第8話 不知火尊
別の大通り付近に駐屯している修一達に、敵襲の報告が来たのは三十分後だった。
「敵は一体、どんな連中か分かるっスか⁉」
食い入るように支部の情報担当者に尋ねる修一に、彼はこう言った。
「推定総数は三千人。敵は薙刀を振るう男と、二丁のマシンガンを構えた男です。先頭を切っている二台のトラックの後方に、二人の姿が確認できました」
「あいつらが……‼ ってことはまさか……」
「早くも、敵討ちってしゃれ込んできたか……」
そこへ不肖療養中の翔が、同じく手当されたばかりの清輝と共に入って来た。
「お二人共、まだ安静にしてないと……」
「心配すんな。俺達は戦いには出れねぇが、もう手の空いている組長連中に話は通してんだろ?」
「確かに、助六の兄貴と鋭子さんが部隊を率いてきてくれるって気いたっスけど……」
「到着はもうじきだったな。なら俺達に出来るのは、それまでの間に準備を整えとくだけだ。そうだろ?」
翔にそう言われた修一はその通りと首を縦に振った。
「失礼します。剛野助六様と、霧島鋭子様がお見えになりました」
「来たか、通してくださいっス!」
修一の指示を受け、支部長は二人の部隊を受け入れた。そのまま助六と鋭子は自信が率いてきた隊員達に休息をとるように指示を出し、修地位の下へ駆けつけた。
「修一殿、敵襲でごわすな?」
「それも、この大通りにね」
「そうっス。いま近隣の警察署と支部に、近辺の警備と並行して、手の空いている警察官と隊員達で構成してくれたっス!」
「そういうでごわすが、肝心の数はどうなっているのでごわすか?」
「それはこちらにあります」
そう言いながら情報担当者がおもむろに手にしていたタブレット画面を意地って、ある画面を見せた。
「おおよそ五千人は集まるでごわすな」
「それなら何とか安心だけど、話だと、あのマシンガン男にあなた達はやられたようね」
「あの時は近接戦闘での力で化けものじみてたやつがいたから、手こずったが……」
「そう言うのは言い訳になるのよ? その辺りは少しくらい気を使いなさいな」
鋭子は相変わらず肝心なところでずぼらになる態度でそう言いい、修一は態度を改めた。
「すいませんっス。それにしても、薙刀使いって確か……」
「ええ。話しだと、この間の港区の警察署襲撃の時にいたみたいっスね。たった一部隊で警察署を陥落させた……」
「うむ。そう考えて間違いないでごわすな」
そう言って助六は答えた。
「前の大男と違って、力の方ではある程度俺達でも対応できるかもしれないっスけど、スピードがあるって聞いてるっスから、その辺りをどう対処するかがカギにありそうっスね」
「マシンガン男も、恐らく敵討ちの為にかなり力を入れてくると考えていいわ。そうなった相手を制するのは一筋縄ではいかないわ」
そう言って鋭子は警戒心を露にする。
「それがし達の部隊は既にいつでも出撃できるでごわす。修一殿の方は?」
「俺も大丈夫っス。とにかくそろそろ出撃しましょうっ!」
修一の発言に二人は同意した。
「じゃあ、こっちの方はお願いしますっス!」
「了解しました‼」
そう言いながら修一は助六・鋭子と共に支部を出る準備を始めた。
「修一様。既に警察と支部の部隊が既に防衛線を敷ける状態になりました」
「よしっ。彼らには俺達に先行して防衛網を敷いて、敵の迎撃をお願いしますっ‼」
「了解しましたっ‼」
修一の指示の下、情報担当者はすぐさま各警察署駐屯部隊と新戦組支部隊の出撃要請を掛けた。
「これで敵の進撃が多少なりとも早かろうと、ある程度の時間稼ぎが出来るでごわそう」
「本心ではそれに留まってほしくないけど、いまの敵とのパワーバランスを考えれば、それが出来れば上出来ね」
未だ力関係の上ではMASTERと新戦組との間に大きな差があると位は言え、それなりの修羅場を乗り越えた彼らであればという信頼もあった。
⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶
大通りを進撃している尊達MASTER第一部隊の面々は、無数の大型トラックでフルスピードで駆け抜けていた。
「いいかっ‼ 首都機能を俺達の手にし、翼がこの国の頂点に立てば、あいつの望む光り輝く世界と、その先にある俺達の未来が待ってる‼ あと一息だっ‼」
「「「「「オオオオオッ‼」」」」」
戦闘のトラックの荷台に乗っている尊の号令に、慶介を含む第一部隊の同志達が歓喜の声を上げる。
