第9話 男の意地
「おいでなすったか……慶介っ‼」
「おめぇらっ‼ 一気にいくぜぇ‼」
イヤホン越しに尊の合図を受け、味方と共に猛烈な勢いで闘気の光線を新戦組に叩きつける慶介達。
「うぬっ‼」
大通り一面に襲い掛かる光の雨あられに戸惑う助六。
「兄貴っ‼ こいつの射撃は馬鹿になんねぇっスよ‼」
「沖田総一の時に見たが、ここまでとは……‼」
かつてのことを思い出しつつも、実際に戦って初めて慶介の射撃能力に感嘆の言葉を漏らす助六。
「かわすのは多少大変ね……」
愚痴りつつ、光の弾丸の雨あられをひょいひょいとかわす鋭子。言葉とは反対に、総次以上の回避能力は、相変わらずMASTERにとって脅威的であった。
「新選組モドキの馬鹿力野郎か。将也も手こずった奴だっ‼」
「分かってるっ‼」
慶介の忠告は尊も承知済みだった。将也から「自分と力で互角に渡り合った数少ない一人だ」と聞かされていたからだ。
そこで修一はカットラスに風と雷の闘気を纏わせ、機動力を上げつつ突撃を掛けた。
「あの馬鹿力野郎とくノ一は慶介達に任せるっ‼」
「だったらお前はあのカットラス野郎を潰せっ‼」
尊の提案を飲みつつ、慶介は味方を率いてその場から離れた。
「兄貴っ‼ 鋭子さんっ‼ 連中を任せるっス‼ ここは俺達がっ‼」
「分かったわっ‼」
「承知っ‼」
鋭子と助六も、尊に挑みかかる修一の提案を受け入れて慶介達を追った。
「これでタイマンだなぁ‼」
風の闘気を纏う偃月刀を振るい、一直線に向かってくる修一を迎え撃つ尊。
「おらぁ‼」
「ふんっ‼」
激突する修一のカットラスと尊の偃月刀。風の闘気同士の激突で発生した突風が、大通りに吹き荒ぶ。
「中々だなっ‼」
「スピードは総次には及ばねぇが、なっ‼」
修一はそのまま左手の雷を纏うカットラスで更に追い詰めに掛かるが、尊は海老反りでかわし、修一の足元を薙ぎ払いをかける。
「危ねぇ‼」
修一は低く飛び上がってかわし、更に右手のカットラスで尊の頭に斬り掛かる。それを尊は偃月刀の峰で受け止めて修一を上空へ弾き飛ばし、更に上空を薙ぎ払った。
「まだまだだっ‼」(大陸流・疾風青龍斬‼)
発生した半月状の風の刃が空を斬り裂き、猛烈な勢いで修一に迫る。
「おらぁ‼」
修一は力任せにカットラスでそれを叩き潰すが、衝撃と爆風で後方へ吹き飛ばされた。
「くそっ‼」
悔しがりながら着地する修一だが、二十メートル程度の間合いが二人の間に出来ていた。
「予想以上だな」
「新戦組本部の力を舐めんなよっ‼」
自信満々に宣言する修一。本人としては真や総次という傑物には及びもつかないと自覚しているが、二人と共に戦い、生き延びてきた自負があり、それが自信にも繋がっていた。
だがそれは尊とて同じだった。
「俺だって、これまで翼と一緒に戦ってきた。お前らは知らねぇだろうがな」
「幸村翼か……」
その名を聞き、修一はふとあることが気になった。それは本来的に向ける感情ではないが、凡百な敵とは一線を画する彼のことを考えると思わざるを得ないことだった。
「……幸村翼が正義の人ってのは総次の話だけじゃあ信じきれなかったが、ここ最近のやり方で本当だってのは分かった」
「何が言いたいんだ?」
突然の修一の発言に驚き、問いかける尊。
「お前らの眼が、俺達が今まで戦ってきたMASTERの構成員とは違う。絶望とか憎しみとか、そんな後ろ向きなものが全くねぇ。前向きで、希望を手にしようとしてる」
「それが?」
「……あんた達にとっての幸村翼ってのは何だ? 英雄か? 救世主か?」
そう尊に尋ねる修一。これこそ、修一の最も気になっていたことである。
「……同じ志を掲げる同志だ」
偃月刀を肩に掛けながらぶっきらぼうに答える尊。
「お前らの志ってのは、警察や検察の力をフル稼働させて、全ての悪を滅ぼすことか?」
