第三話『コンビニ強盗と大砲《ビッグキャノン》1』

3-1

「――つまりは、出来損ないのオマエにも価値があったってことだ」


 その低音の声は底から響くように、そして至ってゆっくりと、重みを持って放たれている。


「いいか? この世界に良心なんてものはらねえ。ヒトのタマとらねえ奴は、自分のタマがとられるハメになる」


 その言葉はさとすような一面もあるが、その声の迫力からはどう好意的に聞いても脅しにしか聞こえない。


「オマエなりに金を集めてこい。……でなきゃクビだ」


 その声の裏には、期待めいた部分と、そして大いなる諦めが潜んでいた。



 ◇ ◇ ◇



「あー。パンうまかったなあ。もうちょい食べればよかったかな……」

「ダメだよっ! そしたら令くんひとりでぜーんぶなくなっちゃうでしょっ!」


 朝食バイキングのパンの話をしながら、令となごみは街を歩いている。

 昨夜の激闘などなかったかのように、二人の日常はあまりにものどかだ。

 いや、言ってしまえば昨夜の激闘すら、二人の“日常”なのだが。


「んー。じゃあコンビニでなんか買ってくか……」

「んもうっ。またエンジェルけんすいが上がっちゃうよ!」


 なごみの編み出した謎の肉体派天使のことはさておき、令はちょうど見つけたコンビニへと向かっていく。

 全国各地を巡っている令にとって、コンビニというものは何処どこでも馴染みのものに出会える一種の故郷のようなものである。当然のことながら令は各種コンビニのレギュラーメニューを記憶している。

 今日はどんなホットスナックを食べようかと令が思いを巡らせている中、束の間令の思考を止めるものが目に飛び込んでくる。



 ――一瞬、フルフェイスのヘルメットを被ったライダーかと思った。

 しかし、それがリヴァイヴによって創られた“器”であることを、令が気付かないはずもない。



「エッ?」

「え?」



 思わず出た令の声と、“器”の主の声が連続して発せられる。

 令が思わず声を出してしまった理由はといえば――突然にリヴァイヴ能力者と出会った為というよりも、そのリヴァイヴ能力者が、その腕にを抱えていることに起因していた。


「ウソだろ?」

「ひっ!」


 またも思わず令が漏らしてしまった言葉にたんを発してか、そのリヴァイヴ能力者はちいさな悲鳴を上げると走り出してしまった。重いレジを抱えて走るさまはエリマキトカゲのように足をダバダバ動かす間抜けなものだった。


 令はすかさずコンビニの中を覗き見る。

 コンビニの店員と目が合って、いつもはそこにレジが置かれているであろうスペースを令が指差し、次にレジを持ったリヴァイヴ能力者が去っていった方を指差すと、店員も無言で“ウンウン”とうなずく。

 令は片手で頭を抱える。


「マジか……。コンビニ強盗だなんてセコい犯罪を起こすリヴァイヴ能力者がいるなんて……!」


 それは令が知る中でもワーストスリーに入れていいほどショボい犯罪内容だった。

 店員を襲ったならまだしも、店員は傷ひとつ負っていない様子。

 店内も少し騒然としているくらいで、怪我人のひとりもいそうにはなかった。


「……とりあえず捕まえるか」

「う、うん! そうしよっ!」


 だいぶ気は乗っていない令はそう言って、今日もフリフリの服を着たなごみをお姫様抱っこで抱え上げる。

 そして手に持った荷物やらと一緒に、軽く跳躍すると大きな弧を描きながら街を跳んでいく。

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