第3話

私は執念深くあたりを探した。どういうわけがこの夜は全く猫に出会えなかった。いつもはこれだけ夜の街を歩けば、野良猫の一匹や二匹はすぐに見つかるのだが。

どこかで猫の集会が行われているのかもしれない。昔、私が駆け出しだった頃にそういうものがあると元の所長が私に教えてくれてた。

「猫さんがさあ、こうゔぁーと集まっているんだよな。夜の空き地にさ。俺なんてもう、あれーっえ感じて固まっちゃってさあ。なんか神秘的な雰囲気でなあ」

「何してるんですかね猫は」

「うーん、大事な問題があるんじゃないの。縄張りとかさ、三味線屋が近所をうろついているから注意してくださいとか、なんかそういうの」

「あー」

元所長はそれから数年後、阿片中毒がひどくなり、私に事務所を譲って姿をくらました。

もう、不倫とかペット探しは嫌だよ、が彼の口癖だった。ホームズが好きでいつもワトソンを探していた。私と同様、今の時代にあまり役に立たない人間だった。

「俺は生まれてくる時代を間違えたよ、19世紀のイギリスに生まれたかった」

探しものが見つからないときは、彼のことをよく思い出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る