「それだけじゃねぇ。全ての企業、全ての組織が、少なくとも向こう数年はそうさせないと無理だ。これからの日本を立ち直す第一歩としては、それが必要だ。人がまだ、現実に絶望しきってないなら、そうするべきってことだ」
「お前が考えたことか?」
「まさか。翼ですら考えがつかなかったことだ」
「幸村翼が思いつかなかっただと?」
「うちには翼を支える優秀なブレインがいるからな」
尊の発言は修一はやや驚かされたが、その余裕を与えず、尊が偃月刀を振るって再び仕掛けてくる。
「お前らからすれば、翼が俺達にとっての神とか救世主とかに見えるだろうな。あの演説といい、そう誤解する連中は多い」
「じゃあ、お前らは違うのか?」
「少なくとも、なっ!」
カットラスで尊の攻撃を捌きながらの修一の質問に、大振りの一撃と共に答える尊。
「あいつは俺達の中で最も正義感が強い、そして俺達はあいつの正義を信じて戦っている。だがなぁ‼」
そこから更に猛攻を掛ける尊に、修一は防戦一方になる。
「このぉ‼」(疾風迅雷‼)
それでも修一は十八番の疾風迅雷で尊の苛烈な攻撃に対抗し始める。だが尊の余裕な表情は崩れることはなく、修一の質問に答え続ける。
「アイツは俺よりも四つも年下だ。まだまだ人間が出来上がりきってねぇ。未熟で、危なっかしいガキだ。だから俺達がしっかりと足元を支えねぇといけねぇんだっ!」
カットラスをいなし、そこから隙を付いて修一を上空へ蹴り飛ばす尊。
「このぉ‼」
空中で態勢を整えながら何とか着地する修一。
「じゃあ、幸村翼が道を誤ったら、その時はどうするつもりだ?」
そう尋ねる修一だが、なんとなく、答えは見えていた。
「俺達が力づくでも光の道へ戻してやる。両手足の骨をへし折ってでもな」
力強く答えた尊に、修一は納得した。そして同時にある種の羨ましさも抱いていた。
「……幸村翼ってのは、いい仲間に恵まれてるな……」
それは修一にとって、自分達では簡単に得られない
「随分と、大師様を評価するな」
修一の言葉に意外そうな表情になる尊。
「……俺達は、お前らみてぇに御大層な正義ってのは持ち合わせてねぇ。正直、羨ましい」
カットラスを握る手の力が、翼への羨ましさと悔しさで強くなる修一。
「それでも、お前が俺達を相手にする理由は?」
尊の質問に、修一は答えに窮した。こんな時、分かりやすい悪役が相手であればそれらしい反論が出来る。だが幸村翼を相手とすると、それに相応しい言葉も感情も見つけにくい。
「それは……‼」(疾風迅雷‼)
だからこそ、修一は再びカットラスを振るって尊に突っかかる。
「真正面からかっ‼」
力強く、そして重い修一の攻撃を、尊の偃月刀が防ぎ、そしていなす。それでも修一の攻撃は決して緩むことはなかった。
「大切な人と一緒に居たい‼」
更に強烈な一太刀を、尊の頭上に浴びせる。
「おらぁ‼」
偃月刀の峰で受け止め、そしてそのまま後ろに押し込んだ尊。
修一は持ちこたえ、その場に力強く踏みとどまった。
「それが、今の俺の戦う理由だ……‼」
未菜との愛を守りたいという思いを力にし、再びカットラスをを振るって突撃する修一。
「お前らの正義に比べれば、ちっぽけなスケールの話かもしれねぇけど、これが俺の戦う理由なんだっ‼」
それを証明するように、修一の攻撃は激しくなっていく。
対する尊は、そんな修一の本気を感じ取ったのか、本気の表情になった。
「……これまで俺達が戦ってきた連中に、どんな理由であるにせよ、中途半端な覚悟を奴はいなかった」
そのまま修一の斬撃を刃で受け止め、その勢いと反動で一気に修一を向こう側へ弾き飛ばした。
「俺も同志達も、皆アイツが切っ掛けで赤狼に入った。そしてあいつの力になりたいと力を尽くした。これまでも、これからもだ。それに、アイツの至らねぇところは俺達が補わねぇといけねぇんだ」
