第二章 ひとりぼっちの悪魔

暗躍


「よっこら、せっ!」


 数人分の幅しかない狭い通路に、高い声が響いている。ずるずると何かを引きずる音。壁に掲げられた切れかけのランプが、生白い少女の顔を照らした。

 日の光を知らないと言っても冗談に聞こえないほど、白い肌だ。一点の曇りもない。だが、今その肌には苦しげに汗が浮いている。


「おん、もいなぁ……」


 ずずず、と絶え間なく続いていた音は、やがて止まった。少女の手からほたりと袋が落ちる。その口から何か黒い塊がころころと転がり出ると、慌てて拾う。大事なもののようだ。安堵のため息。


「これは大事なものだからね。……7年越しの、悲願を、叶える……」


 少女は一度身を縮めると、ワッと開いて高笑いを始めた。


「アハハハハ! はー! おかしいなあ! もうすぐ人間みーーんな死んじゃうってのに、きっと、こんなこと、だーーれも知らないんだろうなあ!」


 数分もそうして笑った頃、少女はむせた。

 ゲホゲホと咳き込みながら俯くと、その場にどかりと座り込む。今しがた運んでいた袋の中から、黒い石をいくつも取りだした。


 それは紛れもなく、虹晶だった。

 虹化体の死体が変質してできる、トンデモ物質である。地上で生み出されるその全ては、破虹師が念に念をこめて回収しているはずだが──


 少女はその1つを地面の硬いところに置き、またもう一つを持って、カンカンと打ち付け始める。

 虹晶は互いの強度で削れ、少しずつ小さくなっていき、そのまわりには薄くはがれた鉱石がうずたかく積もり始めた。


「もう少し。もう少しで、できるからね。──見ててね」


 少女の目の中に広がる星が、きらりと瞬く。未来の明るさを信じて疑わないような、針の穴から天井を覗くような、そんな笑みを浮かべていた。

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