 さっき敵が砲弾でやってみせたことの応用だ。

 圧縮空気を破裂させて、“圧縮空気の軌道”を変えたのだ。


 ――つまり、今、“左右”と“上”から、圧縮空気が自分に迫っている。


 たとえ“斜め”という道を自分が選んでも、その瞬間敵は全ての圧縮空気を破裂させるだろう。

 そうなれば破裂の衝撃波が相乗し、令を押し潰す。


 目の前には敵の砲身。

 そこに“弾”は装填そうてんされていないが、最早もはや砲弾なんて必要はない。

 そこから圧縮空気を撃たれるだけでこの身体は砕けるだろう。


 後ろに引いてもその砲撃の軌道からはのがれられない。



 時はない。

 この選択が、未来を決める。



 End


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