風を纏っていた偃月刀は雷の闘気へ切り替わり、激しい轟音を轟かせ始める。
「この戦い、どれだけ勝ちたいと強く思えるかが勝負を決める」
「……そうみてぇだな……‼」
修一もまた、左右のカットラスを纏う闘気量を上げる。
「「……行くぞっ‼」」
覚悟を決め、風の如く突っ切り、刃に闘気を纏わせて激突する二人。
「はぁ‼」
鋭く、力強い斬撃を修一が先制して繰り出し、それを尊は偃月刀の刃で弾き、柄尻で修一の顔面に殴打を加える。
「ぐあっ‼ このぉ‼」
負けじと修一ももう片方のカットラスで尊の頬に切りつける。
「くっ‼」
頬からの流血しつつ、修一の猛攻へ対抗する尊。
(これが幸村翼の腹心の力。マジですげぇや……‼)
尊の力と意地を肌で感じる修一は、額から冷や汗が流れていることを始めて自覚した。
(だけど……‼)
同時に、絶対に負けられないという思いが、彼の闘気出力と量を増大させた。
「オラララァァア‼」(驚天動地‼)
それは切り札・驚天動地の発動へと繋がり、極めて苛烈で、そして力強い連撃で一気に尊を追い詰めにかかる。
「ぐっ‼ なんて力だ……‼」
修一の意地に追い詰められる尊。既に修一の力は、過去のデータを凌駕していた。
「だったら……」
すると尊は修一の攻撃と攻撃の間に、風と雷の闘気を更に開放し、偃月刀全体に纏わせ、修一の驚天動地を受け止めた。
「なっ……‼」
「俺も、負ける訳にはいかねぇな‼」(大陸流・
叫びと共に解放された二つの闘気が、周囲を吹き飛ばす。
「あれは、まさか尊様の最終奥義っ‼」
「神龍光来……遂に開放するのか……‼」
周囲の尊の部下達が一様に士気が上がる。尊の最終奥義・神龍光来は、赤狼にとって尊の最強の技であり、名前でしか知らない技だったからだ。
「人前で使うのは久々だな……」
懐かしむようにつぶやいた途端、尊の偃月刀を素早く、そして大きく振りかぶる。
「仕方ねぇ……‼」
顔から多量の汗を流しつつ、両手のカットラスをクロスして構える修一。
「遅ぇよぉ‼」
大きく振り下ろされた偃月刀がアスファルトに激突した瞬間、雷を巻き込んだ暴風が、轟音と共に巻き起こる。
「ぐあぁ‼」
「吹き飛ばされるなぁ‼」
踏ん張る隊員達と警察官達だが、その大半は前方から猛烈な勢いで吹き荒ぶ風の闘気に斬り刻まれ、雷の闘気で感電死してしまった。風と雷の竜巻は、そのまま周囲のビルを抉りながら突き抜け、やがて巨大な爆発を巻き起こした。
「……どうだ……‼」
しばし爆風が吹き荒れた後、尊は大通りの前方を部下達と眺める。
「ぜ、全滅ですかね……」
「尊様の奥義なんだ。立ってる奴なんて……」
尊の勝利を確信する赤狼の同志達。だが、尊だけは違っていた。
「いや、どうやらいるみてぇだな……‼」
その言葉通り、はるか遠く、抉れたアスファルトの上に、風と雷の闘気を纏わせたカットラスをクロスさせ、全身から風と雷の闘気を放出させる修一の姿があった。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をする修一に、赤狼の同志達は我が目を疑った。
「ど、どうして……⁉」
「尊様の神龍光来を耐えただと……⁉」
仁王立ちする修一の姿に驚愕する同志達。最も、修一は無傷ではなく、むしろ全身をズタズタに斬り裂かれ、隊服は鮮血で染まっていた。
「兄貴、これは……」
「驚天動地……」
それは紛れもなく、澤村修一の切り札「驚天動地」だった。
「六番隊っ‼ この隙に突撃だぁ‼」
傷だらけになりながら、修一はありったけの力を振り絞って味方と共に同志達へ突撃を掛ける。
「くそぉ‼」
「どうしてなんだっ‼」
「奴は不死身かっ⁉」
執念と共に同志達に突撃し、味方と共に次々と同志達のくっきゅうを上げていく修一。
応戦する同志達はそんな彼に戸惑いと恐怖を覚え、対応は後手に回り、ただ味方の屍を重ねるばかりの赤狼。
