エピローグ 水面下の闘い
公園から病院まではバスで十分ほどだ。最寄駅から徒歩五分の所にあり、周囲には大きなショッピングセンターがあるので、彼女らは病院へ入る前にそこで見舞いの品を見繕うことになっている。
燈瑚の心は晴れやかだった。此度の一件で心の成長を遂げ、他人のために自分を犠牲にする自己満足の世界からすっかり足を洗うことができたのは、一番の嬉しい出来事だった。
事件をきっかけに知り合った新たな友人たちのおかげである。
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バス停までの道のりを、先頭に立って歩く燈瑚の数歩後ろで、青木と菅谷は声を落として言葉を交わしている。
「あーあ、友達だってよ」
頭の後ろで手を組みながら、不貞腐れたように菅谷が言った。
「ハハ、そうだね」
青木もなんだか声が沈んでいるようだ。
一体、二人は何に対して気を落としているのだろう。
事件は無事解決。両者の間にあった疑惑も晴れ、一度は敵を同じくした彼らに、どんな懸念があるというのだろう。
「……青木」
「何かな」
彼は
二人の間に流れる冷え込んだ気配は、これから始まる彼らの戦いの開幕を告げていたのだ。
「燈瑚は俺が貰う」
「……」
その言葉を聞くなり、青木は小さくため息をつく。
「そう言うと思っていたさ。けど、俺だってお前と同じだ。俺も燈瑚ちゃんに恋をしている。お前には譲らない」
「……」
「……」
男二人の激しいにらみ合い。
前方を歩く燈瑚の暢気な鼻歌が、初夏の陽気の下で晴れ晴れと響き渡る。
彼女はまだ気づいていない。己に向けられた二つの熱い激情に。
友人である彼らの心を、己が奪ってしまったことを、罪深くも自覚しないまま、この物語は終着地点へと向かっている……。
かくして、青木瞳、菅谷一郎の恋のバトルは、静かに幕を上げたのであった……。
おわり
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