権蔵からの報告
翌日。新戦組本部に、突如上原権蔵が来訪した。麗華と薫は、すぐさま権蔵を局長室へ通した。そこで権蔵は、今後に関する話があるとのことで、麗華と薫以下、新戦組組長、遊撃部隊司令官。陽炎の面々を集結するよう要請し、彼らは局長室へ集結した。
「あれ? 総次はどうしたんスか?」
未菜と共に場に現れた修一が、周囲を見渡しながら麗華に聞く。
「ごめんなさい。総ちゃんは夏美ちゃんと一緒に近くの総合病院に行ってるの」
「そうか。まだ左腕のリハビリが……」
それを聞き、権蔵は思い出すように言った。
「さっき終わって既に帰路についています。もう少しでこちらの戻られるので……」
「そうか。だが、一応始めておこう」
「宜しいのですか?」
急に話を始めようとする権蔵に戸惑いながら尋ねたのは鋭子だった。
「……既に沖田君には、南ヶ丘学園からの調査結果は知っている筈だ。これから私が話す内容を、ある程度察していると思う」
「では、もうお話ししてよろしいのですか?」
今度はやや心配そうに紀子が尋ねる。
「そうだな。始めよう」
そう言いながら権蔵は出されたコーヒーを一口啜ってから話を始めた。
「話は二つある。一つは私の関わることだが、来年度より、警察庁長官に就任することになった」
その発表に対し、一同は特に驚かなかった。対MASTER組織である大師討ちや、新戦組の設立を推し進めた張本人である以上、そのポストに就くのは予想がついていたからだ。
「まあ、元々警備局長職も、本来なら五年以上前に任を解かれていた。そしたら今度は長官への任命だ。そのまま退官と思っていたものだったから、少々驚いたよ」
「そんなことないわ。お父さんなら長官になれるって、思ってたわ」
微かに嬉しそうな表情でそう言う薫。
「ははっ。だが、私としても、承諾する理由はある。この七年近くで、警察や国家の腐敗が多く発覚した。それに伴って、私が長官に就任した暁には、徹底的な組織内部の綱紀粛正に取り組む予定だ」
「ようやく始まるんですね……」
安堵した様子の冬美。
「だが、私の代でそれが実現しきれるとは思っていない。長い年月をかけて行うべきことだ。私達は幸村翼のように、それを迅速に行うことは出来ない」
「お父さん……」
「そう暗くなるな。戦いに勝利した以上、これから先を行うには相応の責任と実行力が必要になる。勝ったからこそ必要なことなのだよ。今の私達にはな」
権蔵の表情は硬かったが、同時に決意に満ち満ちたものだった。
「それに、私の意思を継ぐ者は警察の若い者達にたくさんいる。改革の灯を消さないことが、これからの警察の未来に繋がるからな」
決意に満ちた権蔵の表情は、非常に力強かった。
「……就任、おめでとう。お父さん」
「「「「「おめでとうございます」」」」」
薫を始めとして、一同は権蔵に一礼しながらそう言った。
「しっかりと職務に励むよ」
周囲に向かい、権蔵は少々照れくさそうにそう言った。
「それで、もう一つの方は?」
「ああ。そちらの方が本題だ」
すると権蔵は、笑顔を改め、やや申し訳なさそうな表情になる。
「……昨日。内閣府で内々の会議があり、その結果を、私を含めたごく一部に知らせてくれた。沖田総次君の、今後の処遇についてだ」
「総ちゃんの、今後の処遇?」
麗華も不安げな表情で尋ねる。すると権蔵は深く深呼吸を一つして、こう告げた。
「沖田総次君は、公式記録上、戦死と言う扱いで、処刑する方向で決まりそうなのだよ」
「……え?」
「しょ、けい……?」
唐突なことに、麗華も薫も、そして一同も唖然となる。
「……上層部は恐れているのだよ。沖田君のあの圧倒的な力をな」
「圧倒的な力……」
哀那も、現実を受け入れられない様子でつぶやく。
「沖田総一や幸村翼を始めとした、人間の域を超えた力を持つ者を次々と討ち果たした彼の力を、上層部は見逃せなくなったのだよ。法律でも国家権力でも制御しようのない力を持っている彼のことをな」
重い口を開いたように、淡々と語る権蔵だが、その表情は悔しさと、国家上層部への憤りに満ち満ちたものだった。
「……ふざけんなよ……‼」
「修?」
「総次がいたからこの戦いを勝ち抜けたんだろっ‼ それなのに……‼」
激情をまき散らしたい様子の修一だが、未だに傷の影響で無理が出来ない為、徐々に力がなくなっていく。
「怖いからって、それだけの理由で、自分達に協力した奴を殺すなんて……‼」
そのまま全身の力が抜けてその場にへたり込む修一に、未菜は彼の背中をさすって宥めた。
「……君の言うことはもっともで、私も同感だ。だが……」
ここへ来て、権蔵は少々表情を変えながら話を続ける。
「……一人の役人としては、なまじ強大な力を持つ彼を恐れるのは当然だ。あらゆる脅威を悉く振り払ってきたその力が、我々に向いたらと考えると恐ろしいものだ。国家が今の彼を恐れるのは、その辺りが理由だ。強大過ぎる力は、平和な時代には無用の長物となるからな」
そう語る権蔵の表情は、苦々しいことこの上ない様子だった。
「……警備局長も、そっち側の人間スか?」
そこまで来て、修一は権蔵に視線を移す。
「……我々は時として、感情の身に動かされるわけにはいかない事態に直面することが多々ある。今回の件も、その一つだろう……」
「……何で、どうしてアイツばっかり、こんな目に……」
「澤村君の言いたいことも、そして君たちの思うことも有る程度は分かる。だが、彼の性格を多少なりとも聞いている私からすれば、恐らく沖田君がこの決定を聞いてもこう言うだろう。全ては自分の意思決定の果てのものだ、とね」
「それは……」
権蔵のその言葉を聞いて、薫は苦しげな表情になる。
「薫。お前が沖田君の力のみに注目して、無理やり組織に入れたことは知っている。だが最終的に組織に入ろうと思ったのは他でもない、沖田君自身だ。ここまでの力を得ようとは、露ほども思っていなかったようだが……」
「……沖田君が、承諾するかどうかは全く……」
「だからこそ、彼にこの話をしに来たのだよ」
権蔵がそう言った瞬間、局長室のドアが開いた。
「遅くなりました。皆さん」
「ごめんなさい。遅れちゃって……」
それは病院から帰ってきた総次と夏美であった。
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