「負けるかぁ‼」
あっという間に同志達の群れを突破し、一気に尊に襲い掛かる修一。
「ちぃ‼」
舌打ちしつつ、二つの闘気を纏う偃月刀で受け止める尊。
すると尊は、修一の全身に微かに迸る風と雷の闘気を見て何かを察した。
「全身から闘気を放出して、それをクッション代わりにダメージを緩和したのか……‼」
「自分の必殺技に助けられたぜ……‼」
尊の指摘をその言葉で肯定した修一。修一は尊の神龍光来を食らう瞬間、驚天動地の発動過程で発生する全身からの闘気放出で、被ダメージを可能な限り軽減していたのだ。
「闘気の攻撃には、闘気である程度和らげることが可能。だが、それをこんな土壇場で実行するとは……‼」
「言ったはずだろ、俺も命懸けだってなぁ‼」
決意と共に、一気に尊を押し込む修一。
「くそっ、力が……‼」
「さっきの技で、体力と闘気を消耗したようだな……‼」
修一の指摘に、尊は反論できなかった。
「それでもなぁ‼」
反論できなくとも、気合と気迫の力技で強引に突破しようとする尊。
「ぐっ‼」
足腰に力を入れる修一だが、同時に足の傷から多量の血が噴き出る。防いでも命拾いしたのみで、腕も足も既に限界だった。
「こんのぉぉお……‼」
痛みを堪えながらも、尊の押し込みに対抗する修一。
「もうお終いだぁ‼」
勝機とみて、尊は全身の力を振り絞って止めを刺さんとする。その瞬間だった……。
「……んああぁらああぁ‼」
なんと修一は一歩、また一歩と尊を押し返し始めたのだ。
「こ、こいつっ‼ まだこれだけの力が……‼」
意地と執念で自分を押し込む修一に、猛の表情は愕然と畏怖に染まる。
「おらぁああ‼」
そして修一は一気に尊を押し込み、体勢を崩す。
「ぐあっ‼」
「あああああぁ‼」
瞬間、修一の右手のカットラスが、尊の偃月刀の柄を斬り裂いた。と同時に、修一の右腕が闘気放出限界を超え、破裂してしまった。
「行っけぇぇえ‼」
それに構わず、更に左手のカットラスで尊の胸部の中心を貫く。
「ぐはっ……‼」
尊が吐血する、直後、修一は最後の力を振り絞って尊を押し込み、そのままカットラスごと吹き飛ばした。
「ぐあああっ‼」
「うあああっ‼」
凄まじい勢いで吹き飛ばされる尊に、その延長線上の同志達も巻き込まれ、全身をバラバラに斬り裂かれて果てた。闘気を纏い、尊を貫いたカットラスは、そのまま五百メートル先まで飛び、そしてその場所で巨大な爆発を巻き起こした。
「ううっ‼」
「何て威力だ……‼」
あまりの爆風に驚く隊員達。それもそのはず、この時放った驚天動地は、これまでの同じ技とは思えない程の威力を持っていたからだ。爆風が晴れた後、その場には尊の肉体の欠片しか残っていなかった。
「そ、そんな……」
「尊様が、負けた……?」
尊の死を受け入れられず、茫然自失となる同志達。
「この機を逃すなぁ‼」
「「「「「オオオオオッ‼」」」」」
好機と見た新戦組と警察は、一致団結してその状態の同志達へ一気呵成に攻め立てた。
「くそっ‼ 引けぇ‼」
不利と見た同志達は、そのまま一目散に大通りを後退していった。
「兄貴っ‼」
そのどさくさに紛れ、数人の隊員達が修一に駆け寄る。
「ぐ、ぐふっ……‼」
吐血しながらも、修一は隊員達に左腕を上げて無事を伝える。
「すぐにこっから離れて、医療班を呼ぶんだっ‼」
「俺達が兄貴を担ぐっ‼」
全身から力が抜けて動けなくなった修一を、隊員達はゆっくりと担ぎ上げて安全な場所まで後退を始める。
「み、な……」
「兄貴?」
担がれている修一が、ふと何かをつぶやき始めた。
「……俺は、生きて、いる、ぞ……」
そうつぶやくや否や、修一は静かに瞳を閉じ、微かな寝息を立てながら意識を手放した。
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