「尊様、ご報告です。警察部隊と新選組モドキの敷いた防衛線に、間もなく到着します」
「……今回は俺が口火を切る。お前はある程度敵の足並みが乱れたところに追い打ちを掛けろ」
「尊……」
「将也とお前の連携は、俺には真似出来ねぇ。だから、俺なりのやり方に付き合ってもらう。気を悪くするかもしれねぇけど……」
「協力するぜ」
慶介は勿論と言わんばかりに即答した。
「将也の仇を討って、それからの道を歩くことが出来るんだったら、俺はどんなことでもするぜ……‼」
「……俺達が先に仕掛ける。お前は俺の合図で砲撃を開始してくれ」
そう言って尊は微かに笑みを浮かべ、再び真剣な表情に戻った。
「間もなくですっ‼」
そう言った運転手の言葉通り、警察部隊と新戦組が敷いた、分厚く、そして精強な防衛部隊が、大通りを埋め尽くしていた。
「全部隊っ、MASTER部隊へ一斉……」
「第一分隊っ‼ 俺に続けぇ‼」
警察官の命令が下る直前に、尊が号令し、同志達は一斉にトラックから飛び降り、そのまま警察官達に猛々しく突撃した。尊も得物の偃月刀に風の闘気を纏わせ、彼らの先陣を切って駆け抜けた。
「なっ……‼」
「ビビってる暇があるのか?」(大陸流・疾風青龍斬‼)
警察官達に突撃しつつ大きく薙ぎ払われた尊の偃月刀が、半円状の鋭い風の刃を形成して前方の敵を一瞬でに斬り刻んだ。
「ぐあっ‼」
「ぐへっ‼」
全身を斬り刻まれて絶命する敵の群れを駆け抜ける尊。切り開いた死体の道を駆け抜け、敵の反撃の隙を与えることなく突き進む第一分隊。
「くっ、こちらの指示よりも早く動くとは……」
「先手必勝を喫したつもりが……‼」
「狼狽えるなっ‼ 何としても足止めするんだっ‼」
予想以上の敵の猛攻に戸惑う警察官達。しかし決して諦めず、足止めの為に闘気を込めた銃弾を次々と撃ち込み続ける。
「慶介っ‼」
「おっしゃあ‼」
慶介がマシンガンを乱れ撃ち、呼応して第二分隊もボウガンを撃ちまくる。
「助かるぜ、慶介」
そのまま尊は敵中で偃月刀を振るい、警察と新戦組隊員達の肢体を悉く斬り刻む。同志達もそれに続き、刀や鉈に闘気を纏わせて応戦する。
「まだまだだぁ‼」
敵味方入り乱れる乱戦状態に、警察の足並みが微かに乱れ始める。それに気づいた新戦組隊員達がその隙を補うように奮戦する。
「やるな。流石に生き残った連中だ。だが……‼」
尊は飛び上がると、雷の闘気に切り替えた偃月刀を大きく振りかぶる。
「その程度じゃ崩れねぇぜ」(大陸流・青龍轟雷撃‼)
空中で身体を回転させながらの鋭く重い斬撃は周囲の敵を薙ぎ払い、その衝撃で尊を中心にクレーターが出来る。
「このっ……‼」
「この状態じゃあ、簡単に武器を振るうことは出来ねぇな」
四方八方を囲まれた側の尊は余裕な態度を見せる。
本来なら尊は不利な状況下にあるが、一対多数でも対応できる実力の持ち、集団で挑んでも圧倒される彼らの力の差が、その無謀な突撃を可能にしていた。
「動かねぇなら、こっちから行くぜっ!」
恨めしそうに自分を睨むだけの敵に余裕を見せつつ、尊は風の闘気を纏わせた偃月刀を豪快に振るい、縦横無尽に動揺したまま動くことが出来ない敵を薙ぎ払う。
「包囲殲滅はかえって危険だっ‼ 距離を取って……‼」
「そうさせるかよ‼」
慶介達が尊への援護射撃を行う。光の闘気が込められた無数の弾丸と、味方の闘気を込めたボウガンの矢が、尊達の背後から敵に襲い掛かる。
「新戦組は接近戦に持ち込めっ‼ あの薙刀男のおまけを減らすんだっ‼」
抵抗する警察。新戦組も尊の周囲の同志達に突撃し、激しい攻防を繰り広げた。
闘気を使い、そして翼と赤狼七星と言う猛者達と共に鍛えてきた同志達の腕は、実戦経験こそやや少ないまでも、実力は確かである。だが警察と手それは同じであった。
「同志達をおまけ扱いか。随分と舐めてくれたなっ‼」
偃月刀を豪快に振るい、風の闘気を拡散させながら敵を悉く薙ぎ倒す尊。その勇猛果敢ぶりは、流石八坂と並ぶ赤狼七星の双璧と呼ぶに値する活躍だった。
「もう怯む必要はねぇ‼」
そこへ新戦組本部六番隊組長・澤村修一の部隊が助六・鋭子の部隊と共に大通りを駆け抜け、赤狼に迫りくる。
「澤村組長だっ‼」
「剛野組長と霧島組長もいるぞっ‼」
本部メンバー登場に一気に士気が上がる警察と支部メンバー達は、そのままに苛烈な攻勢をMASTERに畳みかけ始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます