3-2

 数分も追うこともなく、令たちはあっという間にコンビニ強盗犯の姿を見つけることが出来た。

 ちょっと高いところまで跳躍すれば、その姿はあまりにも見つけやすいものだった。

 ツタに絡みつかれた古い三階建てのビルの屋上から令は跳躍すると、犯人がえっちらおっちら逃げる背後に静かに着地する。


「ちょっと待っててな」

「はーいっ」


 まるでトイレに行くぐらいの感覚でなごみに言い渡して、令は犯人の背へ跳ぶと、空中からソフトにその背をトンッとタッチする。

 犯人は青天の霹靂へきれきでビクリと驚きながら背後をうかがうが、その頃には令は敵の真後ろに着地していた。


「こっちだよ」


 令は何処どこか呆れたように犯人に声をかける。

 犯人はその声に反応して振り向いた瞬間に、

 令の能力により、犯人はその手のレジが落ちるより速く地面へといつくばった。

 少し遅れてガシャンと犯人の背中にレジが落ちる。


「そのままじぃーっとな。すぐ終わるから」


 まるで歯医者のような物言いで、令は革のジャケットの内ポケットから式札を取り出す。

「ふ、ふべっ! ふべべっ?!」

 犯人は全く何がなんだか分からないといった様子で、ミシミシと不穏な音を上げていく。

 “器”に亀裂が入りだし、それは徐々に全身に渡っていく。

 令はなんとも詰まらなさそうに、“器”から魂が出るまでを見守っていた。


 亀裂が全身に渡り、遂に敵の“器”が終焉しゅうえんを迎える。

 “器”が砕け、犯人の魂が割った卵から出た黄身のように空中に飛び出してくる。


 令はその魂に向けて式札をかざそうとした。

 ――その時である。


 敵の魂が、突如


 一万ルクスもの電球が突然目の前にともったかのように、令の視界は完全に白色に奪われる。

 咄嗟とっさに目を閉じて手で顔をおおったが間に合わず、目を閉じていても白色が覆う。

 徐々にまぶたの内側に闇が戻ってきて、やっと令は恐る恐る目を開けて目の前を見た。


 ――しかし、そこにはもうコンビニ強盗犯の魂は、影も形もありはしなかった。

 犯人が残していった“器”とコンビニのレジだけが、そこには転がっていた。

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